はぜ)” の例文
ところが、午前一時少しまえになると、今まであんなに釣れていたのがぴたっと止り、こんどはどうやってもだぼはぜぴきかからない。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ノルマン風の犬歯状の模様が、巨大なはぜの口に似たある感じを与えて、底知れぬ暗さのうちに、アーチ中にかすかに残っていた。
……客に接しては、草履を穿かない素足は、水のように、段の中途でもう消える。……宵にはぜを釣落した苦き経験のある男が、今度はすずきを水際でにがした。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
船底にバチャバチャ生きている魚を見ると、鯉、ますがある。すずき、はぜにくろ鯛がある。手長えびやなまずもある。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お秀の店からはぜ釣りの道具と餌を買入れて、船が岸を離れるとき運転手がまた迎えに来ますかと訊いたのに対して、不要の旨を答えたあとで、こう言いました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それは、どんこ(だぼはぜ、はぜ、かじかの類)も水垢を好む魚であつて、汀に近い石の頭をなめてゐる。
水垢を凝視す (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
木場はどういふ風の吹きまはしか、また突然、はぜの佃煮を手土産にして一人で尋ねて来た。そして
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
折原知事と官房主事とに、こつそり内証ないしようで耳打ちをする。芸者の言つた「ムツゴロウ」とは、肥前の有明の海にしか棲まない、はぜに似た小魚で、知事と同じやうに色黒で出目である。
唐芋とういもや八つがしらや蓮根などが、牛蒡ごぼう青蕪あおかぶと位置を争ってその存在を示すようになり、魚屋の店先へはかれいやひしこが、かじきまぐろはぜなどと並んで、同じように存在を示すようになる。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はぜかカイヅ、或は投網でイナをやるくらゐであるが、横浜から先は海も深くなるし、大鰺やメゴチ、或はソーダ、鱸、大だこ、ガラ、カンパチ、ボラ、メナダ、といふやうなものが釣れるから
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
河原へ下りる、鉱山発掘のあとの洞穴があって、その近傍だけは、木材を截って櫓井戸やぐらいどを組み合せ、渋色をした鉱気水が、底によどんでいる、暫らく休んで、はぜのつくだにで、冷たい結飯むすびを喰べたが
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
はぜ 七九・一三 一八・三五 〇・五〇 二・〇二
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
必ずしもはぜを釣らんとにはあらず
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
重吉ははぜ佃煮つくだにと豆腐汁で酒を飲み、良吉は飯をたべた。彼は泥鰌汁のお代りをし、たっしゃにたべながら、休みなしに話した。
ちゃん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かかる群集の動揺どよむ下に、冷然たる線路は、日脚に薄暗く沈んで、いまにはぜが釣れるから待て、と大都市の泥海に、入江のごとく彎曲わんきょくしつつ、伸々のびのびと静まり返って
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鰍の族が三、四十種あるうち、海近い河口に棲むダボはぜに似た鰍は肉に締まりがなく骨が硬い。
香魚と水質 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
キキ! キキと木の梢で悲しそうな声で鳴くものがあるので何気なく仰いで梢を見た。眼玉の飛び出たひれの長い八尺あまりのはぜのような魚がひれで木の幹をじながら悲しそうに鳴いているのであった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「川はぜのこれんぱかしのは無いかい。」
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
荷船にも釣る人ありてはぜの潮
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
はぜつりの見返る空や本願寺ほんぐわんじ
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
すると水面の浮子うきが動いて、強く水の中へ引きこまれ、私はタバコの煙にむせながら竿さおをあげた。釣れたのは大きなはぜであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
はぜ見着みつけたが、はうとおもふと、いつもは小清潔こぎれいみせなんだのに、硝子蓋がらすぶたなかは、とるとギヨツとした。眞黒まつくろられたはぜの、けてあたまぶやうな、一杯いつぱい跳上はねあが飛𢌞とびまははへであつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
海底に珊瑚さんご花咲くはぜを釣る
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
すると水面の浮子うきが動いて、強く水の中へ引きこまれ、私はタバコの煙にむせながら竿さおをあげた。釣れたのは大きなはぜであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
素見ひやかし追懸おっかけた亭主が、値が出来ないで舌打をして引返す……煙草入たばこいれ引懸ひっかかっただぼはぜを、鳥の毛の采配さいはいで釣ろうと構えて、ストンと外した玉屋の爺様じいさまが、餌箱えさばこしらべるていに、財布をのぞいてふさぎ込む
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私はひねはぜを一尾あげた。すると一人の男が土堤どての上をやって来て、私のすぐ脇で釣り始めた。私は場所を変えようと思った。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私はひねはぜを一尾あげた。すると一人の男が土堤どての上をやって来て、私のすぐわきで釣り始めた。私は場所を変えようと思った。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
くるまえびにしてもあなごにしても、はぜ、きす、めごちにしても、自分は頭とか中骨とか尻尾しっぽなどを、べつに揚げさせて、それをさかなに焼酎を啜る。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
くるまえびにしてもあなごにしても、はぜ、きす、めごちにしても、自分は頭とか中骨とか尻尾しっぽなどを、べつに揚げさせて、それをさかなに焼酎を啜る。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
若さまがはぜのあらいっておっしゃったでしょう、ですからそう通したんですよ、本当にちゃんとそう通したのに、今いってみたらこうやって、爼板まないたの上へ黒鯛を
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
当人自身も(客たちはだぼはぜと云っていたが)つねにできるだけ上品にふるまおうと努めていた。
秋の駕籠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夕景に「舟」ではぜ網をやった。何も考えなかった。今日は怠けた。この馬鹿め。(一一、九)
博奕ばくちをぶつとか呑んだくれとか、新町へ入浸るとかいうならべつだが、ただへえ魚釣りに凝ってるだけじゃねえですか、それも一尾のだぼはぜせえ釣って来たためしがねえだで
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
留さんは秋はぜのように喜びでふくれながら帰って行った。
留さんとその女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「彼岸にはぜを釣るみてえだ」と彼はひとりごとを云った
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
はぜ登る川に燈籠流しけり