呼鈴ベル)” の例文
その一劃にある閑静な家の戸口の呼鈴ベルを鳴らした時に、彼の知っており、考えており、気づいていた範囲内のことであったのである。
それでもやつと呼鈴ベルを押すと、明りのさしてゐる障子が開いて、束髪そくはつつた女中が一人ひとり、すぐに格子戸の掛け金をはづしてくれる。
漱石山房の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
王女のように、美しく気高い処女を、到頭征服し得たと云うよろこびに、荘田は有頂天になっていた。彼は、呼鈴ベルを鳴らして女中を呼ぶと
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
隅の方についている門が入り口であろうが、掛け金や錠前らしいものもなければ、呼鈴ベルさえもない。これは空家あきやに相違ないと私は思った。
この金盥かなだらひは、六人の子供に一つしかないので、部屋のまん中近くの臺の上に直ぐに載せられるやうなことはなかつた。また呼鈴ベルが鳴つた。
明智は云いながら、呼鈴ベルを押して、助手の小林少年を呼び、電話で車を命じさせて置いて、手早く外出の用意をするのであった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
時とするとマブーフ氏は呼鈴ベルのなるのに喜んで飛び立った。「旦那様、水屋でございますよ、」とプリュタルク婆さんは悲しげに言った。
首がガクつくのをガーゼで巻いてある真鍮の呼鈴ベル、一緒に、アスパラガスに似た鉢植が緑の細かい葉をふっさり垂れていた。
すると玄関の呼鈴ベルが鳴った。何人だれかと思って行こうとすると、姉さんは太郎さん一寸ちょっとと乃公を呼止めて、斯う内命を下した。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
敬太郎けいたろうが梯子段の中途で、及び腰をして、硝子越ガラスごし障子しょうじの中をのぞいていると、主人の頭の上で忽然こつぜん呼鈴ベルはげしく鳴り出した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は新聞で知り得た事を、知れる限り友人に話した。折柄呼鈴ベルが激しく鳴って、書生が二人の紳士を伴って入って来た。
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
小栗自身は、家に居る時は大抵離室はなれの書斎で、書き物や、考え事のある時は、呼鈴ベルを鳴らさなければ、一歩も入ってはいけないことにされて居ります。
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
いや、取止とりとめて何も考えてなんかいなかったようです。唯、悠々と躊躇ためらわずに、玄関の呼鈴ベルを鳴らすと、やがて門が開きました。瓦斯ガスは消えていました。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
彼は全く意気揚々として、小径をはばむようにして歩き、堂々と呼鈴ベルを押すのであった。
青年技師は、卓上の呼鈴ベルを押した。と、それへ、同じ作業服を着た数名の男が現われた。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
二人の刑事は直ちにこれを尾行して彼の後を追うてデブー行の電車に飛び乗った。プラスビイユはすぐ公園から出て邸の門の呼鈴ベルを押した。鉄門の側から女中が出て来て門を開いた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
ある富豪——(呼鈴ベルを押しながら)いまさら未練がましいことを言うのはよせ。
探偵戯曲 仮面の男 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「……おお寒い寒い……一寸ちょっと、その呼鈴ベルを押して主人を呼んでくれませんか」
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、突然玄関の呼鈴ベルが鳴った。坂口は椅子から飛起きて扉を開けに行った。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
二度目に呼鈴ベルを押したら、っと白い上張りを引っかけた若い男が出て来たので、部屋をかけあうと、まだ二三日滞在している筈の前からの客があるのでそれまでならお泊めします、と云う事だった。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
『闘牛学校』という看板のかかったアーチ形の入口についていた呼鈴ベルを押すと、出て来たのは、寸詰すんづまりのモオニングを着た五尺未満のチョビ髯の紳士はこちらが述べる用向きを途中から引ったくって
と、その時、玄関の呼鈴ベルが、けたたましく鳴り響いた。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
不意に玄関で呼鈴ベルが鳴つた。四人は一斉に顔を挙げた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
呼鈴ベルを押して案内を乞うたが、何の返事もない。
土から手が (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「健康だとも。いいかい。呼鈴ベルを押すぜ。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そう云って伊藤青年は呼鈴ベルを押した。
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
じ・じ・じ・じい——呼鈴ベル
