或物あるもの)” の例文
代助に云はせると、親爺おやぢの考は、万事中途半端ちうとはんぱに、或物あるものを独り勝手に断定してから出立するんだから、毫も根本的の意義を有してゐない。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
国芳の描ける活気ある風景画の或物あるものはけだしこの種類ジャンル中の逸品たると共にまた浮世絵板物はんものを通じてその最も偉大なるものたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
またこれ瓦斯がす或物あるもの凝結ぎようけつして種々しゆ/″\鹽類えんるいとなつて沈積ちんせきしてゐることがある。外國がいこくある火山かざんからはヘリウム瓦斯がす採集さいしゆうされたといはれてゐる。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
銀之助の不平は最早もう二月ふたつき前からのことである。そして平時いつこの不平を明白あからさまに口へ出して言ふ時は『下宿屋だつて』を持出もちだす。決して腹の底の或物あるものは出さない。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
或物あるものを窓の外へ推出おしだ突出つきだすような身のこなし、それが済むとたちまち身を捻向ねじむけて私の顔をジロリ、睨まれたが最期、私はおぼえず悚然ぞっとして最初はじめの勇気も何処どこへやら
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なんだか、へだて或物あるものてつして、直接ぢかわたしせつしてやうとする様子やうすが、歴々あり/\素振そぶりえる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
枯菊に或物あるものをとどめずや
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
宗助そうすけもとよりさうだとこたへなければならない或物あるものあたまなかつてゐた。けれども御米およねはゞかつて、それほど明白地あからさま自白じはくあへてしなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これなら下宿屋に居るも同じことだと思ふくらゐなら辛棒しんぼうも出来るが銀之助の腹の底には或物あるものがある。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
さてはここにも何か椿事ちんじおこっているに相違ないと、忠一も驚いて身構えしたが、燐寸まっちを持たぬ彼はやみてらすべき便宜よすがもないので、抜足ぬきあししながら徐々そろそろと探り寄ると、彼はたちま或物あるものつまずいた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御互おたがひ御互おたがひきるの、物足ものたりなくなるのといふこゝろ微塵みぢんおこらなかつたけれども、御互おたがひあたまれる生活せいくわつ内容ないようには、刺戟しげきとぼしい或物あるものひそんでゐるやうにぶうつたへがあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かたけたい或物あるものむねおくひかへてゐた結果けつくわぎないのはあきらかであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)