しまり)” の例文
そのしまりのない口元と目尻の下った目付とは、この女の心の片意地でない証拠と見え、また幅狭い帯の下から隆起した大きなお尻の円味と
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
小屋は全部外からとざした上、入口の——今お六の入つたしまりは、闇に馴れないガラツ八の眼ではどうしても搜せなかつたのです。
お島はその手の入墨を発見したとき、耳の附根まで紅くして、みだらな目をみはった。男はえへらえへらと、しまりのない口元に笑った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
室の戸口まで行って横にさした鉄の棒の抜けはせぬかと振り動かして見る。しまりは大丈夫である。ウィリアムは丸机にって取り出した書付をおもむろに開く。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
でも暫くすると、母親が気が顛動てんどうしていたのでという意味の詫言わびごとをして、しまりをはずしたので、人々はやっと屋内に入り、恐ろしい殺人事件が起ったことを知ったのである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大藏はのりだらけになりました手をお菊の衣類きもので拭きながら、そっと庭伝いに来まして、三尺のしまりのある所を開けて、密っと廻って林藏という若党のいる部屋へまいりました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
述てぞ歸りける依て九助は本意なく思へ共親孝行の爲とあれば更にをし共せずやがかどしまり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかししまりはよさそうゆえ、絵草紙屋の前に立っても、パックリくなどという気遣きづかいは有るまいが、とにかく顋がとがって頬骨があらわれ、非道ひどやつれているせいか顔の造作がとげとげしていて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
けん山家やまがまへたのには、まで難儀なんぎかんじなかつた、なつのことで戸障子としやうじしまりもせず、ことに一軒家けんや、あけひらいたなりもんといふでもない、突然いきなり破椽やぶれえんになつてをとこ一人ひとりわしはもうなん見境みさかひもなく
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ホツ、ホツとしまりの無い笛を鳴らして、自動車が過ぎた。湯村の車が右に避けようとしたその車輪のきはどい間をくゞり、重い強い発動器の響を聞かせて、砂埃ほこりの無い路を太いゴム輪が真直にむかうせた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
「千代香じゃないか、丸髷に結ってやがるな。うまくやったなア。」としまりのない、大きな声でわざといけ粗雑ぞんざいな調子で物を云うのがこの男の癖である。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
見ると、何うして自分の家へ入るつもりか、見當もつかないよ。尤も、こじ開けて家へ入つて見ると、二階の雨戸にはしまりがなかつた、——お武家でも獨り者は用心が惡いね
おもうに、何者かが書斎に入って、抽斗の鍵で、内側からしまりをしてしまったものであろう。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お由が隣へ預けて置いた入口のしまりの鍵を持って来て、格子戸を明けましたから、茂二作は内へ入り、お由は其の足ですぐに酒屋へ行って酒を買い、貧乏徳利びんぼうどくりを袖に隠して戻りますと
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「又ました」と云つたとき、三千代はれた手をつて、馳け込む様に勝手からがつた。同時におもてまはれとで合図をした。三千代は自分で沓脱くつぬぎりて、格子のしまりはづしながら
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一家のしまりをしている、四十六七になった、ぶよぶよ肥りの上さんと、一日小まめに体を動かしづめでいる老爺おじいさんとが、薄暗いその囲炉裏の側に、酒のお燗番かんばんをしたり、女中の指図さしずをしたりしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
窓は内部からしまりがしてある。しかも、ガラス窓のそとには鉄格子が見えている。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「聞きましたよ、——驅け込んで來て、突き當りの其月堂さんの木戸をこぢ開けようとして居た樣子でしたが、内外からしまりがしてあるもんですから、寺の塀へ飛付いて、境内へ逃げ込んだやうです」
手捷てばしこくそこらを掃除したり、朝飯の支度に気を配ったりしたが、寝恍ねぼけた様なしまりのない笑顔をして、女が起出して来る頃には、職人たちはみんな食膳しょくぜんを離れて、奥の工場で彼女のうわさなどをしながら
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
三千代は自分で沓脱くつぬぎへ下りて、格子のしまりを外しながら
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「聞きましたよ、——駆け込んで来て、突き当りの其月堂さんの木戸をこじ開けようとしていた様子でしたが、内外からしまりがしてあるもんですから、寺の塀へ飛付いて、境内へ逃げ込んだようです」