むじな)” の例文
無きに如かざるの精神にとっては、簡素なる茶室も日光の東照宮も、共に同一の「有」の所産であり、詮ずれば同じ穴のむじななのである。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
マットむじなと云う語は、ケット部落に近き今も越後、信濃の山間地方において行われ、その語を以てよく真人村の人をからかうそうである。
「ケット」と「マット」 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
むかしむじなの化身と噂された守鶴という老僧が千人の茶会のとき、汲めども尽きぬ妙術を使った由緒の物語を節をつけて喋ります。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
川瀬林学博士が鑑定人として控訴審に招かれ、やはり平岩君と同じに、狸むじな同一説を主張せられたが、判決は結局無罪であったように記憶する。
狸とムジナ (新字新仮名) / 柳田国男(著)
山にはおおかみの話が残り、畠にはむじなたぬきが顕われ、禽獣とりけものの世界と接近していたような不思議な山村の生活の方へ帰って行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
但しそれは人間の骨ではない、いずれも獣の頭であることが判った。その三つは犬であったが、他の二つはむじなか狸ではないかという鑑定であった。
月の夜がたり (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「でも、温泉といった方が景気がいいからですわ。そしてね、おじさん、いまの、あれ、むじなの湯っていうんですよ。」
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小泉八雲の怪譚といえば、私の好きなものはむじなの怪談である。商人が国坂くにざかを通っていると娘が泣いている。
怪譚小説の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
僕の見当には、狂いが無い。叔父さんとポローニヤスは、はじめから同じ穴のむじなだったのさ。どうして僕は、こんなわかり切った事に気がつかなかったのだろう。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
行灯あんどんやら乾菜ひばやら古洋灯ランプやら、さまざまなものをごたくさとつるし、薄暗い土間の竈の前でむじなが化けたようなちんまりした小娘が背中を丸くして割木を吹いている。
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
朝から始まって夕刻まで、やぶという藪、林という林、墓地から田圃たんぼから、町家の裏、軒の下、下水の中まで探し廻りましたが、狸はおろか狐もむじなも飛出しはしません。
次第に眷属けんぞくが集まって来て、荘厳を極めた天狗の宮は、獣の糞や足跡で見る蔭もなく汚されてしまい、窩人達の家々にはたぬきむじなが群をなして住み子を産んだり育てたりした。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そう考えると、自分などは、まずたぬきむじなの類かと思って、ちょっとさびしい心持ちがした。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
となし、千寿王の失踪などは、母として登子も未然に知っていたにちがいなく、赤橋殿もまた、知りつつ見のがしていた同穴のむじなか? とさえ極言する輩もないではなかった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おなじ穴のむじな友達が出て殊勝らしく応待して、包んで来た香奠こうでんの包みをもってはいると、そんな事は知らない姉じゃ人が、日頃厄介をかける札差の番頭が来たというので挨拶に出て
「ジョージ、妾の愛のすべてを投げ出しても惜しくない。恋のむじなになるまでは。」
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
それから四、五年の間、その寺はれるままにまかせて、きつねむじなの住み家となっていたが、それではこまるというので、村の人たちは隣村となりむらの寺から一人のわかぼうさんをんで来てそこの住職とした。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
人間の健康さだか、森の狸やむじなのやうな健康さなのだか知らないが、私は今でも忘れない。ヒョイと帽子をつかみとつて横へ投げすてた。
人間ばかりでなく、種々のけものも襲ってくるらしい。現に隣りの家では飼い鶏をしばしば食い殺された。それは狐かむじなの仕業であろうということであった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うん、……なぜっていえば、そこいらでやたらに、狐がいたり、狸だかむじなだか知れない奴がゴソゴソするから、仮面めんをかぶって威張っていたら寄りつけまいと思ったからさ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山には狼の話が殘り、畠にはむじなや狸が顯はれ、暗くなれば夜鷹だの狐だのの鳴聲のするのが私の故郷でした。それほど私達の幼少をさない時の生活は禽獸とりけものの世界と接近したものでした。
禰宜 (解きつつ)山犬か、野狐か、いや、この包みました皮は、むじならしうござります。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いやむじなだ」「いや河獺かわうそよ」「いやいや鼯鼠むささびに相違ない」——噂は噂を産むのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人間ばかりでなく、種々のけものも襲ってくるらしい。現に隣りの家では飼い鶏をしばしば食い殺された。それは狐かむじなの仕業であろうということであった。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
毎晩の囲炉裏ばたを夜業よなべの仕事場とする佐吉はまた、百姓らしい大きな手につばをつけてゴシゴシとわらいながら、たぬきの人を化かした話、はたけに出るむじなの話、おそろしい山犬の話
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
むじなめ!」と一喝浴びせかけ、引き出した十手で、ガンと真向を! ……
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ここらには狸やむじなも棲んでいるということで、夜は時どき狐の鳴き声もきこえました。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とうさんはこのきな老人らうじんから、はたけよりあらはれたたぬきむじなはなしやましたきじはなし、それから奧山おくやまはうむといふおそろしいおほかみ山犬やまいぬはなしなぞをきましたが、そのうちにねむくなつて
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「狐狸のだまし合い、考えて見りゃア面白いよ。お前は女だむじなと行け」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そう云わなけりゃあうちを出られねえから、柄にもねえ信心参りなぞに出かけたに違げえねえ。あのむじな野郎、途中で連れに別れたなんて云うのは嘘の皮で、始めから自分ひとりですよ」
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから大きな百姓らしい手で薪を縛る繩などをゴシ/\とひながら、種々なお伽話や、むじなの化けて來た話や、畠の野菜を材料たねにした謎などを造つて、私に聞かせるのを樂みにしたのも
一匹のむじなが斃れている。頭が無残に割れている。
稚子法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蛗螽いなごを捕つたり、野鼠を追出したりして、夜はまた炉辺ろばたで狐とむじなが人を化かした話、山家で言ひはやす幽霊の伝説、放縦ほしいまゝな農夫の男女をとこをんなの物語なぞを聞いて、余念もなく笑ひ興じたことを憶出おもひだした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「あの御新造はゆうべむじなを殺したそうですよ。」
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)