へら)” の例文
それは、なかなか手のかかったスープで、ルピック夫人が、木のへらでもって、少しばかり例のものをかし込んだのである。なに、ほんの少しである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
私どもでは竹のへらを薄く刃物のようにしてそれで剥きます。トマトに鉄の刃物を用いると早く腐って味も悪くなります。トマトばかりではありません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あはびを岩より離すには骨製のへら或は角製の細棒ほそぼう抔を使ひし事も有るべけれど、他の貝類を採集さいしうするには、袋或はかごの如き入れ物さへ有れば事足りしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
かたわらには幅の広いへらのような形をした、鼈甲べっこう紙切小刀かみきりこがたなが置いてある。「又何か大きな物にかじり附いているね。」こう云って秀麿の顔を見ながら、腰を卸した。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
白い小山をねらした雪田が三稜角形に、へららされたようになって、五、六町もつづいている、自分が従来見た雪田というのは、多少の凸凹たかひくがあるにしても
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
無名の彫塑ちょうそ家のへらあとであるはずだが、それがどういう順序と計劃の下に行われたかに至っては、多分の臆断をやとわざればこれを説明するに由なかったのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
へらや篦、漆掻く篦、篦はよし、色掻き交ぜ、たらりとよ、垂りしたたらす。ぬめりや漆のねばり、たらりとよ一つかへし、つるりとよ二つかへし、日に透かし、時をや見る。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あの眼も口もへらで一すくいずつ平たい丸みから土をすくっただけで出来上っている永遠に滑らかな人形のような顔。それに時が爪をかけはじめたのだ。ざまをみるがいゝ。滑稽だ。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その単膏に、さまざまの薬を煉込ねりこむのですが、そのへらが今のナイフのような形をしていて、りの利く、しっかりしたものでした、何に使うのか、水銀を煉込むのを面白く思いました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
象牙のへらを結び付けた暗褐色の紐を解いて巻物をすこしばかり開くと、紫黒色の紙に金絵具きんえのぐで、右上から左下へ波紋を作って流れて行く水が描いてあるが、非常に優雅な筆致ふでつきに見えた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其時そのときのりぼんいたり、へら使つかつてたり、大分だいぶ本式ほんしきしたが、首尾しゆびかわかして、いざもとところてるといふだんになると、二まいともかへつて敷居しきゐみぞまらなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この‘Slip ware’の一種に‘Comb ware’と呼ばれるものがあって、線を引いた後、横に櫛目くしめへらでつけるため、虎斑とらふのような模様を呈する。釉薬はいずれも鉛である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ふぐしはへらの如き道具にて土を掘るものとぞ。籠ふぐしなど持ちて菜を摘み居る少女に向ひ名をのれとのたまふは妻になれとのたまふなり。當時の御代にては斯るむつまじき御事もありけん。
万葉集を読む (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
飯は木製のへらでしゃくい出す。
其処そこは人間の鼠蹊部そけいぶというようなところで外皮を切れば腿の肉は胴の肉と離れているからへらで腿の肉を押開おしひらくとその下に腸が見えて薄いまくが腸をおおっている。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
沈紋の中に又押紋をうもん畫紋ぐわもんの別有り。ぬのむしろ、編み物、紐細き棒の小口、貝殼かひがら等をけて印したる紋を押紋と云ひ、細き棒或はへらを以てゑがきたる摸樣を畫紋と云ふ。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
もっとも普通に使われるのは物さしとかへらの類、時としてははさみや針などまで持ち出すがあって、あぶないばかりか、無くしたり損じたりするので、どこの家でもそれを警戒した。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
へらねたような万年雪のむしばみが、鉛色に冷たく光っている、それから遥かに、雪とも水平線ともつかぬうすい線が、銀色に空を一文字に引いている、露営地にいると、わずか二
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
もう春だな赤い漆をたらたららせ掻きまぜてまたへらをあげてる
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
タグリ飴という名は今も東北に残っていて、へらはしのさきに附けてたぐり取るほどのゆるさであったものが、後にはケズリ飴といってのみをもって削り取り、目方で売るまでになった。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
てのひらを返すやうに、取ツ組み合つて密集してゐる、同じ楢の中でも、私は殊にコナラの葉を美しいと思ふ、先のとがつたへら形の葉の縁辺を、のこぎりの目立のやうな歯と歯が内向きに喰い込んで
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
谷地帯やちたいになっているし、ことに石山に該当するところは、万年雪と氷河の喰い込みで、岩頸がんけいは、へらでえぐったように「サアク」の鈴成りが出来ているから、サアク帯と呼ぶ方が適当である
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)