猩々しょうじょう)” の例文
猩々しょうじょうが死にかけたら、きっと、園長は徹夜するだろう。そして猩々を抱くだろう。美術館の予算なんてものは、動物園へ皆やるがいい。
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
鋭い獣の鳴き声は——それは猩々しょうじょうの鳴き声であるが——樹立こだち彼方かなた、鉄柵の向こうの公園の外の人道から、またもその時間に聞こえて来た。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ステッキをついて猩々しょうじょうのようにひげをはやしたばかに鼻の高い「おろしゃ人」が虎よりは見物人の方を見ながらのどかにパイプをふかしている。
と、元来の下戸の得には、僅一二杯の酒にて、陶然酔境に入り、神気亢進、猩々しょうじょう顔に、塩鰯しおいわしの如き眼して、釣談泉の如く、何時果つべしとも測られず。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
インドで『十誦律』巻一に、動物を二足四足多足無足と分類して諸鳥猩々しょうじょうおよび人を二足類とし、巻十九に孔雀、鸚鵡おうむ狌々しょうじょう、諸鳥と猴を鳥類に入れあり。
一寸法師の緑さんは、やっと目をくことが出来た。不気味な顔が、猩々しょうじょうの様に真赤になっていた。彼は肩息かたいきをしながら、ヒョロヒョロと立上ろうとした。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
百分の一近辺のものは猩々しょうじょう、鹿、猫など、それから下って百分の一より千分の一の間にあるのが麒麟きりん、象、羚羊かもしか、獅子、袋鼠、鷲、白鳥、きじ、鼠、蛙、鯉など
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
何の事ぞ、酒井先生の薫陶くんとうで、少くとも外国語をもって家をし、自腹で朝酒をあおる者が、今更いかなる必要があって、前世の鸚鵡おうむたり、猩々しょうじょうたるを懸念する?
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
厚いくちびる——人間離れのした相貌そうぼうをグッと前へ突き出して、腰を二つに折り、長い両手のさきを地にひきずったところ……さながら絵に画く猩々しょうじょうそのままで
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
然し、それだけでは、余りに顔粧かお作りめいた記述である。そのようにして、色の対照だけで判ずるとすれば、さしずめお筆を形容するものに、猩々しょうじょうが芝居絵の岩藤。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
おきなのとなりに猩々しょうじょうがあり、猩々のうしろには頼政よりまさが出没しているという有様で、場面の事件と人物には、更に統一というものはないが、拍子ひょうしだけはピッタリ合って
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
飲むんだ、また、これが猩々しょうじょうのように。——とうとう夜明の三時まで。——あくる日眼をさますと燈火あかりがついていた。——金平さんは半病人のかたちで頭が上らない。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
大変酒好きなので、猩々しょうじょうというあだ名をつけられて、あまり人から相手にされませんでした。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
何かんでいるようにもぐもぐ口の端から泡を出してひとごとをいっていたが、やがて、猩々しょうじょうが腹を掻くときのように、ぬうと胸を反らすと、ぎょろりと孔明をにらみつけて
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猿でも猩々しょうじょうでも、そんなものには構わずに置くがい。先年駐在所の巡査が𤢖を追って山の奥へ入ったら、その留守に駐在所から火事がはじまって、到頭とうとう全焼まるやけになってしまったことが有る。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ところで人間に最も似ているのは猿であり、猿の中でもアメリカの猿よりは東半球の猿のほうが人間によく似、その中でも猩々しょうじょうやチンパンジーのごとき大猿がもっともよく似ている。
我らの哲学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
猩々しょうじょう、猿の人、あけぼのの人(後に述ぶ)、現代人と、だんだん姿勢が直立して来るに従って、脳髄も次第に大きくなって来るありさまは、ここに挿入そうにゅうせる図によりてその一斑を知らるべし。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
その他、猩々しょうじょうの鼻やひょうの爪、翡翠かわせみの死体、鶴の抜け羽と種々のものをもらいに行くが、翡翠の死体を黒焼きにして飲むと肺病がなおるとか、動物園でも死にしだい塩漬けにしておくそうだ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
高松の町を歩くと大変珍らしいたこを売っているのが眼につきます。模様が他の国にないものが多いのであります。せみだとか牡丹ぼたんだとか中でも不思議なのは猩々しょうじょうさかずきを手に持つ図柄であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
年の頃五十余、頭の毛は大分禿げかゝり、猩々しょうじょうの様な顔をして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
国周は専ら役者狂言の図を描き二代目の国貞(梅蝶楼と号す)は美人と『田舎源氏』とを描けり。余は猩々しょうじょう狂斎の背景に二代目国貞が新柳二橋しんりゅうにきょうの美人を描きたる一枚絵に時としてき者あるを見たり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
じいさんは猩々しょうじょうとあだ名されてるくらいの酒のみですし、天狗てんぐはまた名高い酒好きなものですから、ちょうどいい相手でした。けれどそのうちに、二人とも酔っぱらってきました。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
賊は猩々しょうじょうの様に真赤になって、恐ろしい目で蘭堂を睨みつけ、途切れ途切れにうなった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼等は、拍子に合わせて、さんざんに踊ると、赤頭あかがしら猩々しょうじょうの面をかぶったのが
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
蒼白い月の光の中に、白布しらぬのが柱のように宙へ延び、それがユラユラと歩いて来る後から、姑獲鳥うぶめのように子を抱いた女と、竹の杖をついた盲目の男と、猩々しょうじょうとが歩いて来るからであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ある時、甚だ忙がしそうに門を叩く者があるので、蒋は扉を隔ててうかがうと、一匹の猩々しょうじょうが白い象にまたがっていた。蒋は猩々がよく人の言葉を語ることを知っているので、内からいた。
あんな猩々しょうじょうを飼っておいて何がおもしろいんだろう? と家中の者が眉をひそめるなかに、おつるは、なんの縁故もない泰軒を先生と呼んで一間ひとまをあたえ、かいがいしく寝食の世話を見ていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
猩々しょうじょうにいたるまですべての生物を一列に並べて舞台の背景とし、その前へ人間を引き出して浮世の狂言を演ぜしめ、自分は遠く離れて棧敷さじきから見物している気になって、公平に観察するのである。
生物学的の見方 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
「あれは駝鳥か猩々しょうじょうめすか」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
霜の降ったように白く見える庭の地面に銀毛を冠った巨大な猩々しょうじょうが空に向かって河獺かわうそのように飛んでいる。その猩々をあやすように、両手を軽く打ち合わせているのは白衣を纒った少女である。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
床几しょうぎに腰をかけた猩々しょうじょう仮面めん
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「与一郎。猩々しょうじょうを舞え」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「無論に作り話でしょうが、ドイルの小説にはこういうことが書いてあるんです。大西洋のある島の耕作地でやはり人間が紛失する。骨も残らない、血のあともない。よく詮議せんぎしてみると、結局それは大きい黒猩々しょうじょうの仕業であったというのです。」
麻畑の一夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それにしても猩々しょうじょうは何んのために箱の中になんかいたんでしょう!」
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
猩々しょうじょうにさらわれた連判状か?」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
猩々しょうじょうの酒兵衛」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)