竹林ちくりん)” の例文
「この鳥屋野とやのという里からわずかばかり。——それあの山のふところに竹林ちくりんが見えましょう、小丸山の里のお住居すまいの裏手にあたる竹林です」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村塾、礼法を寛略にし、規則を擺落はいらくするは、以て禽獣夷狄いてきを学ぶにあらざるなり、以て老荘竹林ちくりんを慕うに非ざるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
賃錢ちんせんによつて土地とちふかくもあさくもはやくもおそくも仕上しあげることをつてた。竹林ちくりん開墾かいこんしたときかれぢたまゝつぼおほきさをたゞつのかたまりおこしたことがある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その※采があるとき竹林ちくりん七賢人しちけんじんの図をかいて、それが甚だ巧みに出来たので、観る者いずれも感嘆していると、一坐の客のうちに郭萱かくけんといい柳城りゅうじょうという二人の秀才があって
雛僧すうそうあり、寺の縁起を説くのかたはらけいに下るべきの路あるを指點し、わが爲めに導をさんことを乞ふ。則ち共に細徑さいけい竹林ちくりんうちに求め、石にすがり、岩にりて辛うじて溪に達す。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
霞亭の卜する所の宅は、所謂竹里の居で、西に竹林ちくりんを控へてゐた。林間の遺礎いそは僧涌蓮ゆれんが故居の址である。樵歌に「宅西竹林、偶見有遺礎、問之土人、云是師(涌蓮)故居、廃已久矣」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
もんのすきまからのぞくと、いえのほかに土蔵どぞうもあったけれど、ところどころ壁板しとみがはずれて、修繕しゅうぜんするでもなく、竹林ちくりんしたには、がうずたかくなって、くものもないとみえました。
武ちゃんと昔話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これを本朝弓道の中祖、斯界の人々仰がぬ者なく、日置流より出て吉田よしだ流あり、竹林ちくりん派、雪荷せっか派、出雲いづも派あり、下って左近右衛門さこんえもん派あり、大蔵おおくら派、印西いんざい派、ことごとく日置流より出て居るという。
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのうち、ことに白雲の眼を驚かしたのは竹林ちくりんの図です。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
このあとにいろいろの樹あり竹林ちくりんに冬の蠅の飛ぶ音のする
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
竹林ちくりんだ。紅い芙蓉ふようの蕾だ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
都から来た二人の女性にょしょうの客をそよそよ吹いて、春のにおいを持つ微風が、静かにそこへ坐った親鸞との間を通って、裏の竹林ちくりんをそよがせる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梅陽軒は空僧院くうそうゐんである。「幽寺無僧住。随縁暫寄身。」院は竹林ちくりんの中にある。「蘿纏留半壁。竹邃絶比隣。」そして門前をば大井川の支流芹川せりかはが流れ過ぎ、水を隔てて嵐山の櫟谷いちだにを望み見る。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
肥後の菊池武重は、その日、新田軍の総くずれと共に逃げ退いたが、途中、兵を竹林ちくりんに隠して手頃な竹を伐らせ、それに短刀を結いつけて、追ッてくる敵を待った。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小広い平地があって、竹林ちくりんのしげったすみに、一けん茅葺屋根かやぶきやねがみえ、裏手うらてをながるる水勢のしぶきのうちに、ゴットン、ゴットン……水車みずぐるま悠長ゆうちょう諧調かいちょうがきこえる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
布を投げたような曲線が、釣殿つりどの床下ゆかしたをとおり抜け、せんかんたる小川の末は、東の対ノ屋の庭さきから、さらに木立こだちをぬい、竹林ちくりんの根を洗って、邸外へ落ちてゆく。
夜気冷やかにまたたいている二の常夜燈。ささ流れをまたいで竹林ちくりんの小道へ入ると、水の声でもないささの葉のそよぎでもない、耳覚えのある尺八の音……時雨堂かられてくる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竹林ちくりんのやみに、夜の風がサワサワゆれはじめると、昼はさまでに思えなかった水音みずおとが、いちだんとすごみをびてくる。——ことに今夜は、小屋のをともす者もなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竹童が声をあげて呼ぶうちに居士こじのすがたは、風のごとく竹林ちくりんをぬって、見えなくなった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)