追縋おいすが)” の例文
垣を越える、町を突切つッきる、川を走る、やがて、山の腹へだきついて、のそのそと這上はいあがるのを、追縋おいすがりさまに、尻を下から白刃しらはで縫上げる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夏子は、湯に濡れてツルツルした全裸のまま、恥しさも忘れて青年に追縋おいすがり、その腕を掴んだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
青年はすると、誘うまでもなく、酷く焦燥しながら、身悶みもだえをするようにして署長の背後うしろ追縋おいすがって行った。その後から、三人の刑事は、何か目交みまぜをして、薄笑いながら跟いて行った。
「そんなに騒いじゃ、犯人に気付かれますよ」と私は追縋おいすがって云った。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かえって高閣につかねられて省みる者も無く、一方俳諧の附合つけあいのこんなにまでわかりにくいものを、なお我々が追縋おいすがってものぞこうとするのは、決してただ時代が近いからという親しみだけではなかった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
とばかりおびえるように差出した三世相を、ものをも言わず引掴ひッつかんで、追縋おいすがって跡に附くと、早や五六間前途むこうへ離れた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あんまり男の薄情さ、大阪へも、追縋おいすがって参りましたけれど、もう……男は、石とも、氷とも、その冷たさはありません。口もかせはいたしません。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「度々御苦労ね、今じきに。」と照子の答に、使者面目を施して、ばたばたにて引返すを、此方こなたの侍女追縋おいすがりて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
追縋おいすがって染次が呼出しの手紙の端に、——明石のしみは、しみ抜屋にても引受け申さず、この上は、くくみ洗いをして、人肌にて暖め乾かし候よりせむ方なしとて
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは腰蓑こしみので、笠をかぶった、草鞋穿わらじばきの大年増が、笊に上げたのを提げて、追縋おいすがった——実は、今しがた……そこに一群ひとむれうなぎなまずどじょう、穴子などの店のごちゃごちゃした中に
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兇器きょうきが手を離るゝのをて、局はかれ煙草入たばこいれを探すすきに、そと身を起して、飜然ひらりと一段、天井の雲にまぎるゝ如く、廊下にはかますそさばけたと思ふと、武士さむらいしやりつくやうに追縋おいすがつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
山をくつがえしたように大畝おおうねりが来たとばかりで、——跣足はだし一文字いちもんじ引返ひきかえしたが、吐息といきもならず——寺の門を入ると、其処そこまで隙間すきまもなく追縋おいすがった、灰汁あくかえしたような海は、自分のせなかから放れてった。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飛退とびのひまに雀の子は、荒鷲あらわしつばさくぐりて土間へ飛下り素足のまま、一散に遁出にげいだすを、のがさじと追縋おいすがり、裏手の空地の中央なかばにて、暗夜やみにもしるき玉のかんばせ目的めあてに三吉と寄りて曳戻ひきもどすを振切らんと
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「熊のうじめ、畜生。」と追縋おいすがってと露地を出た。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さきになりて駈出かけいだせば、後よりせわしく追縋おいすがりて
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すぐに、カタカタと追縋おいすがって
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小県が追縋おいすがすきもなかった。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)