昼食ちゅうじき)” の例文
旧字:晝食
晴々した声がひびきわたると、麦畑の処々からぽつぽつちあがった作男等は、皆んな木蔭に集まって来て、やがて昼食ちゅうじきをはじめた。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
彼は停留所の前にある茶店で、写真版だの石版だのと、思い思いに意匠をらした温泉場の広告絵を眺めながら、昼食ちゅうじきしたためた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一行はまもなく、ささやかな食卓で、おそい昼食ちゅうじきを喫した。そこでは破れ硝子の星形の穴を内側からよく見ることが出来たのだ。
この珍しいいさかいがあったのは、昼食ちゅうじきの時刻の直前で、貞之助も、悦子も知らず、お春も折柄使いに出ていた間のことであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……こうして夏になった、六月はじめの或る日、お針の稽古を終って帰って来ると、源六が昼食ちゅうじきのしたくをして待っていた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
当時幕府に勢力のある彦根ひこねの藩主(井伊いい掃部頭かもんのかみ)も、久しぶりの帰国と見え、須原宿すはらじゅく泊まり、妻籠宿つまごしゅく昼食ちゅうじき、馬籠はお小休こやすみで、木曾路を通った。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これは別段その方向に降るべき必要はないですけれども、そこの村で昼食ちゅうじきをして馬を替えなければパルテー駅まで進むことが出来ないからです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
下坐舗したざしき昼食ちゅうじきを済して二階の居間へ戻り、「アア熱かッた」ト風をれている所へ梯子バタバタでお勢があがッて参り、二ツ三ツ英語の不審を質問する。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
三十六品の献立こんだてに大原は図らざる援兵を得て昼食ちゅうじきを済ませし後小山の妻君と下女とを伴い急ぎ我家へ帰り行きぬ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
最後の人家を過ぎてしばらく行く程に、イタヤの老樹ろうじゅが一株、大分紅葉もみじした枝を、ふり面白くさしべて居る小高いおかに来た。少し早いが此処で昼食ちゅうじきとする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これから丸沼まるぬまへ出て、その次が大尻沼おおじりぬまである。この湖畔に一軒の掘建ほったて小屋があって、ここには丈夫そうな漁師夫婦が住んでいる。ここで茶を貰い、昼食ちゅうじきをすます。
私達はとりあえずそこへ這入って、材料丈けは新鮮な、鰹のさしみで昼食ちゅうじきをやりながら、女房をとらえて、渡舟の世話を頼んだり、岩屋島の様子を尋ねたりした。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その日、昼食ちゅうじきんで、囚人たちは一旦各自の監房へ入れられ、暫くの休息を与えられた。やがて鐘の音と共に、またゾロゾロと列を組んで、作業場に入っていった。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
昼食ちゅうじきの折、誰か発起ほっきする。私もその一人だった。入学当座の決心はもううに消え失せていた。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
明くる日はかごかきの人足まで皆村方から出て来て、その外お供が非常に多かった。三島明神みょうじんの一の鳥居前から、右に入って、市ヶ谷いちがや中原なかはら中島なかしま大場だいばと過ぎ、平井ひらいの里で昼食ちゅうじき
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
ユースタス・ブライトとその小さな仲間達とは、このシャドウ川の谿で昼食ちゅうじきをした。
あの車夫しゃふの峯松と云うものはわたくしの供じゃア有りません、雇人やといにんでもないので、実は渋川の達磨茶屋で私共わたくしども昼食ちゅうじきを致して居りますと、車夫が多勢おおぜい来て供をようと勧めました其のうち
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……ここの座敷には、蜜柑みかんの皮だの、キャラメルの箱だのが散ばって、小児こどもづれの客が、三崎へ行く途中、昼食ちゅうじきでもして行ったあとをそのままらしい。障子はもとより開放あけはなしてありました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒崎で昼食ちゅうじきしたが、ここからは靴を草鞋わらじに代えて強行軍を続け、真暗になった午後六時に熊本に達する事が出来た。この強行軍の一部隊の如きは、疲労の為に車馬を雇わざるを得ない程であった。
田原坂合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
最初は川崎の宿しゅくまで出て、万年屋で昼食ちゅうじきという予定であったが、思いがけない道連れが出来たので、宿まで戻るまでもなく、お松はかれらを案内して、門前の休み茶屋にはいることにしたのである。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その湖水に沿うて五里ばかり南へ進み湖水を離れて少しく行きまして、ナンカツェという所で昼食ちゅうじきを使いました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
午前十時が鶏卵けいらん半熟はんじゅく一つとやきパン二十瓦即ち五匁、昼食ちゅうじきがよく叩いたビフステーキ百瓦即ち二十五匁、砕きたる馬鈴薯じゃがいも二百瓦即ち五十匁、あめ二十瓦即ち五匁
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その健三には昼食ちゅうじきを節約したあわれな経験さえあった。ある時の彼は表へ出た帰掛かえりがけに途中で買ったサンドウィッチを食いながら、広い公園の中を目的めあてもなく歩いた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昼食ちゅうじきを終えると皆んなが昼寝をした。少し涼しくなるまで骨休めをする習慣になっているのだ。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
と両奥さまは日の打ち合せからお土産物の相談に移り、結局明日安子さんが内藤夫人を誘って三越に寄り、何か見つくろって序に昼食ちゅうじきを認め、それから橋口家へ出頭することに定った。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
中の条町にて昼食ちゅうじき。掛茶屋に腰を下ろしている間に、前の通りで五十ばかりになる田舎者と馬車の馭者ぎょしゃとが押問答をしている。田舎者のつれらしい三十位の女が子を抱いてそばに立っていた。
文「お昼食ちゅうじき何方どちらでやって来なすったね」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其処そこへ、つけておくれ、昼食ちゅうじきに……」
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その寺の前で昼食ちゅうじきをしてそれから南の山の中へどしどし進んでちょうど十里ばかり参りますと、荷持にもちのテンバという男の故郷へ着きました。で小さな寺に宿りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
河身を見れば濁水巨巌きょがん咆哮ほうこうしてまさしく天にみなぎるの有様、方等般若ほうとうはんにゃの滝もあったものにあらず、濁り水が汚なく絶壁を落つるに過ぎない。中の茶屋で昼食ちゅうじき。出かけるとまたもや烈風強雨。
と社長は万事多忙にかこつけて、昼食ちゅうじきを済ますと間もなく帰って行ってしまった。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
うながして昼食ちゅうじきの用意にかからしむ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)