落胆がつかり)” の例文
旧字:落膽
うだ、んだとへば、生死いきしにわからなかつた、おまへ無事ぶじかほうれしさに、張詰はりつめたゆるんで落胆がつかりして、それきりつたんだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
落胆がつかりして家を出て、急足はやあしで何時もの酒屋に来て見れば、これもうしたか消えて仕舞つて、その代に大きな、古びた、木造りの家がありました。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
サモ落胆がつかりした様に言つて、『然しです、何か理由が、被仰おつしやるからには有らうぢやありませんか? それを話して頂く訳にいかないんですか?』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
往つてみると、伯耆にも色々山はあつたが、二人が平素ふだんき馴れてゐるやうな珍らしい山は一つも無かつた、二人は落胆がつかりして今一つの方へ出掛けた。
そして、落胆がつかりして、悲観してゐる欣之介に対してもむしろ「君などは身体がいゝんだから、これからだつて何をしようとも好きだ。」と云つてうらやましがつてゐた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
「いや俺のは小さいんだ、胴の太さは直径五寸位ひのもので好いんだ。」と私は、落胆がつかりしながら性急に答へた。私は、あれと同じ説明を何処ででも返つて求められたのだ。
鱗雲 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
再び驚いたが、もう落胆がつかりする勇気も無い。私はつか/\とその店頭へ歩み寄つた。
岬の端 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
家の中がにぎやかだつたが、せがれ——孫の父親——の嫁が去年病死してから、伜は非常に落胆がつかりして、神経衰弱で寝てゐると云つて私に会はせない、それが私にある疑問を抱かせずにおかなかつた。
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
お峯は車より下りて开処そこ此処と尋ぬるうち、たこ紙風船などを軒につるして、子供を集めたる駄菓子やのかどに、もし三之助の交じりてかとのぞけど、影も見えぬに落胆がつかりして思はず徃来ゆききを見れば
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
晴代は落胆がつかりしてしまつたが、遊ぶ金だけはこしらへるものだと感心した。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
いかにも落胆がつかりしたやうな様子し乍ら、奥様は丑松の前にすわつた。『斯様こんなことになりやしないか、と思つて私も心配して居たんです。』と前置をして、さて奥様は昨宵ゆうべの出来事を丑松に話した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
御金おかねは、彼所あすこぢやいたゞけないのよ」と云つた。三四郎は落胆がつかりした。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と、弥生夫人は落胆がつかりしながら、好奇心を湧きたゝせた。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
信吾の帰つた後の智恵子は、妙に落胆がつかりして気が沈んだ。今日一日のおのが心が我ながら怪まれる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼は落胆がつかりして吐息をついた。持つてゐたくはが彼の手から滑り落ちて、力なく地べたに倒れた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
はあ、よもや、とはおもふたが、矢張やつぱなまづめがせたげな。えゝ、らちもない、とけて、また番人ばんにんぢや、と落胆がつかりしたゞが、ばんもう一度いちどく、とつともよるけても、何時いつもかげうつらなんだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その男を送出して室に帰ると、後藤君は落胆がつかりした様な顔をして、眉間に深い皺を寄せてゐた。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「あゝ、らちあかぬ。」とつぶやいて落胆がつかりする。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、お定は今の素振を、お八重が何と見たかと気がついて、心羞うらはづかしさと落胆がつかりした心地でお八重の顔を見ると、其美しい眼には涙が浮かんでゐた。それを見ると、お定の眼にもにはかに涙が湧いて来た。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)