はら)” の例文
はらがしっかりと落付いてるのに、足取りが妙に浮わついて乱れていた。どう逃げたら一番安全かと、そんなことを頭の片隅で考えていた。
悪夢 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
画布がみずから独立すること、それを多くの人々に観照せしめることを要求することの中には同様にすでに一つのアンチノミーをはらんでいる。
(新字新仮名) / 中井正一(著)
そしてすぐ茶の間へ出て、鏡をちょいと覗いた。夕あかりをはらんだ鏡は深くひかったが、何処か白紙のように寂しくみえた。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
母のはらを出るとそのままなんの訓練も受けずに育ち上がったようなぶしつけな、動物性の勝った、どんな事をして来たのか
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「何をうろたえて。……この母のはらから生れ出ながら、年三十有余にもなって、まだこの母が、そのような文を子に書く母か否かわからぬか」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
併し今考えれば、これは笑い事ではない。象徴なれのしていなかった日本語が、蒲原氏の持った主題をとどこおりなくはらむ事の出来る筈はない。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
あるいは妊婦のはらき、あるいは人を木の上にのぼらせて、下からそれを射って、その人間が落ちてくるのを見てたのしんだと伝えられている。
まあ、子宮は子宮でいいとして、僕はこんな世の中へなんか出て来ずに済むものなら、まだはらの中にいるうちに自殺してしまいたかったくらいですよ。
「彼方の女は子を産むいのししのように太っている。見よ、長羅、彼方の女は子をはらんだ冬の狐のように太っている。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
自分の意志で選んだ対手と生活しようときめた若い女に対してはそのはらのなかまで詮索ごのみの目を届かせずにはおかないほどだのに、いざというとき
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
エホバがみ半陰陽ふたなりなりき。初めに自らいとなみて、双生児ふたごを生み給えり。最初にはらより出でしは、女にしてエヴと名付け、次なるは男にしてアダムと名付けたり。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
クリストフは、はらのすわらない連中の中を、あたかも眠ってる樹木を揺り起こす風のように通りすぎていった。彼は自分の考え方を彼らに教え込もうとはしなかった。
それで、はらの子を、胡魔化しようもないので、若い二人はひそかに会って泣きながら相談した。いい智恵も見付からぬうちに、女の身体はだんだんと隠せない程、変ってくる。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それが、役目がすむと直ちに枯死してしまった、あとは、次の世代をはらんだ雌のひとり天下になると見える。蜜蜂みつばちやかまきりの雄の運命ともよく似たところがあるのである。
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
維盛これもりやいばにたおれよ。わしは清盛のむすめはらを呪うたぞ。その胎よりいずるものは水におぼれよ。平家にわざわいあれ。禍あれ。平家の運命に火を積むぞ。平家の氏に呪いをおくぞ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
にわかに自分の心が白絹のようにはっきりして、あなたのお身と鐘とが気づかわしさに、はらの子も禁制のことも知ってはいながら、命の最後を覚悟してはせ上って来たのでございます。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
これもひとへにはらを、産み落したるその上にて。仇を討たせんと思へばなり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
何とて我ははらより死にて出でざりしや
キリスト者の告白 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
そして彼は非常に陰惨な気持になり、次には捨鉢な気持になり、それから、何でも期待し得るはらを据えた而も暗い気持になった。
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
其と共に、藤村は新しい詩の内容が、詩形をはらんで来る事を、ある程度まで実際に示して、若い日本の詩の世界を、喜びの有頂天にひき上げた。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
薄葉の中にあまたのほたるが入れてあるらしく、そこだけ、青い灯火ともしびのような光がはらんで、明りにかわるようにしてあった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
奴国の月は田鶴たずのように冠物かぶりものを冠っている。爾は奴国の月を眺めて、我とともに山蟹やまがにかりとをくらえ。奴国の山蟹は赤い卵をはらんでいる。爾は赤い卵を食え。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
かくて現代のほほえみはその陰に強靱なるものをはらんでいる。そして、前世紀のあらゆるほほえみよりも美わしく、味わっても味わいつくせぬ愛憐を運んでいる。
エホバ神は半陰陽ふたなりなりき。初めにみずからいとなみて、双生児ふたごを生み給えり。最初にはらより出でしは、女にしてエヴと名付け、次なるは男にしてアダムと名付けたり。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
同じはらを借りてこの世に生まれ出た二人ふたりの胸には、ひたと共鳴する不思議な響きが潜んでいた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
清盛が厳島いつくしま参詣さんけいする道をなおくするために切り開かした音戸おんど瀬戸せとで、傾く日をも呼び返したと人は申しまする。法皇は清盛のむすめはらから生まれた皇子おうじに位をゆずられる、と聞いております。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「君のはらの子の父親はねエ」
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あたかも「株式会社それ自身がすでに資本主義形態としては弁証法的矛盾」をはらんでいるがように——。
(新字新仮名) / 中井正一(著)
同じはらを借りてこの世に生まれ出た二人ふたりの胸には、ひたと共鳴する不思議な響きが潜んでいた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
煉瓦れんがの塔の際に、これも又曇った雪ぞらのように真寂まさびしく張られてあった、風の激しい日で、風をはらんだ天幕のあしが、吹き上げられ、陰気な鳴りかぜが耳もとをかすめた、その隙間すきま
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
人の一つの行為が、その内面に無限なる群の(否定の否定、さらに無限なる否定としての)行為をはらむこと、その限りない集合、そこに存在の原現象がその相を露わにする。
スポーツの美的要素 (新字新仮名) / 中井正一(著)
されど心の眼さときものは肉にらずしてただちに愛の隠るる所を知るなり。聖処女の肉によらずして救主すくいぬしはらみ給いしごとく、なんじら心の眼さときものは聖霊によりて諸善のはらたるべし。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)