口車くちぐるま)” の例文
御母さんの弁舌は滾々こんこんとしてみごとである。小野さんは一字の間投詞をさしはさいとまなく、口車くちぐるまに乗ってけて行く。行く先はもとより判然せぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
悪く思わないでくれと確かにそういった、その義侠ぎきょうらしい口車くちぐるまにまんまと乗せられて、今まで殊勝な女だとばかり思っていた自分の愚かさはどうだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ここの淫売窟には、そんなふうにして悪質の周旋屋の口車くちぐるまに乗せられて、東北の貧農の娘が、淫売をさせられるとは知らないで、買われてきたというのが多かった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
わかしてつかはすはずなれど夫よりは近所ゆゑ湯に入てるがよいお文も父と共にゆくべしと辯舌べんぜつ利口りこうを以て口車くちぐるまに乘せ金のつると思ふめひのお文は如何なる容貌しろものかとお文が仰向あふむくかほ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのうら骨髓こつずいとほりてそれよりの目横めよこにかさかにか、女髮結をんなかみゆひとめらへて珍事ちんじ唯今たゞいま出來しゆつたいかほつきに、れい口車くちぐるまくる/\とやれば、この電信でんしん何處いづくまでかゝりて、一てうごと風説うはさふとりけん
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
手あたりしだいにやといいれた人物に、こちらでけてしまうのですから、わけはありません。相手はだれでもかまわない。口車くちぐるまに乗りそうなお人よしをさがしさえすればよかったのです。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うさぎは、やまがなくなったから、からすの口車くちぐるまって、はら大根だいこんのこりや、くわえだべにくるになるかもしれない。だが、りこうなうさぎだ、あのからすめ、うまくさそせるかなあ。
からすとうさぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
穏和おだやかというよりもむしろ無口な彼は、自分でそうと気がつかないうちに、彼に好意をもった夫人の口車くちぐるまに乗せられて、最も有利な方面から自分をみんなの前に説明していた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つねそばから種々いろ/\口車くちぐるまかぢを取しかば又々また/\加賀屋へいた段々だん/\仔細しさい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
千葉ちば御恩ごをんのあたゝかく、くち數々かず/\のおれいはねども、よわをとこなればなみださへさしぐまれて、仲働なかはたらきのふくたのみておれいしかるべくとひたるに、わたもの口車くちぐるまよくまはりて、斯樣かやう/\しか/″\で
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)