三方さんぼう)” の例文
更にヨリ一層椿岳の個性を発揮したのは、モウ二十年も前にこぼたれたが、この室に続く三方さんぼうかべの明り窓のない部屋であった。
「心得申した」——と返辞いらえながら、土器や三方さんぼうを手に取ると、焚き連らねられた篝火を目掛けパッパッパッと投げつけた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
暮につか煤掃すすはきの煤取りから、正月飾る鏡餅かがみもちのお三方さんぼうまで一度に買い調えなきゃならないというものじゃなし、おへッついを据えて、長火鉢を置いて
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
軸の前には「佐伯家系図」と書いた細長いはこ三方さんぼうに載せて安置せられ、それと並んでは、叔母が古道具屋で買って来た
それは、しら木の三方さんぼうなのだ。白い紙が敷かれていた。白いさらし木綿に包まれた短刀の刃先が魚の腹のように光っていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
いやそうでない、このまえ歌左衛門の芝居で見たときには三方さんぼうの上へ饅頭が盛ってあった。そりゃあ田舎芝居だからだ。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
むかしは菖蒲湯または柚湯の日には、湯屋の番台に三方さんぼうが据えてあって、客の方では「おひねり」と唱え、湯銭を半紙にひねって三方の上に置いてゆく。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二条為次と、中院ちゅういんノ定平とが、階を降りて、正成のまえに賜酒ししゅ三方さんぼうをすえ、また一ト振りの太刀を賜わった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
別に買った雛も無いから、細君が鶴子を相手に紙雛を折ったり、色紙いろがみの鶴、香箱こうばこ三方さんぼう四方しほうを折ったり、あらん限りの可愛いものを集めて、雛壇ひなだんかざった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
小姓の酌で、遠慮もなく、っているところへ、侍が、眼も綾な、錦をかけた三方さんぼうをささげてはいって来た。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
魔像の前には蜥蜴とかげの死骸、猫の脳味噌、半殺しの蛇といった不気味な供物が、足の高い三方さんぼうに載せて供えられ、その供物の真ん中に据えた白木の大俎板おおまないたの上には
まと射貫いぬくと的場まとばの土といっしょに的と箭とを三方さんぼうの上に載せて神前にそなえ、それをもって祭を終ることになっており、祭の前にはみな一生懸命に弓の稽古けいこをする。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
はちかつぎはそのときたせてたお三方さんぼうを二だい、おとうさんとおかあさんのまえささげました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
娘は鶴を折るとそれから舟、香箱、菊皿きくざら三方さんぼうなどを折ッてくれた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
かきくり葡萄ぶどう枝豆えだまめ里芋さといもなぞと共に、大いさ三寸ぐらいの大団子おおだんご三方さんぼうに盛り、尾花おばな女郎花おみなえしたぐいを生けて、そして一夕を共に送ろうとするこんな風雅な席に招かれながら、どうして彼は滑稽こっけい
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三方さんぼうの海老の赤みや初日影 昌房
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
いやそうでない、このまえ歌左衛門の芝居で見たときには三方さんぼうの上へ饅頭が盛ってあった。そりゃあ田舎芝居だからだ。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
女三人の名を書いた観世縒かんぜよりと男三人の名を書いた観世縒と合せて六本、お雛様の前の二つの三方さんぼうに載せて、目隠しをした子供に引かせ、男と女と二本ずつ三組に結び
七むずかしい侍生活さむらいぐらしは真っ平ご免と啖呵たんかを切って城を出ようとした時に大きな三方さんぼうに山のように小判大判を盛り上げて引出物だと云われた時、何んの雲助にそれほどの宝
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこでは阿賀妻が立ちあがって、白木の三方さんぼうをかかえるところであった。その上にのっている白と赤の大きなすみ餅がぱッと眼に映るのであった。集まったものは一度におーとたけった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
すると下座しもざほうから、一人ひとりわかおにってきて、お三方さんぼうの上にものをのせて、おそるおそるおかしらのおにまえって出ました。そしてなにかわけのからないことをしきりにいっているようです。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そんなあわただしい中にも、久子は、三方さんぼうにかわらけを
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人が並んで坐り、貰ったばかりの箱膳を三方さんぼうの代りに、三三九度のさかずきを交わしただけである。盃は与平の持って来た土器で、酒は燗徳利かんどくりを使った。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
神事を執行とりおこなう人達で、先頭には杉右衛門が立っている。跣足はだし、乱髪、白の行衣ぎょうえ、手に三方さんぼうを捧げている。後につづいたは副頭領で岩太郎の父の桐五郎であった。手に松明たいまつを持っている。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
久良馬が置き畳の上に直ると、妻のいつきが短刀をのせた三方さんぼうささげて来た。
初夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)