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惘然
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ぼうぜん
ふりがな文庫
“
惘然
(
ぼうぜん
)” の例文
ジャン・ヴァルジャンは我を忘れて、彼女を
惘然
(
ぼうぜん
)
と自分の胸に抱きしめた。彼はほとんど彼女をまた取り戻したような心地になった。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
サン・マルタン会堂の大時計の音が聞えると、
惘然
(
ぼうぜん
)
としていたのから我れに返って、また出かける時間であることを思い出すのだった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
低い天床、雨のしみた跡のある
剥
(
は
)
げた壁……彼は眉をしかめ、
溜息
(
ためいき
)
をついて、そうして写生帖をふところにつっこんで、
惘然
(
ぼうぜん
)
と土間へおりる。
おれの女房
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
列伝
(
れつでん
)
第七十
太史公
(
たいしこう
)
自序の最後の筆を
擱
(
お
)
いたとき、司馬遷は
几
(
き
)
に
凭
(
よ
)
ったまま
惘然
(
ぼうぜん
)
とした。深い
溜息
(
ためいき
)
が腹の底から出た。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
彼は
惘然
(
ぼうぜん
)
として殆ど我を失へる
間
(
ま
)
に、電光の如く隣より
伸来
(
のびきた
)
れる
猿臂
(
えんぴ
)
は鼻の
前
(
さき
)
なる一枚の
骨牌
(
かるた
)
を
引攫
(
ひきさら
)
へば
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
▼ もっと見る
と叫んだきり、しばらくは天空によじのぼってゆく怪塔ロケットをただ
惘然
(
ぼうぜん
)
とながめつくしたことでした。
怪塔王
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
うちめぐり再び舞ひもどりて松の梢にひら/\水鉢の上にひら/\一吹き風に吹きつれて高く吹かれながら向ふの屋根に隠れたる時我にもあらず
惘然
(
ぼうぜん
)
として自失す。
小園の記
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
気狂と思われるまで下品にならなければ世の中は成功せんものかなと
惘然
(
ぼうぜん
)
として西片町へ帰って来た。
趣味の遺伝
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
満身の気力一時に
抜落
(
ぬけお
)
ち候やうなる心地致され、唯
惘然
(
ぼうぜん
)
として榎の梢を眺め暮すばかりにて有之候。
榎物語
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
惘然
(
ぼうぜん
)
として耳を傾くれば、金之助はその筋
疼
(
いた
)
む、左の二の腕を撫でつついった。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
久く考えていて、「あ、お勢の事か」と
辛
(
から
)
くして憶い出しは憶い出しても、
宛然
(
さながら
)
世を隔てた事の如くで、面白くも
可笑
(
おかしく
)
も無く、そのままに思い棄てた、
暫
(
しばら
)
くは
惘然
(
ぼうぜん
)
として気の抜けた顔をしていた。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
其
(
その
)
友
王賓
(
おうひん
)
を
訪
(
と
)
う、賓も
亦
(
また
)
見
(
まみ
)
えず、
但
(
ただ
)
遙
(
はるか
)
に語って曰く、
和尚
(
おしょう
)
誤れり、和尚誤れりと。
復
(
また
)
往
(
ゆ
)
いて姉を見る、姉これを
詈
(
ののし
)
る。道衍
惘然
(
ぼうぜん
)
たりと。道衍の姉、儒を奉じ
仏
(
ぶつ
)
を
斥
(
しりぞ
)
くるか、何ぞ婦女の見識に似ざるや。
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
危険の間、ジルノルマン氏は孫の
枕頭
(
まくらもと
)
につき添いながら
惘然
(
ぼうぜん
)
として、マリユスと同様に死んでるのか生きてるのかわからなかった。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
やがて家じゅうの者が心痛しだした。彼女は例のとおりしかられ、包帯をされ、寝かされ、肉体の苦痛と内心の喜びとに浮かされて
惘然
(
ぼうぜん
)
となった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
甲斐は盃を持ったまま
惘然
(
ぼうぜん
)
と炉の火を眺めていた。娘たちの問答は、彼をものかなしいような気分に包んだ。
