活花いけばな)” の例文
中川君、それではね、食卓を飾るのに西洋風の粗雑なつかしの花を用いずとも我邦わがくにには古来より練習した活花いけばなの特技があるでないか。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
陸は遠州流の活花いけばなをも学んだ。象棋しょうぎをも母五百いおに学んだ。五百の碁は二段であった。五百はかつて薙刀なぎなたをさえ陸に教えたことがある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そう云えば、此間、国際文化振興会主催で、輸出する映画日本の小学校、活花いけばな、日本画家の一日、日本の陶磁器などを見ました。
この建物のなかには、小さいとこを持った部屋があって、時々少年囚に、礼儀作法や活花いけばなをここで教えられるのだそうです。
活花いけばなの稽古の真似もするのがあって、水際、山懐やまふところにいくらもある、山菊、野菊の花も葉も、そこここに乱れていました。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
這入はいって見廻しただけで既に胴ぶるいの出そうな冷たさをもった部屋である。置時計、銅像、懸物、活花いけばな、ことごとくが寒々として見えるから妙である。
新年雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その室の特長として映るものは自分の家とはまるでかけはなれた明るさをもち、新しさをもち、その上掛軸や活花いけばなが整然として飾られているように思われた。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
東のすみに一夜作りの舞台ぶたいを設けて、ここでいわゆる高知の何とか踴りをやるんだそうだ。舞台を右へ半町ばかりくると葭簀よしずの囲いをして、活花いけばな陳列ちんれつしてある。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
少女は、一人でじっと悲しさや不安に沈みながらもふと今日は姉の活花いけばなの日であるという事を思出した。
咲いてゆく花 (新字新仮名) / 素木しづ(著)
越後はベッドの上に大きくあぐらをいて、娘さんの活花いけばな手際てぎわをいかにも、たのしそうに眺めながら
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
白猿はくゑん余光よくわう抱一はういつ不白ふはくなどのもとへも立入たちいるやうになり、香茶かうちや活花いけばなまで器用であはせ、つひ此人このひとたちの引立ひきたてにて茶道具屋ちやだうぐやとまでなり、口前くちまへひとつで諸家しよけ可愛かあいがられ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
活花いけばなにても遠州流など申して、一定の法則を墨守ぼくしゅ致し候も有之候へども、これ恐らくは小堀遠州こぼりえんしゅうの本意にはあるまじく、要するに趣味は規則をはづれて千変万化する所に可有之候。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ひとつは銀之丞が江戸で名高い、観世宗家の一族として、名流の子弟であるからでもあったが、主人嘉介が風流人で、茶の湯活花いけばなの心得などもあり、謡の味なども知っていたからであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
極意だの免許皆伝などというのは茶とか活花いけばなとか忍術とか剣術の話かと思っていたら、関孝和せきたかかずの算術などでも斎戒沐浴さいかいもくよくして血判をし自分の子供と二人の弟子以外には伝えないなどとやっている。
デカダン文学論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その後陶庵侯が京都の田中村に隠退してゐる頃、漱石氏も京都へ遊びに来合せてゐたので、それを機会に二人をさし向ひにき合はせてみようと思つたのは、活花いけばな去風こふう流の家元西川一草亭であつた。
私たち活花いけばなを活けるときによく経験することですが、一本の枝を取ってみて、この枝振りも面白くない、あの枝振りも面白くないと言って切り捨ててしまいます。枝ばかりでなく、花も同じことです。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「こいじゃから活花いけばなになりもさん」
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
こっち側は、その生垣と向い合った、しもたで、その隣がまたしもたや、中に池の坊活花いけばなの教授、とある看板のかかった内が、五六段石段をあがって高い。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
数日の後に矢島優善やすよしが、活花いけばなの友達を集めて会をしたいが、緑町の家には丁度い座敷がないから、成善の部屋を借りたいといった。成善は部屋を明け渡した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
都のはやりの派手な着物や帯をどっさり買ってやったら女房は、女心のあさましく、国へ帰ってからも都の人に負けじと美しく装い茶の湯、活花いけばななど神妙らしく稽古けいこして
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あなたはさだめて変に思うでしょう。その私がそこのおじょうさんをどうしてく余裕をもっているか。そのお嬢さんの下手な活花いけばなを、どうしてうれしがってながめる余裕があるか。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
活花いけばなの桃と柳はいうまでもありませんや、燃立つような緋の毛氈もうせんを五壇にかけて、まばゆいばかりに飾ってあります、お雛様の様子なんざ、私にゃ分りません、言ったって、聞いたって
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
Kは私に向って、女というものは何にも知らないで学校を出るのだといいました。Kはお嬢さんが学問以外に稽古けいこしている縫針ぬいはりだの琴だの活花いけばなだのを、まるで眼中に置いていないようでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それもそうだねえ。では、あの活花いけばなは?」
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
知ッてますよ、手習師匠兼業のやっこなんで、媽々かかあが西洋の音楽とやらを教えて、そのばばあがまた、小笠原礼法躾方しつけかた活花いけばな、茶の湯をあきなう、何でもごたごた娘子むすめッこすきな者を商法にするッていいます。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが今いった琴と活花いけばなを見たので、急に勇気がなくなってしまいました。あとから聞いて始めてこの花が私に対するご馳走ちそうに活けられたのだという事を知った時、私は心のうちで苦笑しました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
茶だの、活花いけばなだの、それより、小鼓を打ってね、この方が流行はやったそうです。四五年前に、神田の私の内へ訪ねて来た時、小鼓まで持参して、(八郎さん一調を。)と云うじゃありませんか。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時僕はある人に頼まれて、書斎で日本の活花いけばなの歴史を調べていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)