もつとも)” の例文
又盲僧・瞽女ごぜの芸、性欲の殊に穢い方面を誇張した「身ぶり芸」も行はれた事が知れる。もつとも、まじめな曲舞なども交つてゐたに違ひない。
それ程でなくつても、ちゝあにの財産が、彼等の脳力と手腕丈で、だれが見てももつともと認める様に、つくげられたとはうけがはなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
然ニ今日木圭木戸孝允より一紙相達候間、御覧に入候。同人事は御国の情ニよく通じ居り候ものにて、彼初強く後、女の如などはもつとも吾病にさし当り申候。
紙の上で読んで見たときはもつともらしく思はれたが、この水底の雷霆らいていを聞きながら考へて見ると、そんな理窟は馬鹿らしくなつてしまふのである。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
生意氣にもあたしは、おおもつともだと思つた。姪や甥の乳母のやうに、抱いたり背負つたりして暮してゐる彼女を、日頃いとしいと思つてゐたので
日本橋あたり (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
汲み上げた水が恐ろしく泥臭いのももつともいかりを下ろして見たら、渇水の折からでもあらうが、水深が一尺とはなかつた。
水汲み (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
もつとも棺の幅を非常に狭くして死体は棺で動かぬようにして置けば花でつめるというのは日本のおが屑などと違ってほんの愛嬌に振撒て置くのかも知れん。
死後 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
それからもう一人、主人大坪石見のをひで、宇佐川鐵馬といふもつともらしい四十男が、小峰右内の手傳ひをして、十年越し此屋敷のかゝうどになつて居ります。
決而可伺儀けつしてうかゞふべきぎ而者無之候てはこれなくさふらへ共、右殺害に及候者より差出し候書附にも、天主教を天下に蔓延まんえんせしめんとする奸謀之由申立かんぼうのよしまうしたて有之、もつとも、此書附而已のみに候へば
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それはもうお前の言ふのはもつともだけれど、お前と阿父おとつさんとはまる気合きあひが違ふのだから、万事考量かんがへが別々で、お前の言ふ事は阿父さんのはらには入らず、ね
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
世間でアンドレイ・アレクサンドロヰツチユをロシアのド・ミユツセエだと云ふのがもつともなら、妻はロシアのユウジエニイ・ツウルだと云はれなくてはならん。
もつとも当時の己の意識は此驚きをもはつきり領略してはゐなかつたが、兎に角己は驚いてゐたには違ひ無い。なぜと云ふに己は突然かう云ふことを聴き取つたのだ。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
なさるのは、もつともと思ひますわ。でも貴君迄が、それに感化かぶれると云ふことはないぢやありませんか。縁起などと、云ふ言葉は、現代人の辞書にはない字ですわね。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
それが今こんな上品な交際振りをする人と知合ひになつたのだから、喜ぶのももつともである。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
せめて斯の際選挙の方に尽力して夫の霊魂たましひを慰めて呉れといふ。聞いて見れば未亡人の志も、もつとも。いつそこれは丑松を煩したい——一切の費用は自分の方で持つ——是非。とのことであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「いやはや。馬鹿気てゐない、もつとも千万な事で、我々の少しも考へないでゐる事はいくらでもある。それに死がなんです。死ぬる時が来れば死ぬるさ。わたしなんぞは死ぬる事は頗る平気です。」
この一話、操觚者流さうこしやりう寓意譚ぐういたんにあらず、永く西欧の史籍に載りて人の能く伝唱する所、唯これ一片の逸話に過ぎずといへども、しかも吾人にをしふる事甚だ深しとなす。れ貧困は現世の不幸のもつともなる者也。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
同道致し遠州濱松へ罷越たる趣きに相違なきやと有に石川安五郎はハツト平伏へいふくなし仰の如く私し妻の實家は遠州濱松天神町松島專庵と申町醫師に候間同人方へ參る心得にて同道仕り候もつとも主人へは湯治仕つる旨屆け候て罷越たるに相違御座なくと申立たり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もつとも文中の一部には、かなり古いものを含んだものもあるが、新しいものが最多くて、其上に、用語が不統一を極めてゐる。
