看経かんきん)” の例文
旧字:看經
姫ぎみたちの御せいじんをたのしみにあさゆう看経かんきんをあそばすほかにはこれと申すお仕事もなく、おとなうお方もござりませんので
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
看経かんきんも済み饗応もまたおわり、客は皆手の行き届きたることをめて帰れば、涙をもって初めし法事も、佐太郎の尽力をもて満足に済みたり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
お付きの尼僧の話では、朝は四時に起きて、本堂へ出て看経かんきんする。「若いお子さんたちは身仕度をして本堂へ歩いて来るまでがまるで夢中で」
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
呉羽之介は不思議にも、先程の恐ろしい出来事と今聴くさびしき看経かんきんの声とに頭がみだされ、今迄の来し方を思い出しました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
折からそこへ階段を上って来た司祭と補祭を通すために、彼はいきなりわきへ身を引いた。彼らは看経かんきんに来たのである。
小さな鋼鉄くろがねの如意を持ちまして隣座敷へ泊った和尚様が、お湯に入り、夕飯ゆうはんべてりますと、禅宗坊主だからちゃんと勤めだけの看経かんきんを致し
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
宮のお居間だったお座敷の戸を薫があけてみると、床にはちりが厚く積もっていたが、仏だけは花に飾られておわしました。姫君たちが看経かんきんしたあとと思われる。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
 業風ごうふう過ぐるところ花空しく落ち 迷霧開く時銃忽ち鳴る 狗子くし何ぞかつて仏性無からん 看経かんきん声裡三生さんせいを証す
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
りをするのから牛乳の世話まで、和尚自身が看経かんきんの暇には、面倒を見ると云う始末なのです。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくしは幼少の頃からこの像の前に拝跪はいきし、朝な夕な看経かんきん供養をしてきました、ひと口に申せばこの釈迦牟尼仏に仕えてきたのです、いったいこれはどういうわけですか
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「夜もけた。さらばおれはこれから看経かんきんしょうぞ。和女おことは思いのまにまにねよ」
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
看経かんきんを止めて、静かに振り向いた庵主の顔は、何という邪念のない平静さでしょう。
七十七になる老僧はそこにとぢこもつて朝夕の看経かんきんのほかにはもの音もたてない。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
「あなたはこの仮り枕をお使いなされませ。では一刻も早く横になって、お疲れを直されるがよいでしょう。わたくしは暫く看経かんきんをいたして、あとで床に入りますから、どうぞお先へ……」
鍵から抜け出した女 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御本尊様の前の朝暮ちょうぼ看経かんきんには草臥くたびれかこたれながら、大黒だいこくそばに下らぬ雑談ぞうだんには夜のふくるをもいとい玉わざるにても知るべしと、評せしは両親を寺参りさせおき、鬼の留守に洗濯する命じゃ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
父は童顔仙躯どうがんせんくとでもいうように、眉まで白く長かった。いつも静かな看経かんきんのひまひまには、茶を立てたり、手習いをしたり、暦を繰ったり仏具を磨いたりして、まめまめしい日を送っていた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
なお、これは余談ですが、まもなく本郷妻恋坂の片ほとりに、三体の子ども地蔵が安置されて、朝夕、これに向かって合掌看経かんきんを怠らぬ年老いた尼と、年若い尼のふたりが見うけられました。
看経かんきん二タとき、巧雲は、御本尊の地蔵菩薩ぼさつまでが、いつかしら裴如海はいにょかいの色白な顔に見えてきて、るると乱れる香煙の糸もあやしく、心は故人の願解がんほどきどころか、わが生身なまみ願結がんむすびで、うつつはなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弥陀仏像を柱の中に収め朝夕看経かんきんして維新後に及べり、と。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
最初の緊張がゆるむと、わたくしは寺僧が看経かんきんするらしい台の上に坐して、またつくづくと仰ぎ見た。美しい荘厳な顔である。力強い雄大な肢体である。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
奥の方では看経かんきんを致すものもあり、本堂でお経を上げて居るものもありまして、種々いろ/\働いて居りまする。
発心ほっしんの由来を承りたいと云うと、やはり年老いた入道で、衣の破れたのに七条の袈裟けさをかけて看経かんきんしていたが、道行どうぎょうに痩せて顔の色は黒く、哀れなさまをしているものゝ
三人法師 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
遠くからをしのぶ人のざわめきがきこえて来たので、藤右衛門はふとわれにかえった、耳にたつほどではないが、病間のあたりでかすかに、音をしのばせた看経かんきんの声がしはじめた。
日本婦道記:松の花 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
庵室の中は貧しい灯が入って、鉄心道人は看経かんきんをおわったところでした。
そんなことを考えているうちに、看経かんきんは終った。
鍵から抜け出した女 (新字新仮名) / 海野十三(著)
終日佛間ぶつまにいて、冥想めいそうふけるとか、看経かんきんするとか、何処かの貴い大徳だいとこを招いて佛法の講義を聴聞ちょうもんするとか、云うような日が多くなったので、乳人や女房たちは愁眉しゅうびを開いて
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その後看経かんきんのついでにある経に「仏法をがくせんと思はゞ三世の心を相続することなかれ」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
なんの親同胞きょうだいを捨てゝ出る様な者は娘とは思わぬ、かたき同士だ、病気見舞にも行ってくれるな、彼様あんな奴は早く死ねばいゝ、と口では仰しゃるけれども、朝晩如来様に向って看経かんきんの末には
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
折から下の本堂で、看経かんきんの鐘がゴーンと鳴りました。
私は彼方あっちへ往って看経かんきんをしまってから緩々ゆる/\と話をいたしましょうが、お前さん、軽はずみな事をなすってはなりませんよ、お前さんに会いたがって、毎日の様に当寺うちへお参りに来る人があるから