邪推じゃすい)” の例文
実際またそう思って読んで行けば、疑わしい個所もないではなかった。けれども再応さいおう考えて見ると、それも皆彼女の邪推じゃすいらしかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どうしても君が嫌だと云えば、いたし方がないけれども、こういう誤解や邪推じゃすいに出発したことで君と喧嘩したりするのは、僕は嫌だ。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「オオ、おめえは何か、おれとお吉さんと、変なことでもあるように邪推じゃすいしているってえことだが、それじゃ、お吉さんがかわいそうだ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、そうでもないけれど、お前が妙に見せたがらないから、つい邪推じゃすいをして、おれ以前に他の愛人があったのかと思った」
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私は暗然あんぜんと顔を上げた。芸術家気質でそういうだらしない生活をしているのだろうと、旅川が言外に含めたのではないかと邪推じゃすいしたのである。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
庄太郎は、さっきのおろか邪推じゃすいを笑うどころではなく、いて自分自身を安心させる様に、大丈夫、大丈夫と繰返くりかえした。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ぐうすること峻烈しゅんれつであったのはそういう冷やかし半分のおおかみ連を撃退げきたいする手段でもあったと云うが皮肉にもそれがかえって人気を呼んだらしくもある邪推じゃすい
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ハリッチ発などと書くと、余が、とうとう初一念しょいちねんつらぬいて、ロンドン上陸後、このハリッチへ来たように邪推じゃすいするであろう。しかし、事実は、大ちがいだ。
沈没男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あれはまったく君の邪推じゃすいというものだよ。君はそんなことのできるような性質の人ではないじゃないの
遊動円木 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
ぼくが、がしたのではないよ。」と、B坊ビーぼうは、あまりのA坊エーぼう邪推じゃすいに、不平ふへいいだきました。
町の真理 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ばかを申せ! 拙者が貴公を訴人したなどとは、徹頭徹尾てっとうてつび貴様の誤解だ! 邪推じゃすいじゃ!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いくら下手へただって糸さえおろしゃ、何かかかるだろう、ここでおれが行かないと、赤シャツの事だから、下手だから行かないんだ、きらいだから行かないんじゃないと邪推じゃすいするに相違そういない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが全く私の邪推じゃすいで、娘時代の理想に良人おっとが高利貸に責められるというような事も想像しませんからただ驚きのあまり色々な邪推を起したのです。極端まで邪推をたくましくしたのです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そんな邪推じゃすいしていらっしゃるの。わたくし勝彦さんを馬鹿だとか白痴だとかいやしめたことは、一度もありませんわ。あんな無邪気な純な方はありませんわ。それは、少し足りないことは足りないわ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
おみちがさっきのあの顔いろはこっちの邪推じゃすいかもしれない。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
然るに、明智どのには、女性のような邪推じゃすいをなさる一面から、何か、この蘭丸長定が君側からそれをきつけでもしたように取っておらるるらしい。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……それ考えたら無理もないとこもあるのんで、まあちょっとぐらい邪推じゃすい交ってるとしたかて、とにかく本気で私に同情求めてるみたいに思われますねん。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして、これは私の邪推じゃすいかも知れませんけれど、河野はむしろ、覗き眼鏡の秘密をそのすじに知らせないで、彼の独占にして置くことを望んでいる様に見えました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たしかにそこに置いた筈の夜具のすそのところには見当らず、両人は目を皿にして部屋中をい廻ったがどこにもなく、そこで両人互いに相手を邪推じゃすいして立廻りへと移行したが
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
好加減いいかげん邪推じゃすいまことしやかに、しかも遠廻とおまわしに、おれの頭の中へましたのではあるまいかと迷ってる矢先へ、野芹川のぜりがわの土手で、マドンナを連れて散歩なんかしている姿を見たから
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と云うと私がひどく邪推じゃすい深いように聞えますが、これはその若い男の浅黒い顔だちが、妙に私の反感を買ったからで、どうも私とその男との間には、——あるいは私たちとその男との間には
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
不規則に覚えていたのである鵙屋の家族は佐助が邪推じゃすいしたように笑い草にする積りであったかも知れないが
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これはおれの邪推じゃすいかも知れない。出来るならそう思いたい。だが、あれが偶然だろうか。昨日から今朝にかけておれの行く所には必ず母親の目が光っているのだ。
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それで、亡きおもとの父も、必ずや、頼政の軍にでも加担して果てたのであろうと、邪推じゃすいするのでしょう
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は、六郎氏が夕刻から、よく小梅の友達の所へ碁を囲みに出かけたのは、この屋根裏の遊戯の時間をごまかす手段ではなかったか、とさえ邪推じゃすいするのであります。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
八風斎はっぷうさいの鼻かけ卜斎ぼくさいは、さてこそ、秀吉ひでよしのまわし者でもあろうかと邪推じゃすいをまわして、そこの唐紙からかみたおすばかりな勢い——間髪かんはつをいれずにあとを追いかけていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本当に恐ろしいことだけれど、そんな邪推じゃすいでさえも、この東京では決して無理とは云えないのです。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
可憐かれんな小娘のおののき声には、何の邪推じゃすいも起らなかった。一徹であるだけに、十兵衛は感動しやすい。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ぬために、さてはと、悪く邪推じゃすいして、城外の下人どもまで、あらぬ臆測おくそくを口走ったものらしい
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼の部分だけくり抜いてある様子だが、そのほかは顔全体がまったく隠れてしまっているではないか。まるで顔を見られまいための巧みな工夫みたいに邪推じゃすいされるではないか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「それどころか、たまに酒ぐらい少し飲むが、おれは生れ代ったように、あれ以来、武蔵とお通の消息を探り歩いているじゃねえか。そうおふくろに邪推じゃすいされちゃ情けなくなる」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は先に述べた諸戸の求婚運動を、若しや私から初代を奪わんが為ではあるまいかと邪推じゃすいした時、私自身私の猜疑心をわらった位である。だが、この一度ひとたびきざした疑いは、妙に私を捉えて離さなかった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが、それほど愚鈍とも見えない内匠頭と思うと、或は、知っていながら、慇懃と口先だけ、出すべき実質の物を出さないで済ませようとするずるい手ぐちかもしれないと邪推じゃすいした。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかに、さもしい俗人の邪推じゃすいをもって僧正の身のまわりをながめても、僧正に、それ以上なものがなければ淋しかろうとか、不幸だろうとかいうようなことは考えもつかない沙汰である。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉が僭越せんえつ音頭おんどを取って事態をうごかしているように邪推じゃすいされた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれだ……。旦那ときたひにゃ、まったく邪推じゃすいぶけえんだから」
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『まあ、善兵衛さんたら、ほんとに、邪推じゃすいぶかい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう邪推じゃすいもできるし
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ま、邪推じゃすいぶかい」
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)