高野山こうやさん)” の例文
また京近くへ帰ってきて、三十代に熊野、高野山こうやさん及び天野山、吉野山にこもった。これが修業時代で、五十代に入ると、西国の旅に出た。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
近頃日和下駄を曳摺ひきずって散歩するうち、私の目についた崖は芝二本榎しばにほんえのきなる高野山こうやさんの裏手または伊皿子台いさらごだいから海を見るあたり一帯の崖である。
何でもおかみへ二た月ほどのお暇を願って、叔父御さまの御遺骨を、高野山こうやさんへ納めに行くと仰っしゃって、つい両三日前、お旅立ちなさいましたよ
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高野山こうやさんに登った方もあるが、江戸に踏みとどまって、日頃取込んだ不義の財で、栄耀の限りを尽しておる者もすくなくない。
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
宮内は高野山こうやさんへ、探偵として入り込む内命をうけて喜んで出立しゅったつした。紀州きしゅうの霊場には、鎌倉を去った堀主水が、身の危険を感じて登山しているのであった。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
そこで定右衛門と林助とで、亀蔵を坊主にして、高野山こうやさんに登らせることにした。二人が剃髪ていはつした亀蔵を三浦坂まで送って別れたのが二月十九日の事である。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
高塔山たかとうやまと谷ひとつ隔てた山に、高野山こうやさん九州別院「東南院とうなんいん」がある。その周囲の鬱蒼たる森林に、このごろ、雉子きじが出没するという噂。猟の目あてはそれだった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
真言しんごん宗の霊場、紀州の高野山こうやさんは誰も知らぬ人はありません。ですがその麓にある村の古沢や河根かねなどでかれる「高野紙こうやがみ」もこの寺につれて記憶されねばなりません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
大正十四年八月四日の朝奈良の宿を立って紀伊の国高野山こうやさんに向った。吉野川を渡り、それから乗合自動車に乗ったころは、これまでの疲れが幾らか休まるような気持でもあった。
仏法僧鳥 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
高野山こうやさんまぎれこんだのではないかとおどろくほど、杉やけやき老樹ろうじゅが太い幹を重ねあって亭々ていていそびえ、首をあげて天のある方角を仰いでも僅か一メートル四方の空も見えないのだった。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
時子の病気も、銀子が写真屋にもらって送った高野山こうやさんの霊草で、少しくなったような気もしたが、医者に言わせると栄養の不足から来ているのだが、母系の遺伝だとも思われた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
三河みかは鳳來寺山ほうらいじさん高野山こうやさん比叡山ひえいざん三箇所さんかしよだけにゐる靈鳥れいちようで、けつして姿すがたせず、こゑきこえるだけだといひますが、もとは𤍠帶ねつたいとりで、とほわたつてくるのですから以上いじようみつつのやまばかりでなく
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「いいえ。今度は高野山こうやさん、京都を経て、生れ故郷へ参るつもりです。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
昭和二年八月十一日 改造社主催講演会に出席のため高野山こうやさんおもむく。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
かれは高野山こうやさんせきを置くものだといった、年配四十五六、柔和にゅうわななんらのも見えぬ、なつかしい、おとなしやかな風采とりなりで、羅紗らしゃ角袖かくそで外套がいとうを着て、白のふらんねるの襟巻えりまきをしめ、土耳古形トルコがたぼうかぶ
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
為世は自足して元徳四年出家し、八十の高齢で華々しい栄華を一とまず閉ざした。その後、高野山こうやさん蓮花谷れんげだに隠棲いんせいしたが、元弘げんこう建武けんむの間また京都に帰ってもいる。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
忠利の兄与一郎忠隆ただたかの下についていたので、忠隆が慶長五年大阪で妻前田氏の早く落ち延びたために父の勘気を受け、入道休無きゅうむとなって流浪したとき、高野山こうやさんや京都まで供をした。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
雑賀党さいがとう熊野衆くまのしゅう高野山こうやさんなどの法城に巣くう僧徒兵力がみなそれであり、海を越えて、それを指嗾しそうする四国、それを力づける瀬戸島々の海上武族などがあって、禍根かこんは、一朝一夕のものではない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひどい目にいましたよ、高野山こうやさんで……。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
炎天の空美しや高野山こうやさん
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
この大和路やまとじまで来たのを幸いに、ついでといっては勿体ないが、紀州の高野山こうやさんか、河内の女人高野という金剛寺か、いずれかへ行って、位牌を預け、かたみ髪を仏塔へ納めなどして置きたいという。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、匆々そうそう高野山こうやさんへ逃げのびた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)