鏑矢かぶらや)” の例文
次には鏑矢かぶらやを大野原の中に射て入れて、その矢をらしめ、その野におはいりになつた時に火をもつてその野を燒き圍みました。
権六は長押なげしに掛けられてある重籘しげどうの弓を取り下ろすと、鏑矢かぶらやまじえて矢三筋弓に添えて小脇に抱え、つと駈け抜けて先頭に立った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
義仲と共にあった今井四郎兼平、しばし敵陣を睨むと、やおら背のえびらより鏑矢かぶらやを取り出し、その中に火を入れて弓につがえた。
真っ赤な空の下、揉み合う軍兵の呶号、軍馬の悲鳴、銅鑼ハランガの音、鏑矢かぶらやの響き、城寨より撥ね出す石釣瓶いしつるべなど、騒然たる合戦の物音にて幕あく。
やがて鏑矢かぶらやがぶうんとおとててんで行きますと、たしかに手ごたえがあったらしく、きゅうくもみだれはじめて、中から
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
兎にも角にもおぼえある武士ならん、いかに射るぞと見てあれば、かれは鏑矢かぶらやを取ってつがえ、よっ引いてひょうと放つ。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小屋の奥へ隠れたと思うと、彼は一張りの弓を持って現われ、大きな鏑矢かぶらやをつがえて、はるか水面遠き芦荻ろてきの彼方へ向って、びゅっんと、つるをきった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ありゃ西条流の鏑矢かぶらやといって、大弓はいざ知らず、矢ごろの弱い半弓に、あんな二また矢じりの重い鏑矢を使う流儀は、西条流よりほかにゃねえんだよ。
「もう一つ、わからねえことがあるんだが、——毒を仕込んだ、鏑矢かぶらやの根は、何處から持ち出したんでせう」
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
あの冷徹氷のような理智の短剣、独創の矢羽やばねが風を切る自我の鏑矢かぶらや、この二つでした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
因って迎え申したから時至れば一矢射たまえと乞う、うべないて楼に上って待つと敵の大蛇あまたの眷属けんぞくを率いて出で来るを向うざま鏑矢かぶらやにて口中に射入れ舌根を射切って喉下に射出す
すると焦燥あせりに焦燥っている菊池武時は憤然として馬上のまま弓に鏑矢かぶらやつがえた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その証拠には、一度にも足りない緩い傾斜ではあるが、おもむろに高まっていつしか六峰駢峙した山頂へと連っているので、遠く横から眺めると空中に高鳴りする鏑矢かぶらやのような線を描いている。
山と村 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
これは近江の國の比叡山ひえいざんにおいでになり、またカヅノの松の尾においでになる鏑矢かぶらやをお持ちになつている神樣であります。
声に応じて四天王、パッと正面へ躍り出るや、朱雀四郎は長巻ながまきを構え、玄武三郎はやりをしごき、白虎太郎は弓を握り鏑矢かぶらやをつがえて引き絞った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして花押かきはんをそれに加え、背のえびらから上差うわざし鏑矢かぶらや一トすじ抜きとって願文に添え、神殿のまえの壇に納めた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二十四さした切斑きりふの矢を負い、薄切斑にたか割りあわせて作り、鹿の角を使った鏑矢かぶらやをさし添えていた。
まだ残っている六本の鏑矢かぶらやもろとも、すべての事実を雄弁に物語るかのごとくちゃんと立てかけてあったものでしたから、名人のすばらしい恫喝どうかつが下ったのは当然!
「矢の傷にしては、大き過ぎるのだ。これではまるで鏑矢かぶらやで射られたやうぢやないか」
一生懸命いっしょうけんめいこころの中で八幡大神はちまんだいじんのおをとなえながら、この一の射損いそんじたら、二のをつぐまでもなくきてはかえらない覚悟かくごをきめて、まず水破すいはという鏑矢かぶらやって、ゆみつがえました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その鏑矢かぶらやに似たものを、強弓の達者が放つと、矢は笛のような叫びと火のツバサを曳いて、闇夜をけ、城のやぐら、兵の根小屋、どこへでも火ダネを落す。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるにエウカシは鏑矢かぶらやを以つてその使を射返しました。その鏑矢の落ちた處をカブラさきと言います。
さすがの頼政も弱ったが、やがて肯くと鏑矢かぶらやを弓につがえた。先程鳴いたと覚しき闇空にひょうと放った。うなりをあげて飛ぶ鏑矢に驚いたか、果して鵺は高く鳴いて飛びあがる。
「楊弓の矢尻をへて、毒を仕込んだ鏑矢かぶらやで、お妙の首筋を刺した人間が下手人さ」
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
一のがうまく行ったので、頼政よりまさはすかさず二の兵破ひょうはという鏑矢かぶらやかけますと、こんどもまさしく手ごたえがあって、やがてどしんとなにおもいものが、屋根やねの上におちたとおもうと
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
やにわとうしろにあった西条流半弓を鏑矢かぶらやもろとも、わしづかみにしながら、おやま姿にあられもなく毛むくじゃら足を大またにさばいて、タッ、タッ、タッと舞合表へ逃げだしましたので、名人
仲間入りを望む者は、その茶店で始終見張っている朱貴しゅきっていう男まで申し入れる。そして朱貴がうなずけば、物凄いうなりのする鏑矢かぶらやつがえて、対岸の梁山泊へ向って射るんです。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鏑矢かぶらやの根と入れ換へて、その中に毒を仕込んだのだらう
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
鏑矢かぶらやのうなりは鳴りひびいて、死闘は三日間続いた。
朱貴は軒の内へ馳けこんで、例の強弓と鏑矢かぶらやを取り出し、江の岸からキリキリと引きしぼった。放つやいな、鏑矢は澄みきッた大気を裂いて、はるか江の彼方へうなって消えた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこは今は人もなき、旧足利直義ただよし空館あきやかたなのである。——船田ノ入道は、その前に兵をそろえて、三たびときの声をあげさせ、また、三すじの鏑矢かぶらやを邸内へ射込んだのち、中門の柱を切っておとした。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)