神道に現れた民族論理 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
もつとも前便に申上候とおり、不幸なる境遇に居られし人なれば、同じ年頃の娘とは違ふ所もあるべき道理かと存じ候。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その落ち工合が丁度上から槍で衝いたやうであつたことを思ふと、此語源説がいよ/\もつともらしく聞えて来る。
十三時 (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
それも、たれうらむ訳も無い、全く自分が悪いからで、こんなからだきずの付いた者に大事の娘をくれる親は無い、くれないのがもつともだと、それは私は自分ながら思つてゐる
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
然し代助は此もつともを通り越して、気がかずにゐた。振り返つて見ると、うしろの方にあねあにちゝがかたまつてゐた。自分も後戻あともどりをして、世間並せけんなみにならなければならないと感じた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
もつとも和蘭オランダコンシユル横浜ニ於て申立也と。
もつとも、主人公として現れたおほくにぬしの名を、他の誰の名と取り換へても、さし支へはないわけである。
万葉びとの生活 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
當夏中より中風相煩歩行相成兼其上をひ鎌作かまさく儀病身に付(中略)右傳次方私從弟定五郎と申者江跡式相續爲仕度つかまつらせたく(中略)奉願候、もつとも從弟儀いまだ若年に御座候に付右傳次儀後見仕
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
もつとも、飛鳥・藤原の知識で、皇室に限つて天上還住せしめ給ふことを考へ出した様である。カムあがりと言ふ語は、地の岩戸を開いて高天原に戻るのが、その本義らしい。
妣が国へ・常世へ (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
「五日。晴。午後微雨。月給金受取。十二字揃、天富斎木石川出立す。もつとも青森迄。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
もつとも、あゝした態度からは、わるい作物も生れないはずはない。けれども、忠岑はそうした処から、深く印象する歌を残したのだから、天分の豊かであつたことが思はれる。
はじめに柏軒が書した。「磐安はんあん曰。集まりし人より伝言左の如し。もつとも各自筆なり。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
此側の伝へでは、淡路人形を重く見て居る。併し、西の宮が海に関係深い点から観るべきで、此神の勢力の下にあつた対岸の淡路の島人から、優れた上手が出たのも、もつともである。
国文学の発生(第二稿) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
「七日。(四月。)晴。棠軒と改名願書差出す。もつとも当用内田養三取計。」所謂改名は道号を以て通称としようとしたのであらう。春安信淳のぶきよには棠軒、小棠軒、谷軒こくけん、尚軒、芋二庵うじあんの諸号があつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「忘れない様にと望んで……」と説くのがもつともらしいが、忘れる為のわすれ草を、印象的に第一に出して居る。其故「忘れない為に忘れようと思つて……」と言ふ義に極められるのである。
此理を能々よく/\御考被為在あらせられ候而、何卒なにとぞ非常回天之御処置をもつてくわいたる者も死一等をゆるされ、同志と申自訴者は一概に御赦免に相成候様と奉存候。もつとも大罪に候へ共、朝敵に比例仕候へ、軽浅之罪と奉存候。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
もつとも、深さ・寛けさは欠けてゐるが、明るさは著しい。此作風もとりこまれた。
叙事詩に於て、ことばの部分が、威力の源と考へられたのは、呪言以来とは言へ、地の文の宗教的価値減退に対して、其短い抒情部分に、精粋の集まるものと見られたのは、もつともなことである。
もつとも此等の二つの形式を併せ備へてゐる者もあつて、一概に其何れとはめて了ふことは出来ない。併し、其等の仲間には、常に多くの亡命良民と若干の貴種の人々とを交へて居たのは事実である。