夜前やぜん)” の例文
御やすみになっているところを御起しして済みませんが、夜前やぜんからの雨があの通りひどくなりまして、たににわかふくれてまいりました。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
買ひて歸りがけすぐ笠原粂之進かさはらくめのしんかたへ行き夜前やぜんの火付は原町の煙草屋喜八と云ふ者なり今朝こんてう私し煙草をかひ候時かれが布子のしまたれば心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と女中を帰した後で、冷えた盃を持ったままメラメラと燃えしきるストーヴの焔を眺めながら、通り魔のような夜前やぜんの出来事を考えていると
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
夜前やぜん此の御仁おひとがお見えになつてな。」と伯母は不安な調子で云つた。「お前に何ぞ御用があると云つてぢやつた。」
夜前やぜん、右衛門ノすけから何か聞かれたな。しかしお腹を立てられな。正成の諫奏、其許そこにたいして、容易ならざる儀を
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
申せ、つひに人様の物、箸かたし、いがめたことは御座りませぬに、不孝の罰か、夜前やぜん私やあ、大盗人おおどろぼうにあひました
夜前やぜんにくみ込んだ水甕へ、それほどの毒を入れたのに、戸締りが少しも変っていないところを
ひめをばかり墓所はかしょより、きたりてすくされよ、とロミオかたまうりしに、使僧しそうヂョンとまうもの不慮ふりょことにて抑留ひきとめられ、夜前やぜんそのしょ持歸もちかへってござりまするゆゑ、目覺めざめなばさぞ當惑たうわく
そして朝露あさつゆをポクポクと馬の草鞋わらじ蹴払けはらって、笠をかぶった一人の若い馬子まごが平気でこの丸山台を通り抜けようとしております。大方、江戸を夜前やぜんに出て近在へ帰る百姓でありましょう。
そのように思いながらいつとなしに寝入った夜前やぜんの淋しい心持が消えなかった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
夜前やぜんこの御仁おひとがお見えになってな。」伯母は不安な調子でいった。「お前になんぞご用があるといってじゃった。」
「いや、この俊基は、家にあっても、常々、人の半分も眠れば足りる性分。それに夜前やぜんは、つい大酒したゆえ、早暁の気を吸って、酒腸しゅちょうを醒まそうと思うてな」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜前やぜんにくみ込んだ水甕へ、それほどの毒を入れたのに、戸締りが少しも變つて居ないところを
あづかりし手形てがたを出せと店先みせさきにて談事だんじければ彌太郎も今は堪忍かんにん成難なりがた其方そなたよりの訴訟うつたへまたず此方より訴へんと云時いふとき又々下男長助又七をたづね來り夜前やぜん清三郎が云ひし四日市のことをはなしけるにぞ尚々なほ/\遺恨ゐこん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ふたりとも、きょうばかりは、夜前やぜん、父上から懇々こんこんいわれましたので、至極、とりすましておりますが、もう仕方のない悪戯わるさやら、にくていばかり申して母を困らせておりまする
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相探あひさぐり候處一人の者の申し候には夜前やぜん深更しんかうに及びて惣右衞門方へ人出入ひとでいりの有し樣子に相聞え候と申すゆゑ猶々なほ/\穿鑿せんさく致し候處其後陸尺ろくしやくの七右衞門が惣右衞門方へ來りて種々いろ/\の話しのていなりと申し候すれば彼の惣右衞門も自分の方におく時は忽ちに知れんことを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この急速なはからいはまた、もちろん藤井紋太夫の悔悟かいごの実証と、夜来からの奔走を明らかに語るものだった。夜前やぜんさんとして、老公の前を去ってからおそらく紋太夫は一睡もしなかったであろう。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)