雲脚くもあし)” の例文
やまうえへとつづいているみちは、かすかにくさむらのなかえていました。そして、やまいただき灰色はいいろくもって、雲脚くもあしが、はやかったのです。
谷にうたう女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうえには、どんよりした鉛筆でぼかしたような曇った日ざしが、おそい秋頃らしく、重く、低い雲脚くもあしれていたのです。
寂しき魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
が、その雲脚くもあしの如き勢も、城の間近まで来たかと思うと、ぴたと止って、ただ遠く潮騒しおさいに似た喊声かんせいが聞えて来るのみだった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
烈しい雲脚くもあしが次第次第に薄らいで行く。……あたりがだんだんだんだん明るくなって来た。……
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
なにげばさゝうなものだけれど、屋根やね一つとほくにえず、えださす立樹たちきもなし、あの大空おほぞらから、さへぎるものはたゞ麦藁むぎわらで、かつつてはきふくもる……うも雲脚くもあしらない。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なんとなく雲脚くもあしの早さを思わせるような諸大名諸公役の往来は、それからも続きに続いた。尾張藩主の通行ほど大がかりではないまでも、土州としゅう雲州うんしゅう讃州さんしゅうなどの諸大名は西から。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
迅い雲脚くもあしである。裾野の方から墨を流すように拡がって、見る間に、盆地の町——甲府の空をおおってしまう。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
以前、京都からのがれて来た時の暮田正香くれたまさかを隠したこともある土蔵の壁には淡い月がさして来ていて、庭に植えてあるかきこずえも暗い。峠の上の空を急ぐ早い雲脚くもあしまでがなんとなく彼の心にかかった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わたしたちは七丁目なゝちやうめ終點しうてんからつて赤坂あかさかはうかへつてた……あのあひだ電車でんしやして込合こみあほどではいのに、そらあやしく雲脚くもあしひくさがつて、いまにも一降ひとふりさうだつたので、人通ひとどほりがあわたゞしく、一町場ひとちやうば二町場ふたちやうば
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
また降り出しそうな空には、雲脚くもあしが乱れていた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
施薬院が辞去した頃は、すでに下鳥羽しもとばは宵だった。風が出て、雲脚くもあしはやくなりかけている。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今朝も雲脚くもあしは早く、まだ他地方はゆうべから吹きれているような天候である。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
颱風期たいふうきである。どこか遠国で大荒れをしているのだろう。近畿いったいは強風だった。都の朝も雲脚くもあしの迅い明滅をしきりにして、加茂川のそよぎがそのまま大内裏の木々をも轟々ごうごうとゆすっていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)