踊る地平線:04 虹を渡る日 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
それでもやつと呼鈴ベルを押すと、明りのさしてゐる障子が開いて、束髪そくはつつた女中が一人ひとり、すぐに格子戸の掛け金をはづしてくれる。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「だけど、あなた方は、今夜、私のお客さまだつたのね。ぢあ、お客さまらしくおもてなしをしなくつちや。」彼女は、呼鈴ベルを鳴らした。
倭文子は、異様な昂奮こうふんに上気したほおを、流れる涙も意識しないで、フラフラと立上ると、青年の意向を確めもせず、いきなり柱の呼鈴ベルを押した。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
疲れる位お手伝をしてやっても、邪魔になって仕様がないそうだから、乃公は椅子に坐って見物していると、頻りに呼鈴ベルが鳴った。無暗やけに鳴らす。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
カートンが「そりゃあちっとも差支えはないとも!」と答えたので、ダーネーは呼鈴ベルを鳴らした。「君は勘定を全部持つか?」とカートンが言った。
神保町じんぼうちょうの停留場で我々は降りた。その辺の迷路にも似た小路こじを、あちこちと二三丁歩いて、ある建物の前に来た時に、彼は立止って突然いきなりその呼鈴ベルを押した。
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
彼は仕事机の引き出しを開き、中からいくばくかの紙幣を取り出し、それをポケットに入れ、机をまた閉ざし、そして呼鈴ベルを鳴らした。バスクがとびらを少し開いた。
今にも戸口の呼鈴ベルが鳴りそうな気がして、空しく耳を澄ましたことも幾度だったか知れない。またときどき、かの手紙の移り香がほのかに残っている抽斗を開けてもみた。
ふみたば (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
新子の姉を待っているうちに、前川夫人は何か思いついたように、呼鈴ベルを押して女中を呼んだ。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これだけ身装みなりを改めた上、彼はまた三階を下りた。居間をのぞくと細君の姿は依然として見えなかった。下女もそこらにはいなかった。呼鈴ベルも今度は鳴らなかった。家中ひっそりかんとしていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この時、玄関の呼鈴ベルが不意に消魂けたたましく鳴った。ルパンはそれを聞くと
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
……聞こえないか……君はチョットその呼鈴ベルを押してくれたまえ。……何だボン州か。ウン。コック部屋に行って珈琲と菓子を貰って来い。普通のじゃ駄目だぞ。船長おやじが上海で買込んだ奴があるんだ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
遠くの呼鈴ベルが鳴つた。間もなく三人の婦人がこの室に這入つて來た。銘々めい/\卓子テエブルについて座をめ、ミラア先生は四番目の空席くうせきに腰を下した。
さては、昨夜ゆうべ踊り倒れて、こんなうちへ担ぎ込まれたのかな。それにしても、この家は一体全体どこだろう。見ると、枕許まくらもとの手の届く所へ、呼鈴ベルの紐が延びています。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「お前も道理のわかった人間になって、」と彼は、卓上の小さな呼鈴ベルを鳴らしてから、附け加えた。
だから案内を請はうと思つたら、まづその蔦の枯葉をがさつかせて、呼鈴ベルボタンを探さねばならぬ。
漱石山房の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
戸口の呼鈴ベルを鳴らしたって、夜分あんな時刻に戸を開けて貰えないことは分りきっています。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
姉さん達は額をあつめて弱っていると、突然だしぬけ呼鈴ベルが鳴った。愈〻来たか、やれやれとみんなが急に元気づくと、何の事だ馬鹿馬鹿しい。お島が澄まして名刺を持って入って来た。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼らは呼鈴ベルを鳴らし、家の中にはいり、それから弾薬を作りはじめた。女らの一人はこう話した。「私は弾薬とはどんなものだか知らなかったのですが、夫がそれを教えてくれました。」
夫人は、手軽に、借りてゐたマッチをでも返すやうに、手近の呼鈴ベルを押した。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
未亡人はいつの間にか呼鈴ベルを押したらしい。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だから案内を請はうと思つたら、まづその蔦の枯葉をがさつかせて、呼鈴ベルボタンを探さねばならぬ。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
二人は門内の砂利道を玄関につくと、そこの呼鈴ベルを押して案内を乞うた。すると、一人の女中がドアを開いて、顔を出したが、時も時、この異様の訪問者に、不気味らしく顔をしかめて
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)