突如だしぬけ)” の例文
剪刀はさみの刃音が頭の天辺てつぺんで小鳥のやうにさへづつてゐるのを聞きながら、うと/\としてゐると、突如だしぬけに窓の隙間から号外が一つ投げ込まれた。
突如だしぬけに斯う云った人があったのです。見返ると、あの可厭いやな々々学生が、何時か私達の傍近くに立って居たではありませんか。
昇降場 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
突如だしぬけに横合から根こぎにするなどは、乱暴極まるぢやないか、松島のは社会主義に対する帝国主義の敗北、我輩のは金力に対する権力の失敗ぢや
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
辰男は物をも言わず、突如だしぬけに起上った。そして、すその短い寝衣ねまきのままランプを持って階下へ下りて行った。行灯あんどんの火は今にも消えそうに揺めいていた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
折柄警部は次のにて食事中なりしかば其終りて出来いできたるを待ち突如だしぬけに「長官大変です」荻沢は半拭はんけちにて髭のよごれを
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そしてやたらと頭を押へて見て、また頭を振つて、ふら/\と其處らを歩𢌞ツてゐた。……かと思ふと、突如だしぬけ
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「君の評判は大したもんですぜ。」と和泉屋は突如だしぬけ高声たかごえしゃべり出した。「先方さきじゃもうすっかり気に入っちゃって、何が何でも一緒にしたいと言うんです。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ヤ細川! 突如だしぬけ出発たったので驚いたろう、何急に東京を娘に見せたくなってのう。十日ばかりも居る積じゃったがしゃくさわることばかりだったから三日居て出立たっしまった。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
じつは私としてはまったく突如だしぬけに皆さんの御承諾ごしょうだくの御返事をいただいたような始末でして……まったく発起人という名義を貸しただけでして……発起人としてかようなことを
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
鼠がまた突如だしぬけに天井裏を走る。風はまだ吹き止まない。つるしランプの火は絶えず動揺ゆらめく。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
夏の午後に突如だしぬけに起つて来た暴風雨の早さには及ぶことが出来なかつたのであつた。
島からの帰途 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
突如だしぬけに昇が轟然ごうぜんと一大笑を発したので、お勢は吃驚びっくりして顔を振揚げて視て
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
当日は、私は何かの都合であったか堀田原ほったわらの家に休んでおりました。日暮れ少し前頃に、私の家の表の這入はいり口に地主の岡田というのがあって、その次男が私の宅へ飛び込んで来て、突如だしぬけ
などと突如だしぬけ吹聴ふいちょうされて、僕はおおい面喰めんくらうことがある。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と帆村は突如だしぬけに、図書館の宿直氏にたずねた。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
辰男は物をも云はず、突如だしぬけに起き上つた。そして、裾の短い寢衣ねまきのまゝランプを持つて階下へ下りて行つた。行燈あんどんの火は今にも消えさうに搖らめいてゐた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
周三は垂頭うつむき加減で、默ツて、神妙しんめうに聞いてゐたが、突如だしぬけに、「だが、其の贅澤ぜいたくを行ツてゐた時分と、今と、何方が氣樂だと思ひます。」とぶしつけにたづねる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
すると、突如だしぬけに男のおいおい泣き出すのが聞えて来た。雌に逃げられたいぬの泣くやうな声である。実業家は手にとつたさかづきを下において、慌ててまた襖にすり寄つた。
ねずみがまた突如だしぬけ天井裏てんじやうゝらを走る。風はまだ吹きまない。つるしランプの火は絶えず動揺ゆらめく。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「アイ、二十日はつかが俺の誕生日だツて、阿母おつかあが今川焼三銭買つて、ちやんの仏様へ上げて、あとは俺が皆な食べたよ」と、突如だしぬけに返事したるは、覚束おぼつかなき賃仕事に細きけむり立て兼ぬる新後家しんごけせがれなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
主人は来れば急度きっと湯に入って、一晩泊って行くことにしていたが、おしまいに別れてから、物の二日とたたぬうちに、また遣って来た。東京から突如だしぬけに出て来たお島の父親をつれて来たのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と小童は突如だしぬけに怒鳴つた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
突如だしぬけうしろから肩を叩くものがある。びツくりして振返ると、夜目だから、わからぬが、脊の高いやせツこけた白髮の老人が、のツそりと立ツてゐるのであツた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
夕餐ゆうめしぜんが片づいて、皆ながあちこちへ別れているところへ、俥夫の提灯ちょうちんを先に、突如だしぬけに暗い土間へ入ってきた。散らばっていた家の者はまたぞろぞろ出てきて一ところに集まった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
「何だつて突如だしぬけにそんな事を仰有るんです。」
夕餐ゆふめしの膳が片付いて、皆んなが彼方此方あちらこちらへ別れてゐるところへ、俥夫の提灯ちやうちんを先に、突如だしぬけに暗い土間へ入つて來た。散らばつてゐた家の者はまたぞろ/\出て來て一ところ/\に集つた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)