洋傘かさ)” の例文
その洋傘かさだって、お前さん、新規な涼しいんじゃないでしょう。旅で田舎を持ち歩行あるいた、黄色い汚点しみだらけなんじゃありませんか。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おはいんなさい。」と、姉は返事をしながら入口の障子をあけると、卅二三の薄い口ひげを生やした男が洋傘かさをすぼめて立っていた。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
浪子は風通御召ふうつうおめし単衣ひとえに、御納戸色繻珍おなんどいろしゅちんの丸帯して、髪は揚巻あげまき山梔くちなしの花一輪、革色かわいろ洋傘かさ右手めてにつき、漏れづるせきを白綾しろあやのハンカチにおさえながら
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
おれは古いマントを着て洋傘かさをさした。何しろ、ひどい土砂降りなんだ。街には人つ子ひとり通つてゐない。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
おつたはせま戸口とぐちつたまゝ洋傘かささきつちあな穿うがちながら勘次かんじはうをぢろつとつゝいきりつていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
兎も角も茶路に往って尋ねる外はない。妻児さいじを宿に残して、案内者を頼み、ゲートル、運動靴、洋傘かさ一柄いっぺい、身軽に出かける。時は最早もう午後の二時過ぎ。茶路までは三里。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
杖形すてつきがた洋傘かさを突いた信吾の姿が、吾兄ながら立派に見える、高が田舎の開業医づれの妻となつたひとが、今度この兄に逢つたなら、甚麽どんな気がするだらうなどと考へてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして今見た人形のように手を上げ下げした。洋傘かさを持った郊外の人も。
街頭:(巴里のある夕) (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
妹が茶のへ来て、お銀や磯谷のことでも話しているらしいこともあったし、お銀からかもじを借りて行ったり、洋傘かさを借りて行くようなこともあった。懇意ずくで新漬けを提げ出すこともあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
温かに洋傘かささきもてうち散らす毛莨きんぽうげこそ春はかなしき
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
君はきやしやなる洋傘かさの先もて
蝶を夢む (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
その洋傘かさだけでどうかなあ
春と修羅 第二集 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
駅前の俥は便たよらないで、洋傘かさで寂しくしのいで、鴨居かもいの暗いのきづたいに、石ころみち辿たどりながら、度胸はえたぞ。——持って来い、蕎麦二ぜん
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『ひとつ後をつけて行つて、あの犬ころの素性を突きとめて、一體あいつがどんなことを考へてゐるやがるか、調べあげてくれよう。』そこでおれは洋傘かさをひろげて
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
兎も角も茶路に往つて尋ねる外はない。妻兒を宿に殘して、案内者を頼み、ゲートル、運動靴、洋傘かさ一柄いつぺい、身輕に出かける。時は最早午後の二時過ぎ。茶路までは三里。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
それからおつたは洋傘かさと一つにいた先刻さつき風呂敷包ふろしきづゝみんでさうしてまたしりゑた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
冷汗だわ、お前さん、かんかん炎天に照附けられるのと一所で、洋傘かさを持った手がすべるんですもの、てのひらから
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そんぢやこつちのおとつゝあん、お八釜敷やかましがした、わしやけえりませうはあ、一こくちや邪魔じやまでがせうから、こつちのおとつゝあんも邪魔じやまんねえはうがようがすよねえ」おつたは洋傘かさひらいて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ときたま眼につくのは、着物の裾をまくりあげて頭からかぶつた女房かみさんか、洋傘かさをさした小商人か、使丁ぐらゐが關の山だ。高等な人間では、わづかにこちとら仲間の官吏を一人見かけた位のものだ。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
忍びかねてほろほろ落つる涙を伯母は洋傘かさに押し隠しつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
この、お前さん手巾ハンケチでさ、洋傘かさの柄を、しっかりと握って歩行あるきましたんですよ。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つたとき洋傘かさ花籠はなかご持添もちそへて、トあらためて、眞白まつしろうでげた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
扮装みなりなぞは気がつかず、洋傘かさは持っていたようでしたっけ、それをしていたか、畳んだのをいていたか、判然はっきりしないが、ああ似たような、と思ったのは、その行方が分らんという一人。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋を渡る時、夫人は洋傘かさをすぼめた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)