胎がしっかりと落付いてるのに、足取りが妙に浮わついて乱れていた。どう逃げたら一番安全かと、そんなことを頭の片隅で考えていた。
画布がみずから独立すること、それを多くの人々に観照せしめることを要求することの中には同様にすでに一つのアンチノミーを胎んでいる。
そしてすぐ茶の間へ出て、鏡をちょいと覗いた。夕あかりを胎んだ鏡は深くひかったが、何処か白紙のように寂しくみえた。
母の胎を出るとそのままなんの訓練も受けずに育ち上がったようなぶしつけな、動物性の勝った、どんな事をして来たのか
「何をうろたえて。……この母の胎から生れ出ながら、年三十有余にもなって、まだこの母が、そのような文を子に書く母か否かわからぬか」