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臙脂
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べに
ふりがな文庫
“
臙脂
(
べに
)” の例文
第一の侍女は小さな
臙脂
(
べに
)
の器物を、第二の侍女は
髪針
(
ヘヤピン
)
の小箱を、第三の侍女は光った赤いリボンのついた高い帽子をささげていた。
世界怪談名作集:03 スペードの女王
(新字新仮名)
/
アレクサンドル・セルゲーヴィチ・プーシキン
(著)
裲襠
(
うちかけ
)
のすそを音もなく曳いて、鏡のまえに一度坐る。髪の毛、一すじの乱れも、良人を暗くするであろう。
臙脂
(
べに
)
も、
褪
(
あ
)
せていてはならぬ。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
羽にも腹の下にも塗ったままの
臙脂
(
べに
)
が
点
(
つ
)
いていた。九兵衛はふと気になった。蠅は指の下をすべり抜けて彼と女房の頭の上あたりを静に飛んだ。
蠅供養
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
彼女の
皮膚
(
はだ
)
は厚化粧をしているかのように白かった。その頬と唇は
臙脂
(
べに
)
をさしたかのように紅く、その
睫
(
まつげ
)
と眉は植えたもののように濃く長かった。
復讐
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
白粉
(
おしろい
)
や
臙脂
(
べに
)
や香油などのにおやかな香に包まれていると、なにやら若やいだ浮き浮きするような気持になり、思わず刻の経つのを忘れることもあった。
日本婦道記:風鈴
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
▼ もっと見る
色は桃のやうに濃くも無く、白い磁器の上に
臙脂
(
べに
)
を薄く融かしたやうな明るさと可憐さとを持つた紅である。
紅梅
(旧字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
その女は
臙脂
(
べに
)
を塗って
白粉
(
おしろい
)
をつけて、婚礼に行く時の髪を
結
(
ゆ
)
って、
裾模様
(
すそもよう
)
の
振袖
(
ふりそで
)
に厚い帯を
締
(
し
)
めて、
草履穿
(
ぞうりばき
)
のままたった一人すたすた
羅漢寺
(
らかんじ
)
の方へ
上
(
のぼ
)
って行った。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
色白で円顔で、鼻高く唇薄く
臙脂
(
べに
)
を
塗
(
つ
)
けたように真紅である。そうしてその眼は切れ長であったが、気味の悪い三白眼で、絶えず瞳の半分が
上瞼
(
うわまぶた
)
に隠されている。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
宗右衛門町の脂粉の色を溶かしたのであろうか、水の上に
臙脂
(
べに
)
を流す美しい朝焼けの空。
大阪の朝
(新字新仮名)
/
安西冬衛
(著)
ラードで伸ばした
臙脂
(
べに
)
のはいったブリキ缶を手にした、そんじょそこらの月並みの職人とはちがって、れっきとした見識を具えた男であり、まあ一口に言えば美術家なのであった。
かもじの美術家:――墓のうえの物語――
(新字新仮名)
/
ニコライ・セミョーノヴィチ・レスコーフ
(著)
妖艶な
臙脂
(
べに
)
色の夜会服を纏ったスペイン人らしい若い女や、
朱鷺
(
とき
)
色の
軽羅
(
うすもの
)
をしなやかに肩にかけている娘、その他黄紅紫白とりどりに目の覚めるような鮮な夜会服を着た美しい女達が
日蔭の街
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
源氏車や
菊寿
(
きくじゅ
)
の
提灯
(
ちょうちん
)
に火が入って、
水色縮緬
(
みずいろちりめん
)
に
緋羅紗
(
ひらしゃ
)
の帯が、いくつも
朧
(
おぼろ
)
の
雪洞
(
ぼんぼり
)
にうつって、
歌吹
(
かすい
)
の海に
臙脂
(
べに
)
が流れて、お
紺
(
こん
)
が泣けば
貢
(
みつぐ
)
も泣く頃には、右の間の山から、中の地蔵、
寒風
(
さむかぜ
)
の松並木
大菩薩峠:06 間の山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
母の鏡台から
臙脂
(
べに
)
をとり出して、半紙に、それら北斎の揷絵をうつしていましたが、母は帰って来られると必ず、二、三枚の絵を土産に下さいましたことも、今は遠い思い出となってしまいました。
あのころ:――幼ものがたり――
(新字新仮名)
/
上村松園
(著)
艶
(
つや
)
やかな黒髪を惜気もなくグッと
引詰
(
ひっつ
)
めての束髪、
薔薇
(
ばら
)
の
花挿頭
(
はなかんざし
)
を
揷
(
さ
)
したばかりで
臙脂
(
べに
)
も
甞
(
な
)
めねば
鉛華
(
おしろい
)
も
施
(
つ
)
けず、
衣服
(
みなり
)
とても糸織の
袷衣
(
あわせ
)
に友禅と紫繻子の腹合せの帯か何かでさして取繕いもせぬが
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
