いん)” の例文
富貴もいんするあたわずといったようなところがあった。私の父も、また兄も、洋服は北さんに作ってもらう事にきめていたようである。
帰去来 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは工人自身だけの娯しみにいんしたものであって、店の者はうんざりした。だがそういうことのあとで店の者はこの辺が切り上がらせどきと思って
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もっとも食足くいたればいんを思うのは、我々凡夫のならいじゃから、乳糜を食われた世尊の前へ、三人の魔女を送ったのは、波旬もぱれ見上げた才子じゃ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
耳剽じひょう口衒こうげんし、いろいつわことばいんにし、聖賢にあらずして、しかも自立し、果敢かかん大言して、以て人に高ぶり、而して理の是非を顧みず、これを名を務むるのという。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その前後が最も小生の酒にいんしてゐた頃で、金十錢あれば十錢、五錢あれば五錢を酒に代へ飮んでゐた。イヤ、それだけでなく帽子が酒になり、帶までもそれに變つた。
また流行ともいえないほど、日常のものになりきっていたが、これに伴う趣向しゅこう数寄すきとか道具のぜいとか、いんすればおのずからどんな道にも余弊よへいの生じるのは同じことで
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
農家の土間へ牀机しょうぎをすえ手製の卓を置いただけの暗い不潔な家で、いわゆる地方でだるまという種類に属する一見三十五六、娼妓しょうぎあがりのいんをすすめる年増女が一人いた。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
オースチン師は一揖いちゆうした。彼は少しも恐れてはいない。彼の恐れるのは不義ばかりだ、金にはいんせず武威にも屈せず真箇大丈夫の英雄僧には、こうした威嚇いかくは無用である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
趣味にいんしたものが、如何に窯を痛めているかが判る。それゆえそれらの窯では不思議にも皆美しいものと醜いものとを同時に焼く。そうして後者の方に高い値段をつける。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その中でも「蛇性じゃせいいん」と「青頭巾あおずきん」なんか、よく声を出して、僕に読み聞かせたものだ。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼らは何事かを思い詰めると、狂人の如くその一念に凝り固まり、理想にいんして現実を忘却してしまうために、ついには身の破綻はたんを招き、狂気か自殺かの絶対死地に追い詰められる。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
老狐らうこ婦女ふぢよばかしていんするもあり、いんせられし女はかならずかみをみだし其処にして熟睡じゆくすいせるがごとし、そのよしをたづぬれども一人も仔細しさいをかたりし女なし、みな前後ぜんごをしらずといふ
和田先生は持てん八十てんだが、五十前後の年はいの方にはめづらしい奇麗きれいな、こまかなりをされる。しかも、ややいんするといへるほどのねつ心家で、連夜れんやほとんど出せきかされた事がなかつた。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
霍公鳥ほととぎすの来ることを希望しているのだが、既に出た皇子の御歌の如く、おおどかの中におごそかなところがあり、感傷にいんせずになお感傷を暗指あんじしている点は独特の御風格というべきである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
いまのやつらはへそを軽蔑けいべつするからみな軽佻浮薄けいちょうふはくなのだ、へそは力の中心点だ、人間はすべての力をへそに集注すれば、どっしりとおちついて威武もくっするあたわず富貴もいんするあたわず、沈毅ちんき
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
れ正学先生の詩にけるのけんなり。しりぞじつたっとび、雅を愛しいんにくむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
或時あるときねここゑをなして猫をよびいだしていんかつくらふ。