門辺かどべ)” の例文
旧字:門邊
「花も散ったが、お門辺かどべ箒目ほうきめ立って、いつもおきれい。部屋も縁も、艶々つやつやと明るう、御主人が留守とも見えぬ。……いや、陰膳かげぜんまで」
今の御姿おすがたはもう一里先か、エヽせめては一日路いちにちじ程も見透みとおしたきを役たたぬ此眼の腹だたしやと門辺かどべに伸びあがりての甲斐かいなき繰言くりごとそれももっともなりき。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あるあきさむのこと、まちはずれのおおきないえ門辺かどべって、いえなかからもれるピアノのおとと、いい唄声うたごえにききとれていました。あまりに、そのおとかなしかったからです。
海からきた使い (新字新仮名) / 小川未明(著)
厚く礼を述べ白翁堂の家を立出たちいで、見え隠れに跡をつけ、馬喰町へまいり、下野屋の門辺かどべたゝずみ待ってるうちに、供の者が買ものに出てきましたから、孝助は宿屋にはい
門辺かどべにありたる多くのども我が姿を見ると、一斉に、アレさらわれものの、気狂きちがいの、狐つきを見よやといういう、砂利、小砂利をつかみて投げつくるは不断親しかりし朋達ともだちなり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これが、この世の見おさめと、門辺かどべに立てば月かげや、枯野は走り、松はたたずむ。
むしろこれらのことが起こるを見れば、人の子すでに近づきて門辺かどべに至るを知れ。汝らがイエスの名のゆえに笞打たれるその笞音の一つ一つが、神の国の黎明を告ぐる暁の鐘の響である。
「その六部が何者であったかな」養父はまれ門辺かどべへ来る六部などへ、厚く報謝をするおりなどに、その頃のことを想出して、お島に語聞かたりきかせたが、お島はそんな事には格別の興味もなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
水うちて月の門辺かどべとなりにけり泡盛のかめに柄杓添へ置く
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
杉のはのたてる門辺かどべに目白おし羽觴うしょうとばす岸のちゃ
もてなしは門辺かどべ焚火たきび炉に榾火ほだび
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
君が門辺かどべをさまよふは
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
茫然ぼうぜんと、門辺かどべに立ったままな義清に——そのとき、奥の泣き声は——かれをして、ともに泣き悲しむことをさせなかった。
門辺かどべにありたる多くのども我が姿を見ると、一斉いつせいに、アレさらはれものの、気狂きちがいの、狐つきを見よやといふいふ、砂利じやり小砂利こじやりをつかみて投げつくるは不断ふだん親しかりし朋達ともだちなり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と思い、勇齋の門辺かどべに立って見ると、名人のようではござりません。
松立ちしいも門辺かどべを見て過ぎぬ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「うかとでも、失礼な言辞あってはならぬぞ。わしが今、御城内から乗って来た馬が門辺かどべつないであろう。それへまたがり、直ぐ飛んで行って来い」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春泥しゅんでいを人ののしりてゆく門辺かどべ
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
門辺かどべにかがりをいている家もあるし、紙燭ししょくを持ってわざわざやがて通るであろう聟どのの到着を、婚家と共に、待ち久しげにたたずんでいる人々もある。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紅梅の旧正月の門辺かどべかな
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
鎗一筋、鎧一領をたずさえて、いかにも清々すがすがと立ってゆく良人の影を、門辺かどべたたずんで見送りながら、丹女の頬には春の世間をよそに、一すじの涙がわれ知らず流れていた。
鬼もひし軍神いくさがみとも見えたその人が、薄暮の野を見まわして、われともなくそう呟いているすがたは、まるで帰らぬ子を門辺かどべに出て待っている母のように他念なかった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一日尺八をふいて、人の門辺かどべに立っても、ようよう貰うところは、一炊ひとかしぎの米と濁酒どぶろくの一合のしろが関の山じゃ。……そ、それを無断であかの他人のおのれらに食われてたまろうか。かやせ! かやせ!
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)