とき)” の例文
「もう防げまい。叡山の衆も、木曾殿と合体して、谷々から、太刀弓矢をとり出し、はや加茂川の上に、ときの声をあげているとやら」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
河の殆ど中央にわだかまる巨岩に思うさま衝き当って、ときの声と共に水烟を揚げてうねり狂って行くが、すぐ右に曲って絶壁の間に身を潜めている。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
足掛あしかけねんまたが籠城ろうじょう……つき幾度いくどとなくかえされる夜打ようち朝駆あさがけ矢合やあわせ、い……どっとおこときこえ
沢山の赤や青の藻で飾り立てまして、おかの方から吹く朝風に一度にさっと帆を揚げますと、湧き起るときの声と一緒にへさきを揃えて、沖の方へと乗り出しました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
相手の氣勢さへくじけば、八五郎の馬鹿力は最も有效いうかうに働きます。二人の青持と力をあはせて、またゝくうちに生捕つた曲者が、二人、三人、五人、——折から關所の方にあがるときの聲。
後では、男女を合せて五六人の高い笑聲が、ドッと許りときの聲の樣に聞えた樣であつた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
敵は寝耳に水のおどろきで、ぞろぞろと格納庫やあな蔵のなかからとびだしてきたが、そこへ、わーっとときの声をあげてとびこんできたのが、大月大佐を先頭に決死隊甲組の面々であった。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
(空が赤くなる。わッわッとときの声が聞える)おう、八丁徳さんの方で凱歌かちどきをあげてるな。こうなりゃ俺の日当だけのことは終ったんだ。ああ気になり出した。行こう行こう、大急ぎで行こう。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
そのとき屋敷のうらの空地の、にわての米庫の方で、わあッと起る、民衆のときのこえ——さえぎるもののない彼等は、今や、戸前という戸前を破壊して、存分に米穀を掴み出しているに相違ない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ときの声さえ挙げていないようだ。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
呂布が逃げたので、一時はさんざんなていだった味方は、果然、意気を改めた。国々の諸侯は総がかりを号令し、ときの声は大いに奮った。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後では、男女を合せて五六人の高い笑声が、ドツと許りときの声の様に聞えた様であつた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
二人の青侍と力を併せて、瞬くうちに生け捕った曲者が、二人、三人、五人、——折から関所の方にあがるときの声、助勢の人数と見て、残る曲者は、パッと蜘蛛くもの子を散らしてしまいました。
おきぬ あ、ときの声をあげている。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
ところがこの時、ときの声や鼓の音が地を震わすばかり聞えてきた——愕然、城壁の上に走り出て見ると、呉の大軍がはや城を囲んでいた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼前の曹軍があげるときの声は、満山のえるが如く、背後にせまる江南数百の兵船は海嘯つなみのように彼を脅かして、夜の眠りも与えなかった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「たいへんです。郭汜かくしの軍勢が城門に押しよせ、帝の玉体を渡せと、ときのこえをあげ、を鳴らして、ひしめいておりまする」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
枕に顔をあてがうと、戸外おもての山風は樹々を揺すり、屋のむねを吠えめぐって、さながら天狗のときこえかと怪しまれてくる。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ときの声と共に、各所から花火のような火が噴いた。流星の如く炬火たいまつが飛ぶ。蛮陣の内は上を下への大混乱を起している。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼓角、鉄砲、ときの声は、瞬時の間に起って、魏の先鋒の大半を殲滅せんめつした。その中には、魏将の秦朗しんろうも討死を遂げていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すわ!」と、近づくときの声、はや矢ばしりの響き。玄徳の少ない手勢は、すでに色を失って、四方へ逃げかけた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するとその時、江上一面に、ときの声やの音が起って、河波をあげながらそれは徐々に近づいてくる様子だった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「突っこめ!」の命とともに二ヵ所の勢、ときをつくって雪崩なだれ、鼓をうち、銅鑼どらを鳴らして、突っ込んで行った。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その言葉の終るか終らぬうち、突如として、鼓の音響き、ときの声が遠く近く聞えだして、陣中は騒然となった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、あわてたのか、その時、平家の陣所の方で、海嘯つなみに追われた人間の悲鳴を思わすようなときの声があがった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その夜、李粛は、一軍の奇兵をひいて、月明りをたよりに、間道をすすみ、梁東の部落を本拠に布陣している寄手の背後へまわって、突如、ときの声をあげた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明智一党の軍馬がなおくつわの音やときの声を止めず、また本能寺方面にもただならぬ武者声が聞かれたであろう。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、道にうろたえだした人馬が、互いに踏み合い転げあって、阿鼻叫喚あびきょうかんをあげていたときは、すでに天地はときの声にふさがり、四面金鼓のひびきに満ちていた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝まだほの暗い一天にただならぬつづみときこえを聞いて、信忠たちがね起きたときは、すでにここも明智勢の囲みのうちにあったことは、本能寺と変りはない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陳式は山の後ろに廻って、ときをつくってどっとばかり攻め上げれば、夏侯尚も御参ござんなれとこれを迎えた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて箕関きかん(河南省・河南附近)という所の関所にかかると、その夜もすでに四更の頃、四山の闇から点々と松明たいまつの光がひらめき迫って来て、それがときの声に変ると
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然るべき家も見当らないので、大きな沼のほとりの百姓家に泊めてもらった。すると真夜中にときの声だ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城の門は、城中の者の手で、敢然と、大きく開かれ、千余人の将士は、ときの声をあげて斬って出た。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間に、城中の一部から、思いもよらぬときの声が起った。曹豹が、裏切りをはじめたのである。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ときに、国分佐渡守やほか二、三の部将が、およそ四、五百の兵をひきいて、藤田隊の横から、急に、がねを鳴らし、ときの声をあげ、さも大軍のように、わめせた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さも残念そうに、独りうめきながら、彼は馬を捨てて渓流のそばへ寄った。そして身をかがめて水を飲もうとすると、四方からまたときの声と金鼓がこだまして鳴りひびく。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「オオ……ときの声がする。敵が近づいて来るらしい。趙雲、何でそなたは、大事な若君を預りながら、なお迷っているか。早くここを去ってたも。……わらわなどは見捨てて」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呂蒙りょもうなどという呉将の名だたる手勢手勢が、ときを作り、銅鑼どらをたたき、一度に取籠とりこめて猛撃して来たため、空陣の袋に入っていた曹仁以下の兵は、度を失い、さわぎ立って
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝焼けの雲は紅々あかあかと城東の空にながれていた。同文の矢文が何十本となく射込まれたのを合図に、金鼓の響き、ときの声は、地を震わし、十数万の寄手は、いちどに城へ攻めかかった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、甲軍は形のごとく、重厚堅密な布陣をもってし、まずその前列に布いた鉄砲組から、敵の旋回陣へむかって、鉄砲の射撃を開始したのであるが、上杉方から早鉦はやがねが鳴り、ときの声が沸くやいな
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近づくに従って、その早舟の群れからは、鼓の音やときの声が聞えた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たちまち一そうの林のうちから、鼓鉦こしょうときの声があがって
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)