もや)” の例文
小倉は肉やねぎなどをつつきながら、頭はもやいっ放しの伝馬てんまのことと、三上対船長との未解決のままの問題との方へばかり向いていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
橋上に佇んで見下せば、河の面てには靄立ちめ、もやった船も未だ醒めず、動くものと云えば無数の鴎が飛び翔け巡る姿ばかりである。
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
若衆に取寄せさせた、調度を控えて、島の柳にもやった頃は、そうでもない、みぎわ人立ひとだちを遮るためと、用意の紫の幕を垂れた。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夏は、まあええが、冬分ふゆぶんは死ぬ思いじゃったなあ。遠賀川おんががわの洲の岸に、水棹みさおを立てて、それに、舟を綱でもやう。寒風が吹きさらす。雪が降る。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
これも只の酒をしたゝかにあふつてを押す手も覺束なくなつた船頭の直助と二人、もやつた船のへさきともに別れて、水を渡つて來る凉しい風に醉を吹かれて居たのです。
が、俊寛の声は、なぎさを吹く海風に吹き払われて、船へはすこしもきこえないのだろう。闇の中に、一の灯もなく黒くもやっている船からは、応という一声さえなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
杭にもやわれた小舟が、洪水に飜弄されるように、油紙の屋根が、ペラペラ動く。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
川の南西側にはん樹立こだちの連なれるあたりの樹蔭に船をもやひて遊ぶが多し。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そこえらの溝水にもやっている船を注意ぶかく覗きこむのであった。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
背戸ごとに小舟もやへる汲水場くみづにはをりをり女居りて日暑し
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
雑多な舟が何艘なんそうとなくもやってある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
牁戕かし振り立てもやひせし
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
若衆わかいしゅ取寄とりよせさせた、調度を控へて、島の柳にもやつた頃は、うでもない、みぎわ人立ひとだちさえぎるためと、用意のむらさきの幕を垂れた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その時であったが水の上から欠伸あくびする声が聞こえて来た。続いて吹殻ほこを払う煙管きせるの音。驚いた武士が首を延ばして河の中を見下ろすと、苫船とまぶねが一隻もやっている。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これもただの酒をしたたかにあおってを押す手も覚束なくなった船頭の直助と二人、もやった船のへさきともに別れて、水を渡って来る涼しい風に酔いを吹かれていたのです。
きっと「サンパンはもやっといて、泊まって明朝帰ればいい、サア」といって十円は出すだろう。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
もやつてゐる、私はこの荷船に乗るのである、どうせ積荷を主な目的とする船であるから、無理やりに、荷物の中へ割り込んで、坐るぐらゐの窮屈は、忍ばずばなるまい、何となれば時又から、一日で
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
きしと舟とをもやつたつな
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
今はたとい足許が水になって、神路山の松ながら人肌を通すながれに変じて、胸の中に舟をもやう、烏帽子えぼし直垂ひたたれをつけた船頭なりとも、乗れとなら乗る気になった。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
湖上に出ている屋根の側まで筏が流れて来た時に、そこに一隻丸木舟がもやってあるのに気が付いた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「けさここへもやってあった伝馬は、万寿のじゃなかったかい」と、船頭はきいた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
やうやく船をもやつて、私は船頭におぶはれて、岸に着いた。
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
もやつた舟から
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
お帰りには二見ふたみヶ浦、これは申上げるまでもござりませぬ、五十鈴川の末、向うの岸、こっちの岸、枝の垂れた根上り松にもやいまして、そこへ参る船もござります。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とうとうわたしたちは船のもやってある岸まで、無事に着くことが出来ました。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
後へ引返ひっかえしてかの石碑の前をいで、蓬莱橋まで行ってその岸の松の木にもやっておいてあがるのがならいで、風雨のはげしい晩、休む時はさしき、年月夜ごとにきっとである。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無数に小船がもやっている。その一つへ飛び込んだ。つづいて三人がヒラリと乗る。崖へ手を延ばした薬草道人、その辺を探ると思ったが、手に連れて崖の一所が、グ——ッと左右へ押しひらけた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
十里四方には人らしい者もないように、船をもやった大木の松の幹に立札たてふだして、渡船銭わたしせん三文とある。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「この辺りでよかろう、舟をもやえ」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
優しい柔かな流に面し、大橋を正面に、峰、山を右に望んで、橋添には遊廓くるわがあり、水には蠣船かきぶねもながめだけにもやってあって、しかも国道の要路だという、とおりにぎわっている。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もやってある船の方へ行きました。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
砂利船、材木船、泥船などをひしひしともやってある蛤町はまぐりちょうの河岸を過ぎて、左手に黒い板囲い、㋚※※と大きく胡粉ごふんで書いた、中空に見上げるような物置の並んだ前を通って、蓬莱橋ほうらいばしというのにかかった。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
就中なかんずく、風呂敷にもたもとにも懐にも盗みあまって、手当てあたり次第に家々から、夥間なかまが大道へ投散らした、あられのごとき衣類調度は、ひた流しにずるずると、山から海へ掃き出して、ここにあらかじめもやった船に
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おさない方は、両手にふなべりつかまりながら、これも裸の肩で躍って、だぶりだぶりだぶりだぶりと同一おなじ処にもう一艘、渚にもやった親船らしい、を操る児の丈より高い、他の舷へ波を浴びせて、ヤッシッシ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)