樅ノ木は残った:02 第二部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
ある時は
惘然
(
ぼうぜん
)
として悲しいともなく苦しいともなく、我にもあらで
脱殻
(
ぬけがら
)
のようになって居る。
恋
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
ただ
惘然
(
ぼうぜん
)
として水の
面
(
おもて
)
を眺めをり候処、突然
後
(
うしろ
)
より愚僧の肩を
叩
(
たた
)
きコレサ良乗殿。
榎物語
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
渠はしばらく
惘然
(
ぼうぜん
)
として佇みぬ。その心には何を思うともなく、きょろきょろとあたりを
眗
(
みまわ
)
せり。幽寂に造られたる平庭を前に、縁の雨戸は長く続きて、家内は全く
寝鎮
(
ねしず
)
まりたる
気勢
(
けはい
)
なり。
義血侠血
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
学校友達と
名宣
(
なの
)
りし客はその
言
(
ことば
)
の如く重ねて
訪
(
と
)
ひ
来
(
き
)
ぬ。不思議の対面に
駭
(
おどろ
)
き惑へる貫一は、
迅雷
(
じんらい
)
の耳を
掩
(
おほ
)
ふに
遑
(
いとま
)
あらざらんやうに
劇
(
はげし
)
く吾を失ひて、
頓
(
とみ
)
にはその
惘然
(
ぼうぜん
)
たるより覚むるを得ざるなりき。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
宗助はただ
惘然
(
ぼうぜん
)
とした。
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ジルノルマン
伯母
(
おば
)
は、古ぼけた家庭にかく突然光がさし込んできたのを
惘然
(
ぼうぜん
)
としてながめていた。惘然さのうちには何らの悪意もなかった。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
いい顔色をしていらっしゃるとか、今日は野の景色がたいへんいいとか言われると、初めのうちクリストフは
惘然
(
ぼうぜん
)
として、なんの冗談かと怪しんだ。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
男が
肚
(
はら
)
の底をさらけだしての告白である。鉄之助も心をうたれた。汀には、「ああ」と思い当る多くの回想があった、そして忠秋までが、
盃
(
さかずき
)
を手に
惘然
(
ぼうぜん
)
と耳を傾けていた。
足軽奉公
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
惘然
(
ぼうぜん
)
と休み居る内、ふと今日は十月十五日にして『ホトトギス』募集の一日記事を書くべき日なる事を思ひ出づ。今朝
寐覚
(
ねざめ
)
にはちよつと思ひ出したるがその後今まで全く忘れ居しなり。
明治卅三年十月十五日記事
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
今は取付く島も無くて、満枝は
暫
(
しば
)
し
惘然
(
ぼうぜん
)
としてゐたり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
しかし
吾人
(
ごじん
)
はその仲間ではない。吾人に取っては、ワーテルローは単に自由の
惘然
(
ぼうぜん
)
自失した一時期を画するものに過ぎない。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
子供はランプの炎と老人の
目差
(
まなざ
)
しとに驚き、ただ
惘然
(
ぼうぜん
)
として身動きもしなかったが、やがて声をたて始めた。
ジャン・クリストフ:03 第一巻 曙
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
凉軒は額を押えて棒立ちになり、五郎太は刀をとり落し、右腕を抱えて苦痛の
呻
(
うめ
)
きをあげ、他の一人は刈田の中で尻もちをついたまま、陰気なような眼つきで、
惘然
(
ぼうぜん
)
とこっちを見ていた。
樅ノ木は残った:03 第三部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
そして彼ははるか恐ろしいほど下の方に、街灯の光にすかして、雨にぬれてるまっ黒な街路の舗石を、
惘然
(
ぼうぜん
)
とうちながめた。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
彼女は幾時間も東洋婦人めいた
惘然
(
ぼうぜん
)
さのうちに沈み込んでいたが、それから脱することを承諾したときには、まったく別人になっていた。彼女は歩くのを好んだ。
ジャン・クリストフ:12 第十巻 新しき日
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
暴徒らは深い
畏敬
(
