愚癡ぐち)” の例文
新字:愚痴
教化せんとするがなお不足である。法性寺の空阿弥陀仏は愚癡ぐちであるけれども、念仏の大先達として普く化道が広い。わしが若し人身を
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかも彼はこれに愚の字を加えて自己の号としたのである。愚は愚癡ぐちである。すでに禿の字はもと破戒を意味している。
親鸞 (新字新仮名) / 三木清(著)
松洛は長生きをして「妹脊山」をかく頃までは私の後見をしてくれたが、それも既うこの世にはゐない。いや、そんな愚癡ぐちを云つても始まらない。
近松半二の死 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
年紀としわかし……許嫁いひなづけか、なにか、へておもひとでも、入院にふゐんしてて、療治れうぢとゞかなかつたところから、無理むりとはつても、世間せけんには愚癡ぐちからおこる、人怨ひとうらみ。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うしませう」とすゝいた。宗助そうすけ再度さいど打撃だげきをとこらしくけた。つめたいにくはひになつて、其灰そのはひまたくろつちくわするまで一口ひとくち愚癡ぐちらしい言葉ことばさなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かれ野田のだけば比較的ひかくてき不自由ふじいうのない生活せいくわつがしてかれるので汝等わつら厄介やくかいにはらねえでもおれはまだたつかれると、うして哀愁あいしうおほはれたこゝろの一ぱうには老人としよりひがみと愚癡ぐちとがおこつたのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
何事ぞ、この未熟、蒙昧もうまい愚癡ぐち、無知のから白癡たわけ、二十五座の狐を見ても、小児たちは笑いませぬに。なあ、——
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「聖道門の修行は、智恵をきわめて生死を離れ、浄土門の修行は愚癡ぐちにかえりて極楽に生ると心得らるるがよし」
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
欽吾がもう少し面白くしてくれれば好いと藤尾にも不断申しているんでございますが——それもこれもみんな彼人あれの病気のせいだから、今さら愚癡ぐちをこぼしたって仕方がないとは思いますが
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実に、寸毫すんごうといえども意趣遺恨はありません。けれども、未練と、執着しゅうぢゃくと、愚癡ぐちと、卑劣と、悪趣と、怨念おんねんと、もっと直截ちょくせつに申せば、狂乱があったのです。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「我はこれ烏帽子えぼしもきざる男なり。十悪の法然房愚癡ぐちの法然房が。念仏して往生せんと云うなり」
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし、こゝでわたし初戀はつこひかたおもひ、こひ愚癡ぐちふのではありません。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)