ゆつく)” の例文
客が少くて、殊に二等室はゆつくりとしたもの。汽笛の鳴る迄を先生は汽車衝突の話をされる。それは戦役当時の事であつたとか。
雪中行:小樽より釧路まで (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
三千代みちよ支度したくをするから、ゆつくりしてつてれとたのむ様にめて、つぎつた。代助は其後姿うしろすがたを見て、どうかしてかねこしらへてやりたいと思つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「ぢや御客様にはえらい失礼だが、わしあ馬を起しに行つて来るだあから、お前は御客様を奥に通して、行輔が帰つて来るまでゆつくり御休ませ申して置け」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
時々ベシーは仕事に氣をとられて繰返しを非常に長くゆつくり引張つた。「むかし、むかし」の一節が挽歌ばんかの悲痛極まる抑揚よくやうのやうに響いた。彼女は、ほかの小唄を唄ひ出した。
といふと、吉兵衛は女と金の事しか考へた事のない頭を、勿体ぶつて一寸つてみせた。そして一言一句が五十銭づつの値段でもするやうに、をしみをするらしくゆつくりした調子で
贋物 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
戸外おもてへ来て案内する時のその声といふものが、実に無いんですよ。いつでもきまつて、『頼みます、はい頼みます』とかうしとやかに、ゆつくり二声言ふんで。もうもうその声を聞くと悚然ぞつとして、ああ可厭いやだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
為方しかたがないさ、まアゆつくり探す事です。」と湯村は鷹揚に云つた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
渠はゆつくりした歩調で階段を降りて、秋野と共に各級をその新しい場所に導いた。孝子は新入生を集めて列を作らしてゐた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「死んで了つたものは仕方が無え、明日帰つて、ゆつく葬礼ともれひを出して遣るから、もう帰つて呉れても好い」との無情な言草には、使の者もほとんあきれ返つたとの事だ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
といふと、吉兵衛は女と金の事しか考へた事のない頭を、勿体ぶつて一寸つてみせた。そして一言一句が五十銭づつの値段でもするやうに、をしみをするらしくゆつくりした調子で
今日けふ沢山たくさん。さうゆつくりしちやゐられないの」と云つて、むかし金歯きんば一寸ちょつと見せた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『おや然う。まあ甚麽どんなにか宅ぢや御世話樣になりましたか、ほんに遠い所をよく入來いらつしやつた。まあ/\お二人共自分の家へ來た積りで、ゆつくり見物でもなさいましよ。』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
いま一遍は、愈新聞の方がまつたから、一晩ひとばんゆつくきみみたい。何日いくかて呉れといふ平岡の端書はがきいた時、折悪く差支が出来たからと云つて散歩の序に断わりにつたのである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私達の味覚は嗅覚だの聴覚だのと一緒に漸次だん/″\繊細きやしやに緻密になつて来たに相違ないが、其の一面にはお互の生活に殆どゆつくり物を味ふといふ程の余裕ゆとりが無くなつて、どうかすると刺戟性しげきせいのもので
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
『おやう。まあ甚麽どんなにかうちぢや御世話様になりましたか。ほんとに遠い所をよく入来いらしつた。まあ/\お二人共自分の家へ来た積りで、ゆつくり見物でもなさいましよ。』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『何れ後刻あとゆつくりお話しようと思つてあんしたつたども、今迄その暇がなくて一寸此処にお預りして置いた訳でごあんす。何しろ思懸けないことでごあんしてなす。ハ。』
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
後に聞いたが、編輯長は松永の退社に就いて、最初却々なか/\聞き入れなかつたさうだ。半年なり、一年なりゆつくり保養してゐても、社の方では別に苦しく思はない、さう言つたさうだ。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
『可いさ。外交に出たら、家へ寄つてゆつくり晝寢をして來れば同じこつた。』
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
幸ひ好い奉公の口があつたが、先づ四五日はゆつくり遊んだがからうといふ源助の話を聞いて、二人は夕餐が濟むと間もなく二階に上つた。二人共『疲れた。』と許り、べたりと横に坐つて、話もない。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
幸ひ好い奉公の口があつたが、先づ四五日はゆつくり遊んだが可からうといふ源助の話を聞いて、二人は夕餐ゆふめしが済むと間もなく二階に上つた。二人共「疲れた。」と許り、べたりと横に坐つて、話もない。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いゝえ。土曜日ですもの、ゆつくりしてらつしつても可いわね』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
いいえ、土曜日ですもの、ゆつくりしてらしつてもいわね?』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)