いけい
)
の念でその前に道を開いた。彼は
惘然
(
ぼうぜん
)
としてあとに
退
(
さが
)
ったアンジョーラの手から、軍旗を奪い取った。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
彼は舞台から飛び出して、
呆然
(
ぼうぜん
)
と口を開きながらそれらの演奏に臨んでる聴衆をもなぐりつけた。聴衆は
惘然
(
ぼうぜん
)
として、笑っていいか怒っていいかもわからなかった。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
そのしっかりした堅固な足音が廊下の
床
(
ゆか
)
の上を遠ざかってゆくのを聞きながら、マドレーヌ氏は
惘然
(
ぼうぜん
)
と考えに沈んだ。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
燃えたつやさしい光。心はあまりに大きな楽しさに圧倒されて、
惘然
(
ぼうぜん
)
となり黙り込んでゆく。春の初光のうち震える大地の沈黙、熱っぽい
懶
(
ものう
)
さ、けだるい微笑……。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
そして頭から足の先まで震え上がり、ちょっと
惘然
(
ぼうぜん
)
としていた後、ふり返りもせず声も立てず一目散に逃げ出した。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
早くも停車場で、荷物取扱場に押し合ってる人込みや、出口の前に入り乱れてる馬車の騒々しさなどに、彼らは
惘然
(
ぼうぜん
)
としてしまった。雨が降っていた。
辻
(
つじ
)
馬車が見出せなかった。
ジャン・クリストフ:08 第六巻 アントアネット
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
ユシュルー
上
(
かみ
)
さんとマトロートとジブロットとが、恐怖のため三様の変化を受けて、ひとりは
惘然
(
ぼうぜん
)
としひとりは息をはずましひとりはほんとに目をさまし
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
人々はなおよく見るために立上がった。やがて満堂の歓喜となった。それには少しも悪意はこもってはいなかったけれど、ごく気丈な名手をも
惘然
(
ぼうぜん
)
たらしむるほどのものだった。
ジャン・クリストフ:03 第一巻 曙
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
地下深く埋めておいたあの名前が意外にも発せられた瞬間には、彼は
唖然
(
あぜん
)
としておのれの運命の恐ろしくも不可思議なのに
惘然
(
ぼうぜん
)
としてしまったかのようだった。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
その足音が聞こえるときに、アントアネットは初めて
惘然
(
ぼうぜん
)
としていたのから我に返った。そして
暗闇
(
くらやみ
)
の中に微笑を浮かべて、立ち上がって電燈をつけた。弟の笑い声を聞くと元気になるのだった。
ジャン・クリストフ:08 第六巻 アントアネット
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
マリユスは立ち上がって、夢の中に現われて来る影のようなその女を、
惘然
(
ぼうぜん
)
として見守った。
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
彼は
惘然
(
ぼうぜん
)
たる状態から身をもぎ離して、室の中を少し歩いた。ピアノに心ひかれまた脅かされた。ピアノを見ないようにした。しかしそのそばを通りかかると、手を差し出さずにはいられなかった。
ジャン・クリストフ:11 第九巻 燃ゆる荊
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
けれどもまさしく自分のものであることを感じていた。だれがそれを自分にくれたかをも察していた。一種の恐ろしさに満ちた喜びを感じていた。彼女は満足であった。がことに
惘然
(
ぼうぜん
)
としていた。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
そして激しい熱情の域へまで達したので、クリストフはぞっと身を震わした。なぜなら彼には、彼女が自分自身の心の声であるように思えたからである。彼は彼女が歌ってるのを
惘然
(
ぼうぜん
)
とうちながめた。
ジャン・クリストフ:11 第九巻 燃ゆる荊
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
聴衆は一時
惘然
(
ぼうぜん
)
とした。やがて彼は冷酷な調子で言った。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
“惘然”の意味
《名詞》
呆気にとられ唖然とするさま。
(出典:Wiktionary)
惘
漢検1級
部首:⼼
11画
然
常用漢字
小4
部首:⽕
12画
“惘然”で始まる語句
惘然自失