黒煙こくえん)” の例文
黒煙こくえんを吐く煉瓦づくりの製造場せいぞうばよりも人情本の文章の方が面白く美しく、すなわち遥に強い印象を与えたがためであろう。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
轟然ごうぜんと砲門は黒煙こくえんをぱっと吹き出して震動しんどうした。甲板かんぱんも艦橋も、こわされそうに鳴り響き、そしてぐらりと傾斜けいしゃした。
いまその二本にほん烟筒えんとうからさかんに黒煙こくえんいてるのはすで出港しゆつかう時刻じこくたつしたのであらう、る/\船首せんしゆいかり卷揚まきあげられて、徐々じよ/\として進航しんかうはじめた。
そして、あとには、濛々もうもうとして、黒煙こくえんいきづまるほど、ちこめて、電燈でんとうかげでうずをいていたのです。
見るまに、それを一手として、つぎには、大岩山おおいわやま木之本附近きのもとふきん岩崎山いわさきやまのとりでとおぼしきところから山火事のような黒煙こくえんがうずをまいて、日輪にちりんの光をかくした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとき横町よこちやうたて見通みとほしの眞空まぞらさら黒煙こくえん舞起まひおこつて、北東ほくとう一天いつてん一寸いつすんあまさず眞暗まつくらかはると、たちまち、どゞどゞどゞどゞどゞとふ、陰々いん/\たるりつびたおもすご
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふらふらする足どりで、二階の窓際まどぎわへ寄ると、はるか西の方の空に黒煙こくえん濛々もうもう立騰たちのぼっていた。服装をととのえ階下に行った時には、しかし、もう飛行機は過ぎてしまった後であった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
やまも、たにも、一時いちじ顛倒てんたうするやうひゞきともに、黒煙こくえんパツと立昇たちのぼる。猛獸羣まうじうぐん不意ふゐおどろいて、周章狼狽あわてふためいせる。
黒煙こくえんがやっとえて、ふたたびあたりがえたときには、もはや、そこにとかげはいなかったのでした。
かれはいつになく、その行方ゆくえかるくあきらめて、ふたたび黒煙こくえんのとりでへかげをまぎれこませてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
線路の横の雪山のうえにのぼると、除雪車が黒煙こくえんをあげつつ、近づくのが見えた。ロータリーだ。ロータリーに当って、雪は、まるで爆布ばくふのようにうつくしく横へはねとばされる。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あっ、命中だ! 英艦エクセター号の艦側かんそくから、濛々もうもうたる黒煙こくえんがあがる。余は……
沈没男 (新字新仮名) / 海野十三(著)