にごり)” の例文
水の色は殊にややにごりを帯びたが、はてもなく洋々として大河のごとく、七兵衛はさながら棲息せいそくして呼吸するもののない、月世界の海を渡るにひとしい。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下の方は小さい滝があったので右へ巻いたが、藪で意外に時間を食った。にごりの小屋には寝具がなかったので東信電力の金原様のところへ泊めてもらった。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
おつぎは十八じふはちというても年齡としたつしたといふばかりで、んな場合ばあひたくみつくらふといふ料簡れうけんさへ苟且かりそめにもつてないほどめんおいてはにごりのない可憐かれん少女せうぢよであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
不信の波の何時しかに、心のふちに立ちめて、底のにごりを揚げつらん、今日まで知らで我れ過ぎぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
で、腕の血色けつしよくを見ても、にごりれて、若い血が溌溂はつらつとしてをどツてゐるかと思はれる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
翌日あくるひ昨日きのうと打って変って好い天気になった。起き上る時、あらゆるにごりを雨の力で洗い落したように綺麗きれいに輝やく蒼空あおぞらを、まばゆそうに仰ぎ見た敬太郎は、今日きょうこそ松本に会えると喜こんだ。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今はもうにごりのないようにおなりなされたお方が
あなあはれ、明日あすもまたにぶき血のにごりかからむ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ちりの世のにごりに染まぬたましひの。
泣けよ恋人 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
にごりむひくきながれ
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
それに下の川の音を滝だと思って右へ右へと巻いたが、いくら巻いても音がするので、思い切って、尾根のように広い谷があったので、それを降りて行ったら難なくにごりの川原へ出ることができた。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
碧水金砂へきすいきんさ、昼のおもむきとは違って、霊山りょうぜんさき突端とっぱな小坪こつぼの浜でおしまわした遠浅とおあさは、暗黒の色を帯び、伊豆の七島も見ゆるという蒼海原あおうなばらは、ささにごりにごって、はてなくおっかぶさったようにうずだかい水面は
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
めしひし沼にふりそそぎ、にごりの水の
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
碧水金砂へきすゐきんさひるおもむきとはちがつて、靈山りやうぜんさき突端とつぱな小坪こつぼはまでおしまはした遠淺とほあさは、暗黒あんこくいろび、伊豆いづ七島しちたうゆるといふ蒼海原あをうなばらは、さゝにごりにごつて、はてなくおつかぶさつたやうにうづだか水面すゐめん
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
晩春おそはるにごりおもたき靄のうち
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)