ほお)” の例文
大きな五つ紋の黒羽織くろばおりに白っぽい鰹魚縞かつおじまはかまをはいて、桟橋の板をほお木下駄きげたで踏み鳴らしながら、ここを先途せんどとわめいていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
三つの石は即席の釜戸かまどだったのである。りつ子はほおの木の葉も洗って持って来て、その上へもろこし餅をのせて彼に渡した。
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
白雪の飛ぶ中に、緋鯉ひごいの背、真鯉のひれの紫は美しい。梅も松もあしらったが、大方は樫槻かしけやきの大木である。ほおの二かかえばかりなのさえすっくと立つ。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
洋燈らんぷったほおの大きな机の上には、明星、文芸倶楽部、万葉集、一葉全集などが乱雑に散らばって置かれてある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
主屋と離れ、崖の中腹に、懸け作りになっている別館はなれが一棟、桜や椿やほおの木に囲まれ、寂然として立っていた。
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そう言われて、私は漸っと他のならはぜの木の葉なんぞのよりも、目立って大きい若葉を見て、一目でそれがほおの木の葉であることを思い出した。でも私は
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
長さ九寸、ほおの木で作ったヒョロヒョロの矢ですから、他の場所に当ったんでは、大した業もしなかったでしょうが、眼玉を射ただけに、これは厄介です。
崖の樹木は水をすう化鳥の形に押し合って青暗い淵のうえに頸をのばしている。ふと見れば汀からのりだしたほおの木の枝にひとりの女が腰をかけて一心につりをしている。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
ほおの一種だそうです。この花も五月闇さつきやみのなかにふさわなくはないものだと思いました。然しなんと云っても堪らないのは梅雨期です。雨が続くと私の部屋には湿気が充満します。
橡の花 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
山里もほおとち、すいかずらの花のころはすでに過ぎ去り、山百合やまゆりにはやや早く、今は藪陰やぶかげなどに顔を見せる蕺草どくだみや谷いっぱいに香気をただよわす空木うつぎなどの季節になって来ている。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
奥平沢から片貝川の水を引き入れて、此処で落差百尺の水力を利用するのだそうな。前平沢の人家がほおの木やとちの木の間にまばらに見える。田なども少しはあるが、如何にも寒村である。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
寺の地面うちだけでも、松、杉、かえで銀杏いちょうなどの外に、しいかし、榎、むくとちほおえんじゅなどの大木にまじって、桜、梅、桃、すもも、ゆすらうめ、栗、枇杷びわ、柿などの、季節季節の花樹や果樹があった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
白い地面に、広い葉の青いままでちらばって居るのは、ほおの木だ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
庭のいさごは金銀の、雪は凍った、草履でよし、……瑠璃るりとぼそ、と戸をあけて、硨磲しゃこのゆきげた瑪瑙めのうの橋と、悠然と出掛けるのに、飛んで来たお使者はほおの木歯の高下駄たかあしだ
その周囲をかこんでいるのは、えのきつきほおの巨木で、数百年をけみしているらしかった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は玄関脇のほおの木の枝にたこをひっかけたので、それを破らないように取ろうとしていたのであるが、眼下の老人の正々堂々たる怒り声と、その怒りのために赤くなった顔を見て
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それを繼弓にして、金襴きんらんの袋などに入れた、贅澤な道具を持つた旦那衆が、美しく彩色を施した九寸のほおの木の矢で、七間半の距離から三寸の的を射て、その當りを競つて樂しんだのです。
それでももう彼のそばには、お民のふところへ子供らしい手をさし入れて、乳房ちぶさを探ろうとする宗太がいる。ほおの葉に包んでお民の与えた熱い塩結飯しおむすびをうまそうに頬張ほおばるような年ごろのおくめがいる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その谷かげで見つけたほおの木の花が急に鮮かに浮んで来た。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それを継弓つぎゆみにして、金襴きんらんの袋などに入れた、贅沢ぜいたくな道具を持った旦那衆が、美しく彩色を施した九寸のほおの木の矢で、七間半の距離から三寸の的を射て、その当りを競って楽しんだのです。
なにかの濾過ろかや炭素の分解などに使うらしい、よくはわからないが、それで焼きかげんにちょっとくふうがあるんだな、ほおの木がいちばんいいらしい、ぼくは朴の木だけを使ってるんですがね
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
面小手で竹刀しない引担ひっかついでお前、稽古着に、小倉の襠高まちだかか何かで、ほおの木歯を引摺ひきずって、ここの内へ通っちゃ、引けると仲之町を縦横十文字にならして歩いた。ここにおわします色男も鳴すことその通り。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)