生死しょうし)” の例文
驚いてその仔細をただしたが、彼女かれは何にも答えなかった。赤児は恐らく重蔵のたねであろうと思われるが、男の生死しょうしは一切不明であった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
俊寛しゅんかん云いけるは……神明しんめいほかになし。ただ我等が一念なり。……唯仏法を修行しゅぎょうして、今度こんど生死しょうしを出で給うべし。源平盛衰記げんぺいせいすいき
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「海の方をななめに向いて立っています。私はここで、生死しょうしの境の事を言わねばならなくなりました——一杯下さい……」
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お前が来ておくれたので安心した。」殆ど居士の生死しょうしを一人で背負っていたかのような感があった黄塔君は、重荷をおろしたような顔をして余に言った。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
実は姉と私と神仏かみほとけに信心をして、行方を捜したのだが、今に死んだか生きたか生死しょうしの程も分らずに居るが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あなたの大事なお父さんの病気をそっち退けにして、何であなたがうちけられるものですか。そのお父さんの生死しょうしを忘れているような私の態度こそ不都合です。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
生死しょうしの憂いを慰められしも、さてかなたを思いやりて、かくもしたしと思う事の多きにつけても、今の身の上の思うに任せぬ恨みはまたむらむらと胸をふさぎぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「どうもそれだけでは、河内園長の生死しょうしについて判断はいたしかねますが、お望みとあらば、もう少し貴女あなた様からもうかがい、その上で他の方面も調べて見たいと思います」
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一同稲荷社いなりしゃまいって神を拝し、籤引くじびきによって生死しょうしを定めるが好い。白籤に当ったものは差し除かれる。上裁を受ける籤に当ったものは死刑に処せられる。これから神前へ参れ
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
たのむ師もなく、山野の危難と、生死しょうしちまたを修行のゆかとして、おぼろげながらも、剣の何物かを知らんとし、道に学ぶためには、いつでも死身となる稽古をして来た武蔵とは
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生死しょうし岸頭がんとうに立って人のるべき道はただいつ、誠を尽して天命を待つのみ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
生死しょうしのかせわのひまいらぬ
はり自分が最初はじめに疑っていた通り、生死しょうし不明の父はこの穴の底深き処に葬られているのかも知れぬ。それにしても、お杉はうしたろう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さればこそ、この駆落に対して、不相当にもったいぶった意味をつけて、ありがたがらないまでも、一生の大事件のように考えていた。生死しょうしの分れ路のように考えていた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蹴られておかめはアッとばかりに、恐ろしく削りなせる二三丈もあるがけの下を流るゝ吾妻川の中へ、乳児ちのみを抱いたまゝごろ/\/\と転げ落ち、生死しょうし知らずに成りました。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ただ生死しょうしともにわが妻は彼女かれと思いてわずかに自ら慰めあわせて心に浪子をば慰めけるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
友達がなぜそんなに馬を気に掛けるかというと、馬は生死しょうしを共にするものだからと、貞固は答えた。厩から帰ると、盥嗽かんそうして仏壇の前に坐した。そして木魚もくぎょたたいて誦経じゅきょうした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
婆々と云うよ、生死しょうしを知らぬ夫人の耳に、鋭くその鑿をもってえぐるがごとく響いたので
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人間の煩悩五欲生死しょうし解脱げだつなどのうえに、非常に大きな光明をもたらして、日常生活に直接むすびつきましたから、上下を通じて、僧門の勢力は、神社のまつりなどの比ではありませんが
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これで一方の埒は明いたが、磯野小左衛門のゆくえは判らなかった。お節の生死しょうしも知れなかった。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いまだに行方も知れず、生死しょうしの程も分りません、これお繼私のお父様とっさまの事もお前に話して有るが、御存生ごぞんしょうでお目に掛る事が有ったらば、私は斯々これ/\の訳で不覚を取ったが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
事は冬の下から春が頭をもたげる時分に始まって、散り尽した桜の花が若葉に色をえる頃に終った。すべてが生死しょうしたたかいであった。青竹をあぶって油をしぼるほどの苦しみであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いくたびも生死しょうしの境にさまよいながら、今年初めて……東京上野の展覧会——「姐さんは知っているか。」「ええこの辺でも評判でございます。」——その上野の美術展覧会に入選した。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巡査の決心と勇気とに励まされ、これに又幾分の好奇心もまじって、数名の若者は其後そのあとに続いた。七兵衛等はあとに残って、生死しょうし不分明ふぶんみょうの市郎と三個みつの屍体とを厳重に守っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
孝「へい、それにきまして、わたくしうより尋ねる者がございますが、是はうしても逢えない事とは存じて居りますが、其の者の生死しょうし如何いかゞでございましょう、御覧下さいませ」
木魚にされた提紙入には、美女の古寺の凌辱りょうじょくあやぶみ、三方の女扇子には、姙娠の婦人おんな生死しょうしを懸念して、別に爺さんに、うら問いもしたのであったが、爺さんは、耳をそらし、口を避けて
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生死しょうしなどは無論考えの中になかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)