浅瀬あさせ)” の例文
しかしMはいつのまにか湯帷子ゆかた眼鏡めがねを着もの脱ぎ場へ置き、海水帽の上へほおかぶりをしながら、ざぶざぶ浅瀬あさせへはいって行った。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「あのあたりが、いいだろう。」と、おじさんがゆびさした、半分はんぶん浅瀬あさせにのめりているおおきないしうえで、二人ふたりは、やすむことにしました。
雲のわくころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
多くの小船は、たちまちそこに集まってかぎをおろし、エイヤエイヤの声をあわせて、だんだんと浅瀬あさせのほうへひきずってくるようすだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浅瀬あさせの波れて底なる石の相磨して声するようなり。道の傍には細流ありて、岸辺の蘆には皷子花ひるがおからみつきたるが、時得顔ときえがおにさきたり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
みんなおこって、何かおうとしているうちに、その人は、びちゃびちゃきしをあるいて行って、それから淵のすぐ上流の浅瀬あさせをこっちへわたろうとした。
さいかち淵 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おねえさまたちが、浅瀬あさせに乗りあげた船からひろってきた、めずらしいものをかざってあそんでいるようなときでも、このお姫さまだけはちがいました。
その軍艦淡路が、昨夜九十九里浜の沖で、どうしたわけか進路をあやまって、浅瀬あさせにのりあげてしまったのです。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おい、お妙、おつなことを言うぜ。背中の児に浅瀬あさせを教わるとはこのことだ」と、そして、お妙の背をさすって
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
広田先生の評によると与次郎のあたま浅瀬あさせみづの様に始終移つてゐるのださうだが、無暗に移る許で責任を忘れる様では困る。まさかそれ程の事もあるまい。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ニールスは、浅瀬あさせに白鳥たちがいると聞きましたので、さっそく海草の山のほうへおりていきました。まだ一ども野生やせいの白鳥をそばで見たことがないのです。
ところが父は、いきなりわたしのそばから馬首を転じると、クリミア浅瀬あさせからわきへそれて、河岸かしづたいにまっしぐらに飛ばし始めた。わたしは懸命けんめいにあとを追った。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
それと共に唯継のおこなひ曩日さきのひとはやうやく変りて、出遊であそびふけらんとするかたむきしを、浅瀬あさせなみも無く近き頃よりにはか深陥ふかはまりしてうかるると知れたるを、宮はなほしもきて咎めず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ごりは浅瀬あさせの美しい、水の流れる河原に棲息せいそくする身長一寸ばかりの小ざかなである。
京都のごりの茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
すぐに、淵のしもての浅瀬あさせやなをはりました。これでしもてに逃げることはできません。かみては滝ですから、そちらにも逃げられません。もう淵のなかにとじこめてしまってのです。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
主力を牽制けんせいしているあいだに、海蛇うみへび、ブラント、ブルークの三人は、浅瀬あさせづたいに川をわたって岩壁によじのぼり、川に面せる物置きの洞口の下におりてとつぜん洞を襲撃しゅうげきしたのであった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
真似まねをして投げる豆叔父さんの石は川の真中ぐらいで水に落ち、更にその真似をする自分のは、足もとの浅瀬あさせに水音を立てるのであったが、叔父のは向こうの海軍大学の石垣にぶつかるのであった。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
かれは、きたい気持きもちになって、ひと川辺かわべあるいていました。なつのころ、どこの子供こどものつけた足跡あしあとかしれないが、浅瀬あさせのどろのうえのこっていました。
丘の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
みんな待っているじゃないか。慥乎しっかりしろ、なんだ三十男が、少しばかり世間の浅瀬あさせおぼれたからと云って——
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの岩から、岩づたいにわたって、浅瀬あさせを通って行くのです。さ、僕の後についてきたまえ」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さっき川をえて見に行った人たちも、浅瀬あさせに立って将校の訓示を聞いていましたが、それもどうも面白おもしろくて聞いているようにも見え、またつまらなそうにも見えるのでした。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
川床かわどこは岩や小石で、ところどころに深みをつくり、そこには柳や杉などが岸にしげり、また浅瀬あさせとなり、そこにはこまかい砂で、せりなどの水草がはえて、小さな魚がおよいでいました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
と龍太郎はよろこんで、浅瀬あさせから項羽こううを乗りいれ、ザブザブ、ザブ……と水を切っていくうちに紺碧こんぺきとろをあざやかに乗りきって、たちまち向こう岸へ泳ぎ着いてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ギネタ湾頭の浅瀬あさせに艇をのしあげて、ぼくたちは「やれやれ助かった」と思った。ぼくたちは艇をとび出して、水を渡って海岸の砂の上に馳けあがり、気のゆるみで二人とも、人事不省じんじふせいおちいった。
恐竜艇の冒険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もんぺを穿き、白の髪止かみどめをしめた一だんの少女たちが、ひとりのわらべの手足をもってたすけあい、もりからさわへ、沢から渓流けいりゅうへ、浅瀬あさせをわたってザブザブと峡の向こうへよじのぼる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)