なま)” の例文
このごろは体がだるいと見えておなまけさんになんなすったよ。いいえ、まるでおろかなのではございません、何でもちゃんと心得こころえております。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なまけものの美術家に縁づいて、若い盛りをいやな借金取りのいいわけに過して来た話を、お庄は時々この女の口から聞かされた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今岩内の町に目ざめているものは、おそらく朝寝坊のできる富んだなまけ者と、灯台守とうだいもりと犬ぐらいのものだろう。夜は寒くさびしくふけて行く。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
閑だのに小僧の六弥がなまけて、新聞を纒めないから、店には新聞が散らかつて、混雑して居るやうに見せた。然し混雑に見せたのは之れ許りでない。
自分から快適の予想をして行くような場所なら、かえってそこでなまけて仕舞いそうな危険は充分ある。しかし、私はこの望みに従うより仕方がなかった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「お前さんはなまけてばかりいちゃいけない。小生業こあきないでもしたらどうだね、坐ってたべていちゃだめだよ。」
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
何とかんとかして予備門へ入るには入ったが、なまけて居るのははなはだ好きで少しも勉強なんかしなかった。
落第 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かつてはこちらでも、それは堂々と非難してよい行為だったのだが、その戒は次第にゆるんで、ただなまけ者の節供働きという類の、ひやかしの諺ばかりが残っている。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
此の事が御重役秋月喜一郎あきづききいちろうというお方の耳に入りどうか權六を江戸屋敷へ差出して、江戸詰の者に見せて、なまけ者の見手本みでほんにしたいとひそかに心配をいたして居ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たゞ狡猾ずるさるだけは、こうして毎日まいにちなん仕事しごともなく、ごろごろとなまけてゐても、それでおなかかさないでゆかれるので、暢氣のんきかほをして、人間にんげんの子どもらの玩弄品おもちやになつて
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
勉強もなければ発達も仕ない。次第次第しだいしだいなまけ者になり柔弱になり、少しも青年の元気というものが無くなってしまう。不心得ふこころえ千万な事だ。元気は人間の生命といっても好い。
青年の新活動方面 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
誰でも筆をってそうして雑誌か何かに批評でもすれば、それが文学者だと思う人がある。それで文学というものはなまけ書生の一つの玩具おもちゃになっている。誰でも文学はできる。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
出来る事ならなまけて、終日火燵こたつくすぶっていたいであろう。時には暖炉だんろのかたわらにばかりかじりついている上官を呪うこともあろう。決してその死んだ集配人を立派な人とも考えない。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かといっ生真面目きまじめの町人でも無い何うしても博奕など打つ様ななまけ者だ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
此頃このごろからだがだるいとえておなまけさんになんなすつたよ、いゝえまるおろかなのではございません、なんでもちやんと心得こゝろえります。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「私がいくら稼いだって駄目です。私はこれまでなまけるなどと云われたことのない女です」お島は涙をきながら言った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
信州の木曽渓きそだにでもある家の馬飼童うまかいわらわが、なまけて水を忘れて主人の馬を死なせ、それから水が火になって飲むことが出来ず、かろうじて木葉のしずくのどうるおすようになったといって
何処へ遣ってもすぐん出してなまけて仕様がない、そうしてるうちおらあ家でこれちっとべい土蔵という程でもないが、物を入れる物置蔵ア建てようと云って職人が這入はえってると
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
どんとなまくらでな、石野は毎晩、嬶に淫売をさせて、自分はあの年が寄つて、嬶の淫売の立番をして、その日の暮しを立てとるんだんがな……今朝も内へ来て、葬式代が無いさかい
「ねえあなた、ここでああなまけられてしまった日には、仏造って魂入れずでさ、冗談じゃない」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ノメシというのはなまけ者のことで、荷繩で棒にくくりつけるめんどうをいやがり、じかに荷物のなかへ棒のはしを刺しこんでになって帰るから、そういうたわむれの名をつけたのだが、これも
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)