のんど)” の例文
心ここにあらざれば如何いかなる美味ものんどくだらず、今や捕吏ほりの来らんか、今や爆発のひびき聞えんと、三十分がほどを千日せんにちとも待ちびつ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
この時魔の如き力はのんどやくしてその背をつ、人の死と生とはすべて彼が手中に在りて緊握せらる、欲するところとして得られざるは無し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
されど路傍なる梅の老木おいきのみはますます栄えて年々、花咲き、うまき実を結べば、道ゆく旅客たびびとらはちぎりて食い、そのかわきしのんどをうるおしけり。
詩想 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
うやうやしく頭を下げるなり、同時に、山浦清麿の鍛った刀は、山浦清麿ののんどを突き刺して、かりの世の肉体を、ふたたび永遠の溶鉱炉ようこうろへと送り戻した。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老畸人も亦たむかしの豪遊の夢をや繰り返しけむ、くさめ一つして起きあがりたれば、冷水ひやみづのんど湿るほし、眺めあかぬ玄境にいとま乞して山を降れり。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
さし当りては鬢水よりもこれこそ嬉しけれと、汲みてのんどを潤おしつ、この井に名ありやと問えばなしという。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
命運に逆ふ何の益ぞ、汝等のチェルベロいまなほこれがためおとがひのんどに毛なきを思はずや 九七—九九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
主婦は六十餘とも覺しき老婆なり、一椀の白湯さゆを乞ひてのんどうるほし、何くれとなき浮世話うきよばなしの末、瀧口
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
されどホラチウス・コクレスが戰ひし處には、今いかだに薪と油とを積みてオスチアにおくるを見る。されどクルチウスが炎火ののんどに身を投ぜし處には、今牧牛の高草のうちに眠れるを見る。アウグスツスよ。
悲嘆のあまり鋭刄にのんどを割かん恐より
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
無残やな、振仰ぐ宮がのんどは血にまみれて、やいばなかばを貫けるなり。彼はその手を放たで苦きまなこみひらきつつ、男の顔をんと為るを、貫一は気もそぞろ引抱ひつかかへて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
到底のんどくだるまじと思いしに、案外にもあじわいくて瞬間にべ尽しつ、われながら胆太きもふときにあきれたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
調伏の灯は、壇に満ち、誦経ずきょうのんどらしていても、それは、職業としてやっているに過ぎなかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼等の頭を地につかしめよ、無慈悲の斧の刃味の好さを彼等が胸に試みよ、惨酷の矛、瞋恚しんいの剣の刃糞と彼等をなしくれよ、彼等がのんどに氷を与へて苦寒に怖れわなゝかしめよ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
かく宣べ牲の小獸ののんどを酷き青銅の
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
さればにや氷売る店など涼しげによろずを取りなして都めかしたるもあり。とある店に入り、氷にのんどかわきいやして、この氷いずくより来るぞと問えば、荒川にて作るなりという。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ただ、濃い眉、ふとい鼻ばしら、嬰児あかごこぶし大もあるのんど男性おとこ甲状腺しるし——それだけは母のものではない、いて血液の先をたずねれば、大曾祖父おおそうそふ源義家のあらわれかもしれない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はい、ではないっ。あれほど、街亭はこれわが軍ののんどにもあたる所ぞ、一期いちごの命にかけても重任を慎しみ守れと、口のすっぱくなるばかり門出にもいい与えておいたではないか」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らがのんどに氷を与えて苦寒に怖れわななかしめよ、彼らが胆に針を与えて秘密の痛みに堪えざらしめよ、彼らが眼前めさきに彼らがしたる多数おおく奢侈しゃしの子孫を殺して、玩物がんぶつの念を嗟歎さたんの灰の河に埋めよ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
肩は磐石ばんじゃくをのせてもめげないと思われるような幅ひろく斜角線をえがき、立てば、背は五尺五寸のうえに出よう、ことにのんどの甲状腺は、生れたての嬰児あかごの、こぶしほどもあるかと思われるほど大きい。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「悪業のむくいだ」と罵りざま、ぐざと、そののんどを刺しつらぬいた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)