飛蒐とびかゝ)” の例文
五月雨さみだれ陰氣いんき一夜あるよさかうへから飛蒐とびかゝるやうなけたゝましい跫音あしおとがして、格子かうしをがらりと突開つきあけたとおもふと、神樂坂下かぐらざかした新宅しんたく二階にかいへ、いきなり飛上とびあがつて
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
切下きりさげられあつと玉ぎる一聲と共に落せし提灯のぱつ燃立もえたつあかりに見れば兄なる長庵が坊主天窓ばうずあたま頬冠ほゝかぶ浴衣ゆかたしりひつからげ顏をそむけて其場にたゝずみ持たる脇差わきざし取直し再度ふたゝびかうよと飛蒐とびかゝるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
丸でゑた獣の人に飛蒐とびかゝらうと気構へて居るのと少しも変つた所は無い。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
しかし天性弱きを助け強きをひしぐの資性に富み、善人と見れば身代しんだいは申すに及ばず、一命いちめいなげうってもこれを助け、また悪人と認むればいさゝか容赦なく飛蒐とびかゝって殴り殺すという七人力にんりき侠客きょうかくでございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いぬどもの、みゝにはて、きばにはみ、ほのほき、黒煙くろけむりいて、くるまともはず、ひとともはず、ほのほからんで、躍上をどりあがり、飛蒐とびかゝり、狂立くるひたつて地獄ぢごく形相ぎやうさうあらはしたであらう
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『あツ、』とさけんで、背後うしろから飛蒐とびかゝつたが、一足ひとあしところとゞきさうにつても、うしてもおよばぬ……うしいそぐともなく、うごかない朧夜おぼろよ自然おのづからときうつるやうに悠々いう/\とのさばりく。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)