………厚化粧の両頬へ
臙脂
(
べに
)
を染めて、こつてりと口紅をさした富千代と云ふのが、都踊の帰るさに、絵の中から抜け出したやうな顔をして開け放した障子の板敷の闇へ梯子段の下から音もなく現れる。
青春物語:02 青春物語
(新字旧仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
「あなたは
臙脂
(
べに
)
がお好き?」と、女はふと訊ねた。
新婚旅行
(旧字旧仮名)
/
正宗白鳥
(著)
家具衣裳は買い込むし、髪には珠を、
沓
(
くつ
)
には
珊瑚
(
さんご
)
を、食べ物の
贅沢
(
ぜいたく
)
、
臙脂
(
べに
)
おしろいから香料など、
母娘
(
おやこ
)
二ツの鏡台の飾りたてはいうまでもない。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
骨ぼその
手弱
(
たお
)
やかなからだつきで、濃すぎるほどの眉にも
臙脂
(
べに
)
をさしたような
朱
(
あか
)
い
唇
(
くち
)
もとにも、どこかしらん
脆
(
もろ
)
い美しさが感じられる、直輝は妻の眼もとを見て
頷
(
うなず
)
いた。
日本婦道記:梅咲きぬ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
「おんなじ蠅が戻るか、戻らんか、ためして見る、お豊、
臙脂
(
べに
)
を持っておいで」
蠅供養
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
臙脂
(
べに
)
を塗ってはいなかったが、
臙脂
(
べに
)
を塗っているよりも美しかった。
生死卍巴
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
こんなに
真赤
(
まつか
)
な
臙脂
(
べに
)
の
採
(
と
)
れるのを。
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
朝風呂につかって、厚化粧して、
臙脂
(
べに
)
を点じて、髪も衣裳もそッくり直した見返りお綱。パチンと
紺土佐
(
こんどさ
)
の日傘を開いて、住吉村から出て行った。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
忘れるとすぐ
臙脂
(
べに
)
や
白粉
(
おしろい
)
をつける、肌着もなかなか脱ぎ替えない、足袋は裏の黒くなるまではく、児が泣いたりぐずったりすると、時間に構わず乳を含ませる、添乳をしたまま寝たがる
初蕾
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
臙脂
(
べに
)
はいつでも
採
(
と
)
れるとばかり
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
妻の桔梗へ、都のみやげをと、都の
臙脂
(
べに
)
だの、香油だの、めずらしい織物など買って、いそいそ、暮した。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
立派な
臙脂
(
べに
)
は
採
(
と
)
れるのに。
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
法事姿なので、強い色彩や濃粧は嫌っているが、一点の
臙脂
(
べに
)
は唇に濃く、ほんのりと薄化粧を
刷
(
は
)
いた白珠のおもむきが、むしろ日頃の艶姿よりはなまめかしい。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
三位
(
さんみ
)
ノ
局
(
つぼね
)
、阿野
廉子
(
やすこ
)
は、仰せと聞くと、いま夕化粧もすましたばかりなのに、もいちど
櫛笥
(
くしげ
)
ノ
間
(
ま
)
へ入って、鏡をとりあげ、入念に
黛
(
まゆずみ
)
や
臙脂
(
べに
)
をあらためてから立った。
私本太平記:02 婆娑羅帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「…………」答えもしないで
臙脂
(
べに
)
をさしている、鏡の中のお米の目、やや
狂恋
(
きょうれん
)
の
相
(
かたち
)
がある。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
四十に近い年になっても、娘の朱実に劣らない
臙脂
(
べに
)
を
紅々
(
あかあか
)
と溶かしている唇。
宮本武蔵:03 水の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
青いほどな唇の
臙脂
(
べに
)
や化粧の
翳
(
かげ
)
にはそんな容子もうかがわれる。
私本太平記:07 千早帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“臙脂(えんじ色)”の解説
えんじ色(えんじいろ、臙脂色)とは、濃い紅色のことである。
日本工業規格においては、JIS慣用色名の1つに「えんじ」として下のように色が定義されている。
(出典:Wikipedia)
臙
漢検1級
部首:⾁
20画
脂
常用漢字
中学
部首:⾁
10画
“臙脂”で始まる語句
臙脂色
臙脂屋
臙脂皿
臙脂紫
臙脂怨
臙脂組
臙脂絵
臙脂菜
臙脂虫
臙脂白粉気