おどろか)” の例文
五年ぜんに禁獄三年、罰金九百円に処せられて、世の耳目じもくおどろかした人で、天保六年のうまれであるから、五十三歳になっていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
二人は蒲田が案外の物持てるにおどろかされて、おのおの息をこらしてみはれるまなこを動さず。蒲田も無言のうちに他の一通を取りてひらけば、妻はいよいよちかづきて差覗さしのぞきつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
路傍みちばたに寝ている犬をおどろかして勢よくけ去った車のあとに、えもいわれず立迷った化粧のにおいが、いかに苦しく、いかにせつなく身中みうちにしみ渡ったであろう……。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一年ひとゝせせきといふ隣駅りんえき親族しんぞく油屋が家に止宿ししゆくせし時、ころは十月のはじめにて雪八九尺つもりたるをりなりしが、夜半やはんにいたりて近隣きんりん諸人しよにんさけよばはりつゝ立さわこゑねふりおどろか
それ故にこそは母のねむりをもおどろかしたてまつれ。只々ゆるし給へと潸然さめざめなき入るを、老母いふ。一一〇牢裏らうりつながるる人は夢にもゆるさるるを見え、かつするものは夢に漿水しやうすゐを飲むといへり。
コルソオの大道にて戲謔能く人のおとがひを解きしは誰ぞ。アヌンチヤタが家にて即興の詩をそらんじ座客をおどろかしゝは誰ぞ。今は目に懺悔の色を帶び頬に死灰の痕を印して、殊勝なる行者と伍をなせり。
なむとするをおどろかし、けるをぞ控へたる。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
路傍みちばたに寝てる犬をおどろかしていきほひよくけ去つた車のあとに、えもはれず立迷たちまよつた化粧けしやうにほひが、いかに苦しく、いかにせつなく身中みうちにしみ渡つたであらう………。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
何事とも覚えずおどろかされしを、色にも見せず、怪まるるをもことばいださず、ちとの心着さへあらぬやうにもてなして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
されど流石さすがに人をおどろかさんことの心苦しくて、わざと燈燭の數少き、薄暗き小劇場に出づるにこそ。おん身の記憶に存じたるアヌンチヤタは早や死して、その遺像は只だかしこの壁にありといひぬ。
なむとするをおどろかし、けるをぞ控へたる。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
貫一も遂に短き夢を結びて、常よりははやかりけれど、目覚めしままに起出おきいでし朝冷あさびえを、走り行きて推啓おしあけつる湯殿の内に、人は在らじと想ひしまなこおどろかして、かの男女なんによゆあみしゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
羨望うらやみの神タンタルをおどろかす空虚のさかずき