船室ケビン)” の例文
我慢できぬほど猛烈もうれつに、起ってきて、ぼくは教わったばかりの船室ケビンにもぐりこみ、思う存分、笑ってから、再びデッキに出たのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
私達が深谷氏の船室ケビンへはいると間もなく、海に面した丸窓の硝子ガラス扉へ、大粒な雨が、激しい音を立てて、横降りに吹き当り始めた。
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
私たちは、早速に船室ケビンの浴槽で、身体を温めて、さばさばした浴衣の着流しで、テーブルむかい合った。それから間もないことであった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
で、また甲板を横切って突然傾いた帆の下桁をくぐり抜けながら、船尾へ走って行って、船室昇降口の階段を下って船室ケビンへ入った。
パアシング将軍は態々わざ/\立つて、その士官の船室ケビンに訪ねて往つた。士官は船酔の果てが、枕につかまつて頻りとむさい物を吐いてゐた。
殆ど毎日終日船室ケビンの中に引きこもっていたのですが、その間に僕は幾度となく密かにその牌を取り出しては眺め入りました。
象牙の牌 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
またわたくしがこれまで漫遊中まんゆうちう失策談しつさくばなしなどをかたつてかせて、相變あひかはらずかしたので、夫人ふじん少年せうねんをばその船室ケビンおくみ、明朝めうてうやくして其處そこつた。
ちょうど上海シャンハイを出る間際に王君の店から電話がかかって、君の事を頼んで来たからね。とりあえず僕の船室ケビンに案内するように命じておいたんだが……ドウかね。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
眺める通路の中ほど太子の船室ケビンと覚しきあたりには、見るから憎々しいあから顔の大兵だいひょうな英人二人がこちらを眺めながら平服の腕を組んで傲然ごうぜんと語り合っている。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
二郎はわれを導きてその船室ケビンに至り、貴嬢きみの写真取り出して写真掛けなるわが写真の下にはさみ、われを顧みてほほえみつ、彼女かれまたわれらの中に帰り来たりぬといえり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
奴はなげえこと己をこき使いやがったよ、畜生! 己ぁあの船室ケビンへ入りてえんだ、そうさ。奴らの漬物ピックルだの葡萄酒だの何だのがほしいんだ。
そうして船室ケビンの灯が一斉に点いた明るい美しさといったらなかった。星、星、星、星、星。ママやイフェミヤは眼を輝やかして手を拍った。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「物置のある別館はなれと云うと、あれなんですね?」東屋氏は岬の最尖端の船室ケビン造りの建物に向って、歩きながら言葉を続けた。
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
なかに一人、船に、賭博ばくちに、加之おまけいくさにも、女にも弱いやうな顔をした士官が、海の荒れ始めから、自分の船室ケビンへ潜り込んで一向影を見せないのがあつた。
しかも太子の船室ケビンのみかは! その船室への通路にさえも菱形に一本マークを着けた船の士官オフィサーが両側の入り口に一人ずつ頑張って何としても近寄ることを許さなかった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
船室ケビンという船室ケビンの窓が、青い、水族館みたいな波の底の光線にとざされたまま、堅板パーテカルや、内竜骨キールソンが、水圧でもって……キイッ……キイッ……キシキシキシキシと鳴るのを聞いていると
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
前檣ぜんしやう後檣こうしやうとのあひだを四五くわい往復わうふくするうちその惡感あくかん次第しだい/\にうすらいでたので、最早もはや船室ケビンかへつて睡眠すいみんせんと、あゆあしいま昇降口しようかうぐちを一だんくだつたときわたくし不意ふいに一しゆ異樣ゐやうひゞきいた。
それから間もなくその端艇は本船を離れて岸に向って漕いでゆき、赤い帽子をかぶった男とその仲間の男とは船室ケビンの昇降口から下へ降りて行った。
ややべにと金とを交えた牛酪バタいろの一面のはるばるしいさざなみであった。いよいよ夕凪だなと、私は私の船室ケビンの方へ、穏かに、また安らかに歩みを返した。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「ところで、あの船室ケビンの前の白いマスト尖端さきへ、御主人が燈火あかりをお吊るしになったのは、度々のことではないですね?」
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
驚くべしこの英国船中の警戒は厳重を極めてB甲板デッキ太子の船室ケビンの前には例の私の見た大使館員なのであったろう、英人二名が張り番をして絶対に見送り人を近付かせなかった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
僕が機関長になった時の体験を話したら身の毛がよだつだろうよ君等は……まあ聞き給え……モウ船室ケビンには用は無いだろう。ナニ、書物を読みたい。書物なんかは大概にしとくがいいね。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
夫人の眼にはおてんと様と博士の顔とむかし読むだロビンソン・クルウソウの挿画さしゑがごつちやになつてくるくる舞ひをするやうに思はれた。夫人はいきなり船室ケビンに駈け込んで横に倒れた。
最早もはや問答もんだう無益むえきおもつたから、わたくし突然ゐきなり船長せんちやう船室ケビンそと引出ひきだした
一人一人に船室ケビンへ帰ってグーグー寝てしまった様子だ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
最後にして私は亜留然丁アルゼンチンへまいることになっておりますが……実は明後日出航のサンタ・カタルヘナ号の船室ケビンもすでに予約してありますようなわけですが……向うへまいりましてから一度貴方とお打合せいたしまして御迷惑にならぬ範囲で……これはほんの私一個の考えではありますが
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)