臀部でんぶ)” の例文
こういう人たちにありがちな尊傲そんごうな、それも至って安っぽい官僚ぶりを鼻にかけながら、座蒲団の上に大きな臀部でんぶをぶえんりょに乗せて
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たぷたぷと揺れる乳房、男のように緊縛している下帯のために、かえって際立きわだって見える下腹や、広い腰や、肉のもりあがった豊かな臀部でんぶなど。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
二人は、おりんの屍骸の臀部でんぶから少量すこしの肉を切り取って明日の捏ねに混ぜることにした。自分自身の一部を手に下げておりんはほほほと笑った。
乳ト臀部でんぶノ発達ハ不十分デ、あしモシナヤカニ長イニハ長イケレ※、下腿部かたいぶガヤヤO型ニ外側ヘ彎曲わんきょくシテオリ、遺憾ナガラマッスグトハ云イニクイ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
初さんが出してくれたものを見ると、三斗俵坊さんだらぼっちのような藁布団わらぶとんひもをつけた変挺へんてこなものだ。自分は初さんの云う通り、これを臀部でんぶしばりつけた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私の太腿ふとももと、その男のガッシリした偉大な臀部でんぶとは、薄い鞣皮一枚を隔てて、暖味あたたかみを感じる程も密接しています。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
巨大な臀部でんぶはにわかにくくれ、S形の腰を呈していた。ピッチリ合わされた股と股、肉が互いに押し合っていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ふむ、それはしからん。女の臀部でんぶを斬るとは一体何の為だか。いずれ馬鹿か、狂人きちがい所業しわざであろうな」
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
それから、幅の広い帯を探し、臀部でんぶで、頭髪かみに触れてみた。もしや指の先に、大竹女史の身体が触ったなら、そのときは万事休すといわなければならない。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
臀部でんぶ殊に痛みはげしく、綿をもてやはらかに拭ふすらほとんど堪へ難し。もし少しにても強くあたる時は覚えず死声を出して叫ぶなり。次に背部の繃帯を解き膿を拭ふ。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
お島はじっとり汗ばんだ体に風を入れながら、鬱陶しいかぶりものを取って、軽い疲労と、健やかな血行の快い音に酔っていた。もも臀部でんぶとの肉にだるい痛みを覚えた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼女はロンドンの大抵の女のように痩せて堅そうな体付きをして居るが、腰の短な細いくびれから臀部でんぶの円く膨れた辺りにスマートな女らしさをしっかりと保って居る。
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
愉快にも余は臀部でんぶ及び肩胛骨けんこうこつに軽微なる打撲傷を受けしのみにて脳震盪のうしんとうの被害を蒙るにはいたらなかったのであるが、余の告訴に対し世人は挙げて余を罵倒したのである。
風博士 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
僕はひとりごちながらさっそく牛舎に行ってみた。熱もあるようだ。臀部でんぶ戦慄ふるえを感じ、毛色がはなはだしく衰え、目が闇涙あんるいんでる。僕は一見して見込みがないと思った。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
今朝牢屋の出口で柳の太い生棒で三百ほど嬬弱かよわ臀部でんぶを打たれて歩けない程になって居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
手近いのに杖をさしてみると、それが意外にも人間の臀部でんぶであることを知りました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのうちに、ものをかして水と化するこの器の力で、悟空の臀部でんぶのほうがそろそろ柔らかくなりはじめたが、それでも彼はただ妖怪に捕えられた師父しふの身の上ばかりを気遣きづかっていたらしい。
ダビデがガテのゴリアテを殺した投石具スリングもどきの勢いで、はっしと、ゼーロンを目がけて投げつけた石は、この必死の一投のねらいたがわず、ゼーロンの臀部でんぶに、目醒しいデッドボールとなった。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
左前上膊部ひだりぜんじょうはくぶ、左右臀部でんぶ、右前大腿部だいたいぶ、左後膝部こうしつぶの六ヶ所に、長さ三センチから一センチ位までの、剃刀様の兇器によるものと覚しき軽微な斬り傷があって
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すなわち、僕は盛んにののしりあう男女の言葉の意味がところどころ分るようにもなったし、また僕の臀部でんぶにいくども注射針がぶすりと突立てられることも分った。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところがこの所作しょさがはなはだ不味まずかったので、手を突くと同時に、尻もべったり突いてしまった。ぴちゃりと云った。アテシコを伝わって臀部でんぶへ少々感じがあった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
両股のなめらかな肌が合って、臀部でんぶへと続く小さな谷間は、極めて新鮮に色づいていたし、膝がしらからくびすへとながれる脛の内側も、すんなりと白くまるみをもっていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すんなりとした円錐形が空と境いを限ったためクッキリと浮き出た山際の線が張り切れそうな弾力を持って丸々と高くし上がったさまは、肉附きのよい若い娘の臀部でんぶの弧形を連想させ
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
支那しな金魚の感じがする円顔の出眼の婦人で、髪の毛を割らずに、額の生えぎわから頭の頂辺てっぺんへはりねずみの臀部でんぶごとく次第に高く膨らがして、たぼの所へ非常に大きな白鼈甲しろべっこうかんざしを挿して
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ペンバ・プンツォという男は同行の者が一生懸命拝んで居るにも拘わらず、ラサ府の方に臀部でんぶを向けて不作法な真似をして居るので皆驚いて、ありゃ気狂いになったのじゃないか知らん
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
帰ろうとして外へ出た時、顔を黒くくまどり、腰布のうしろを捲上まきあげて臀部でんぶの入墨をあらわした一人の男が進み出て、妙な踊をして見せ、小刀を空高く投上げて、それを見事に受けとめて見せた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
影男のよりかかった巨女の臀部でんぶ太腿ふとももも、生けるがごとくふるえゆらめき、かれは両側の巨大な人肉に締めつけられ、おしつぶされるのではないかと疑った。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
両股のなめらかなはだが合って、臀部でんぶへと続く小さな谷間は、極めて新鮮に色づいていたし、膝がしらからくびすへとながれる脛の内側も、すんなりと白くまるみをもっていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
本館からとり寄せた綾子夫人の洋服を、この壁の上にしるし出された人型ひとがたの上に重ねてみますと、正しくピタリと大きさが合うではありませんか。肩胛骨けんこうこつ臀部でんぶのあたりは特によく一致していました。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それをひじ掛けにして、うしろのうず高い桃われの臀部でんぶの小山にビロードの背中と頭とをもたせかけ、夕暮れの薄やみの中に適度の弾力と温度に包まれて、ぐったりとしていた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あまり優雅なたとえではないが、女性の臀部でんぶねこの鼻も土用の三日だけはあたたかい(失礼)、という通言があるそうで、その日はおそらくその「三日」のうちの一日だったろうと思う。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そしておどろくべき熟練をもって、胸の肉、臀部でんぶの肉、脚の肉、腕の肉と截り分け、運搬車に載せると、ライオンだの虎だの檻の前へ直行して、園長の肉を投げ込んでやる。……いや、おそろしいことである。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女は五尺そこそこの身長で、骨も太く肉付きたくましく、あかい縮れ髪で、腰部は臼と云う以外に形容をなし難い。足は俗にがみまたといって、外方に彎曲わんきょくして短く太い。その上方に臀部でんぶが怒り出ておる。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)