直截ちょくせつ)” の例文
「だいぶきびしいな」と七十郎は書状を巻いた、「このまえ諸家へ配ったものより、字句がずっと直截ちょくせつで手きびしいようじゃないか」
私は人間らしいという抽象的な言葉を用いる代りに、もっと直截ちょくせつで簡単な話をKに打ち明けてしまえば好かったと思い出したのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
君も悧巧りこうになったね、君がテツさんに昔程の愛を感じられなかったなら、別れるほかはあるまい、と汐田の思うつぼを直截ちょくせつに言ってやった。
列車 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いや、むしろ直截ちょくせつに云いましょう。だいたい装飾灯シャンデリヤが再び点いた時に、左ききであるべき貴方が何故、キューを右に提琴ヴァイオリンを左に持っていたのですか
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それだのに何で自分が彼を殺す気になったのか、直截ちょくせつに言えば彼の鼻である。彼の鼻が自分の気に喰わなかったからである。
鼻に基く殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
あらゆる新流行に対して、その深い原理性を丹念に研究しなくとも直截ちょくせつに感覚からしての適応性優秀性を意識出来でき敏感びんかんさを目立って発達させて来た。
この北条早雲の名において、『早雲寺殿二十一条』という掟書おきてがきが残っているが、これはその内容の直截ちょくせつ簡明な点において非常に気持ちの好いものである。
実に、寸毫すんごうといえども意趣遺恨はありません。けれども、未練と、執着しゅうぢゃくと、愚癡ぐちと、卑劣と、悪趣と、怨念おんねんと、もっと直截ちょくせつに申せば、狂乱があったのです。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
攘夷じょうい家の口吻こうふんを免れずといえども、その直截ちょくせつ痛快なる、懦夫だふをして起たしむるにあらずや。述懐じゅっかいの詩にいわく
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その理論を直截ちょくせつに支持することのほうが、危険の度は少ないだろうということを、少しも考えてはいなかった。
直截ちょくせつにいえば、どの政党も皆官僚の変形であって、官僚が政党をののしり、政党が官僚を罵るのはからすが互に色の黒いのを罵るのに等しく、笑うべきことであるのです。
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
一首の意は、夜の床でも可哀いい妻だが、昼日中でもやはり可哀かあいくて忘れられない、というので、その言い方が如何にも素朴直截ちょくせつで愛誦するにうべきものである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
親々おやおやはこの恋を許さざりき、そのゆえはと問わば言葉のかずかずもて許し難き理由いわれを説かんも、ただ相恋うるが故にこの恋は許さじとあからさまに言うの直截ちょくせつなるにしかず。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
為兼は心に感ずるところを直截ちょくせつに詠もうとする。そういう為兼は歌の理想を『万葉集』に見る。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
沼南が議政壇に最後の光焔こうえんを放ったのはシーメンス事件を弾劾だんがいした大演説であった。沼南の直截ちょくせつ痛烈な長広舌はこの種の弾劾演説に掛けては近代政治界の第一人者であった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
われわれの生命をゆする程、われわれの感情に直截ちょくせつなものは、今使われている国語なのだから、詩語と日常語とが同じであると言う事は、一通りも二通りも考えてよいことだ。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
この論文と僅少きんしょうの時日の隔たりしか持たぬ小説『クロイツェル・ソナタ』の中で、作者が直截ちょくせつ喝破かっぱしているところによると、人間の欲望は善の目的到達を妨げる障碍であって
此女が定基に対して求めたことは無論恋敵こいがたきの力寿を遠ざけることであったろうが、定基は力寿に首ったけだったから、それを承知すべくは無いし、又直截ちょくせつな性質の人だったから
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いつ、どこでも、何人も、必ずそう信ぜねばならぬ、不朽の真理を、きわめて直截ちょくせつ簡明に説いているのが、この『心経』です。般若の哲学、それは決して古いインドの哲学ではありません。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
その直截ちょくせつな表現は、ひろ子の心持とも云えた。お花さんが、その話をきいて
乳房 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
長島を攻めたり、北陸を攻めたり、みな枝葉末節です。なぜ抜本直截ちょくせつ的に、その傀儡かいらい者たる本願寺を討ち、また大挙、中国攻略の軍を決断なさらぬのか……官兵衛は実に歯がゆいと思います
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
直截ちょくせつに語れ。脂粉と嬌飾きょうしょくとをなくして語れ。理解されるように語れ。一群の精緻せいちな人々からではなく、多数の人々から、もっとも単純な人々から、もっとも微々たる人々から、理解されることだ。
極めて直截ちょくせつに表現し得る「古いオルガン」を捜したと言われている。
それは明瞭めいりょう直截ちょくせつで公明であって、何らの疑雲をも起こさせないことである。しかしながら、隔離生活の権利は、その障害と弊害とをもってしてもなお、確認され許容されんことを欲するものである。
吾々のルンペン道は甚だ簡明直截ちょくせつである。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
僕自身だって、いま、日本の忠義の一元論のような、明確直截ちょくせつの哲学が体得できたら、それでもう救われるのですからね。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私はその時自分の考えている通りを直截ちょくせつに打ち明けてしまえば好かったかも知れません。しかし私にはもう狐疑こぎという薩張さっぱりしないかたまりがこびり付いていました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、平民のだれかと話すのにいつも窮屈さを覚えはしたけれど、笑顔をしながらいて話をしようとつとめた。ところがこんどは、ごく簡単な直截ちょくせつな言葉を発することができた。
サー・ゼームス・マッキントッシュ曰く「文明諸国の立法のもっとも重要なる点をば直截ちょくせつに、全体に、かつさらに復古すべからざるほどの変革を及ぼせしはおそらくはただこの一書ならん」
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「母にさはらば」という方が直截ちょくせつでいい。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
平次の問いは直截ちょくせつ仮借かしゃくしません。
彼は直截ちょくせつに生活の葛藤かっとうを切り払うつもりで、かえって迂濶うかつに山の中へ迷い込んだ愚物ぐぶつであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その小説の描写が、しからぬくらいに直截ちょくせつである場合、人は感服かんぷくと共に、一種不快な疑惑を抱くものであります。うま過ぎる。淫する。神を冒す。いろいろの言葉があります。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もちろん、ジャックリーヌのほうがいっそう真実で直截ちょくせつで熱烈であった。小さな彼女の一身のうちには、勇ましい生活にたいする憧憬どうけいが、ほとんど勇壮とも言える願望が、宿っているのだった。
彼れ英邁の資を以て、親藩の威望を擁し、その直截ちょくせつ的哲理を鼓吹こすいす、天下いずくんぞ風靡ふうびせざらんや。尊王の大義は、元和げんな偃武えんぶいまだ五十年ならざるに、徳川幕府創業者の孫なる彼の口より宣伝せられぬ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
周さんの発見した神の国の清潔直截ちょくせつの一元哲学を教えて啓発してやるのだと意気込んでいたが、やがて夏休みになり、周さんは東京へ、私は山奥の古里に、二箇月ばかり別れて暮し、九月
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「よろしい。それじゃ直截ちょくせつに言って、戦争だということにしよう。」
「彼にはただ、情熱のもっとも直截ちょくせつなはけ口が欲しかったのである。考えることよりも、唄うことよりも、だまってのそのそ実行したほうがほんとうらしく思えた。ゲエテよりもナポレオン。ゴリキイよりもレニン」
猿面冠者 (新字新仮名) / 太宰治(著)
すると彼は直截ちょくせつに答えた。