口喧くちやかま)” の例文
なおも飯時めしどきに取りに来て貰っては困るとか、色々と口喧くちやかましく云った揚句、今日はいかんから明後日あさって頃来てみてくれ、などという家もあった。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そこでは冑武者よろいむしゃが数人、百姓家を取囲みながら、何か口喧くちやかましく叫んでいた。清三はその場面に幕の下るまで、康子と同席の男の解釈に苦しんで過ごした。
須磨寺附近 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
我儘なヂョウジアァナは、毒々しい執念しふねんさや、口喧くちやかましい尊大な態度にも拘らず、みんなの愛に甘えてゐる。
すると、どこからともなく色々の小鳥がその近くへ飛んできて、べちやくちやと口喧くちやかましく騒ぎ立てた。
水仙の幻想 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
おかみさんは口喧くちやかましいわりには、さっぱりした人で、使われる身としては気やすかった。おきぬとしては、はじめて他人の中に出たわけだが、それほど辛くはなかった。
早春 (新字新仮名) / 小山清(著)
「そんなことが出来るもんですか。あすこのお婆さんと来たら、それこそ口喧くちやかましいんですから。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いちいち口喧くちやかましく吟味し、自分でききざけしてから出すといつた風であつた、気にいらない客は突慳貪つつけんどんに追ひ立てを食はせ、買ひ出しに行つても思ふやうなねたが手に入らないと
一の酉 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
かういふ休息は、形式から云つても信徳をことに満足させた。一家が水入らずに暮すといふ考へは、何処か西洋風の匂をも含めて、彼の口喧くちやかましいくらゐ世話好な性質に心から適合するのだつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
毎日まいにちさうしてあるいてをんなりたがりきたがる女房等にようばうらあひだに、各自てんで口喧くちやかましい陰占かげうらなひたくましくされるともなく、ある村外むらはずれの青葉あをばなか太皷たいこおとうたこゑとがとほかすかにぼつつた
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それは洲崎町のとある角の、渠が何日でも寄る煙草屋の事で、モウ大分借が溜つてるから、すぐ顏を赤くする銀杏返しの娘が店に居れば格別、口喧くちやかましやの老母ばばあが居た日にはどうしても貸して呉れぬ。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
老人間ろうにんげんの地下戦車なんて、どうひいき目に見ても、役に立たないであろう。それに、また腰が痛くなったり、リューマチが起ったりすると、今、いい合っていた口喧くちやかましやの娘さんから、うらまれる。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
みやもりにはたくさんの老木らうぼくがありました。大方おほかたそれはまつでした。やまうへたかみからあたりを睨望みをろして、そしていつもなんとかかとか口喧くちやかましくつてゐました。あつければ、あつい。さむければ、またさむいと。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
のみならず以来は長吉に三味線をいじる事をば口喧くちやかましく禁止した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また味加減をつけるにも、例の口喧くちやかましい伯の事とてひとばい講釈はするが、舌は正直なもので、何でもしよつぱくさへして置けば恐悦して舌鼓したつゞみを打つてゐるといふ事だ。
始終せわしそうに、くるくる働いている川西は、夜は宵の口から二階へあがって、臥床ふしどに就いたが、朝は女がまだ深い眠にあるうちからとこを離れて、人の口喧くちやかましい主人として
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
蔵の二階が父の稽古場になっていて、たいていそこに閉じこもっていた。祖父は俗に云うこわもてのする人柄で、口喧くちやかましいわりには、出入りの者や女中なんかの気受けは悪くなかった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
それは洲崎町のトある角の、渠が何日でも寄る煙草屋の事で、モウ大分借が溜つてるから、すぐ顔を赤くする銀杏返いちやうがへしの娘が店に居れば格別、口喧くちやかましやの老母ばばあが居た日にはどうしても貸して呉れぬ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
のみならず以来は長吉ちやうきち三味線しやみせんいぢる事をば口喧くちやかましく禁止した。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
摂津せつつの大掾の女房かないのおたか婆さんといふと、名代の口喧くちやかましい女で、弟子達の多くが温柔おとなしい大掾の前では、日向ぼつこの猫のやうにのんびりした気持でゐるが、一度襖の蔭から
ぐれ出した鶴さんは、口喧くちやかましい隠居の頑張がんばっているこのしきいも高くなっていた。お島はおゆうの口から、下谷の女を家へ入れる入れぬで、苦労している彼の噂をおりおり聞されたりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もつともな話で、亜米利加には猶太人の好きな金は有り余る程あるし、口喧くちやかましい神様は居無いし、加之おまけに男はみんな女に親切だといふから、猶太種ユダヤだねの女が理想郷とするに打つて附けの土地柄だ。
女が口喧くちやかましいからといつて警察の手に引渡した男はない筈だ。それだのに男の手に薪ざつ棒を見ると、女は直ぐ法律のかひなすがらうとする。武器としての女の口は薪などと比べ物にはならない。
正直なもので、口喧くちやかましい世間も黙つてゐるのだ。