遣戸やりど)” の例文
はね起きると、すばやく倒れた遣戸やりど小盾こだてにとって、きょろきょろ、目を左右にくばりながら、すきさえあれば、逃げようとする。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たのしい夜は雪にもならず、みな歌をものして過ごし、けて筒井は下がろうとして仲の遣戸やりどをあけようとすると、よい月夜になっていた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
早起きではいつも一番の爺の左近が、遣戸やりどをあけて、そのあかがおを東の空へあげたとたんに、こう独りでつぶやいていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大兄は遣戸やりどの外へ出て行った。卑弥呼は残った管玉を引きたれた裳裾もすその端でらしながら、彼の方へ走り寄った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
別荘もりの男から主人と思って大事がられるために、時方は宮のお座敷には遣戸やりど一重隔てたで得意にふるまっていた。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
京では、昼のうちから私の帰る由を言い置かれてあったと見え、人々は塵掃ちりはらいなどもし、遣戸やりどなどもすっかり明け放してあった。私は渋々と車から降りた。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかしはなはだ笑止なことに、平中は去年以来此の忍び歩きを繰り返して、或る時はこゝぞと思う遣戸やりどの外で息をらしてみたり、勾欄こうらんのほとりにたゝずんでみたり
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
杉戸遣戸やりどの隙間よりこがらし漏れてひややかに、燈籠の灯影ほかげ明滅して、拭磨ふきみがかれたる板敷は、白く、青き、光を放てり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて植込の一ばん奥の、こんもり茂った丘の上なる小さな堂の前まで来ると、呉羽之介は立止り、懐中から鍵を出して遣戸やりどを開き先に立って堂内にはいりました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
若き時活計みすぎ疎く、西南の不夜城に居びたりのいきつき酒して耳に近き逐ひ出しの鐘を恨み、明けて白む雲をさへうるさやと遣戸やりどさゝせ、窓塞がせ、蝋燭を列べさせて、世上の昼を夜にして遊ぶも
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
広さは十六帖、西に面して板敷の押廻しがあり、妻戸も遣戸やりどもあけてあるので、小砂利を敷いた広場が、矢狭間やざまのある白い土塀まで、初秋の午後の陽をあびて、眼にしみるほど明るく見えていた。
私は思はず立止つて、もし狼籍者でゞもあつたなら、目にもの見せてくれようと、そつとその遣戸やりどの外へ、息をひそめながら身をよせました。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すると、障子の外を、の人影が、さやさやと通って行った。やがて遣戸やりどの音に耳をすましていると、それは小宰相の居間へ入ったような気がされた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、反耶が卑弥呼の部屋の遣戸やりどを押したとき、毛皮を身にまとって横わっている不弥うみの女の傍に、一人の男がかがんでいた。それは彼の弟の反絵であった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
男はそれへちょっと目をやりながら、遣戸やりどの前を通り過ぎようとした時、ふいとその半開きになっていた遣戸の内側に一人の女のいるらしいけはいを捉えた。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
姫君は話すために出ることを承知しなかったが、女房らが押し出すようにして客の座へ近づかせた。遣戸やりどというものをしめ、声の通うだけのすきがあけてある所で
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そしてその肉片がポロリと床へ落ちたのを反射的に拾い上げながら、一方の遣戸やりどを押し開いて逃げた。
太郎は、瓶子へいしを投げすてて、さらに相手の左の手を、女の髪からひき離すと、足をあげて老人を、遣戸やりどの上へ蹴倒けたおした。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
は、四間ほどあるが、荒壁にすがむしろを敷いたのみで、風雨にそなえ、しとみ遣戸やりどがあるだけのもの。世捨て人の庵でも、もすこし何かしらの風雅はある。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卑弥呼ひみこの足音が高縁たかえんの板をきしめて響いて来た。君長ひとこのかみ反耶はんやは、竹の遣戸やりどを童男に開かせた。薄紅うすくれないに染ったはぎの花壇の上には、霧の中で数羽の鶴が舞っていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
廊下の突きあたりへ来たときに、遣戸やりどを音を立てぬようにごそ/\と開けて、自分が先に庭に下りると、老女はふところから草履ぞうりを出して、それを法師丸の前にそろえた。
「すぐその遣戸やりどの向こう側に置きましたよ。すぐ御覧なさい」
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼の様子に安心した、猪熊いのくまおじは、そろそろ遣戸やりどの後ろから、にじり出ながら、太郎のすわったのと、すじかいに敷いた畳の上へ、自分も落ちつかないしりをすえた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
北の遣戸やりどめ、南のだけをかかげた所にすぐ少年の声が聞かれた。しかしそれは、きイんと癇性かんしょうをおびた駄々ッ子声で、双六すごろくの駒をくずす音といっしょに聞えたのである。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それなら彼処の遣戸やりどの前で、なるべく人目に付かないようにして待っていらっしゃい、と、そう云って女童が引込んでしまってから、平中は凡そどのくらいの間立ちつゞけていたことか。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
が、その部屋へ躍りこむと、平中は、遣戸やりどを立て切るが早いか、手早く懸け金を下してしまつた。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
瑠璃子はもう湯殿口の遣戸やりどをこぐって、次の、囲いのうちで、水をつかっていた。
遠くの遣戸やりどの向うから、例の小猿の良秀が、大方足でも挫いたのでございませう、何時ものやうに柱へ驅け上る元氣もなく、びつこを引き/\、一散に、逃げて參るのでございます。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして御堂建具みどうたてぐの重たい遣戸やりどを二尺ほどそっと開けた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠くの遣戸やりどの向うから、例の小猿の良秀が、大方足でもくじいたのでございませう、何時ものやうに柱へ駆け上る元気もなく、びつこを引き/\、一散に、逃げて参るのでございます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そこの遣戸やりどをスウと開けて
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何故と云へば遣戸やりどの向うに、誰か懸け金をはづした音が、はつきり耳に響いたのである。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さうして女の童の案内通り、侍従の居間の隣らしい、遣戸やりどの側に腰を下した。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その儘部屋の隅の遣戸やりどの裾へ、居すくまつてしまひました。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その儘部屋の隅の遣戸やりどの裾へ、居すくまつてしまひました。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)