迂遠うえん)” の例文
手段のために主要な意志の表示が不自由になり、迂遠うえんになり、あるいは晦渋かいじゅうになるようでは、決して最上の手段といわれないのです。
何事もこのとおりにて、世の中の有様はしだいに進み、昨日便利とせしものも今日は迂遠うえんとなり、去年の新工夫も今年は陳腐に属す。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この教え方は、道も長いし、迂遠うえんなようであるが、落ちつく処へ落ち附くとかえって歩みはすみやかで、どんどんと捗取はかどるのであります。
いかに迂遠うえんな主人でもこう明らさまに書いてあれば分るものと見えてようやく気が付いたようにフンと言いながら吾輩の顔を見た。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
故に学問とはどんなものか、人は何のために学問に向わねばならぬかという問題は、迂遠うえんなようだがやはり最初に知っておく必要がある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
現代の日本の物理実験学を建てられた中村清二なかむらせいじ博士の「理学者の見たる千里眼問題」によると、先生たちはず「迂遠うえんなる学者」と言われ
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
著名なる学者方が選択して、これを続々刊行してなるべく広く知識を全国に別つ——これは迂遠うえんなことのようであるが、これ一番近道である。
吾人の文明運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
迂遠うえんな馬鹿々々しいやうな気がするが、しかし、真に理解して呉れるものゝ尠いといふ上に起る作者の嘆声としては、尤もなことであると思ふ。
墓の上に墓 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
迂遠うえんなものだ……」と彼は苦笑して、たびたび、それについて予言したことが、証拠だてられてくるのを愉快に思った。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その過程を煩わしくくどく記述してある書物というものを、どうして迂遠うえん悪丁寧わるていねいとより以外のものに思いされようぞ。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は(21)においてすでに大体の意見を申し述べた通りそういうことをいう人は形式上の完備を必要とする人で実際には甚だ迂遠うえんな人だと考えます。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
主君のためによきことならば、自分は独りぬきんでても申上げる、相談のうえなどという迂遠うえん誓言せいげんはできない。
さるを俳諧を捨て詩を語れと云迂遠うえんなるにあらずや、答いわく(略)画の俗を去だにも筆を投じて書を読しむ、いわんや詩と俳諧と何の遠しとする事あらんや(略)
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
こうも言って、彼が他人の感情に鈍感で、他人の恩恵を一図に善意にのみ受取っている迂遠うえんさを冷笑した。「ばか正直でずうずうしくなくてはできないことだ」
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
それは或は人生を知るには迂遠うえんの策だったのかも知れなかった。が、街頭の行人は彼にはただ行人だった。
「それぐらいのことが分らなくて女房の操縦が出来るもんか。文学者というものは案外人情に迂遠うえんだね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
高尚というのは悪い事でありますまいけれども中川さんの風流亡国論の通りに何でも風流がかった事を高尚と心得てその実は迂遠うえんな学科ばかり稽古けいこしたものです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そういう時に世人はよく理論と実際という常套語じょうとうごを持出して科学者の迂遠うえんを冷笑するのが例である。
物理学の応用について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして、印刷した紙に彼の姓名や金額などを書き入れた受取証見たいなものを貰った。なる程、これは非常に迂遠うえんな方法には相違ない。併し安全という点では最上だ。
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これこそは忘れてはならぬ右門流十八番中の十八番、一見迂遠うえんに見えて迂遠でない、遠回りしていって、事の起こりの根から探り出す名人独自のからめ手詮議なのです。
読者のなかには、僕のいうことがはなはだ子供らしい、迂遠うえんなことだ、世渡りの道を知らぬとなじる人もあろう。僕も甘んじていわゆる世渡よわたりの道にうときことを自信する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
なんの詮索もしなかったのは迂遠うえんで、その後夜ごとの火事にしても、江戸の諸方から一度に火の手の挙がる様子は、どう考えても、多勢の者が連絡して、八方から火を放つとしか思われず
書記官と聞きたる綱雄は、浮世の波に漂わさるるこのあわれなるやっこと見下し、去年哲学の業をえたる学士と聞きたる辰弥は、迂遠うえん極まる空理の中に一生を葬る馬鹿者かとひそかに冷笑あざわらう。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
繁雑なる手法からかつて活々いきいきした作が生れたことがあろうか。それは無益なる迂遠うえんに過ぎなく、その結果が貧弱でなかった場合は極めて少ない。そこには二重の損失さえ見えるではないか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
五次方程式が代数的に解けるものだか、どうだか、発散級数の和が、有ろうと無かろうと、今は、そんな迂遠うえんな事をこね廻している時じゃないって、誰かに言われているような気がするのだ。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あまりにも迂遠うえんなこととして恥ずかしい。
河豚食わぬ非常識 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
火消しの働きは至極迂遠うえんなものには相違ないが、しかし、器械の手伝いがないだけ、それだけ、仕事師の働きは激しかった。
寝耳に水——というほど、それに迂遠うえんだったわけではない。毛利勢の出動は、あらかじめ計算に入れてある。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今はまだ攘夷の時ではない」という、「攘夷説に拠ってまず国論民心を統一し」という、これまで秀之進が翹望ぎょうぼうしていた気持からすると迂遠うえんきわまるはなしだ。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これも一つは我邦わがくにの教育法が間違っているから何事も実際に迂遠うえんな人物ばかり出来るのですね。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
代助はこの迂遠うえんで、又もっとも困難の方法の出立点しゅったつてんから、程遠からぬ所で、蹉跌さてつしてしまった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さるを俳諧を捨てて詩を語れと云う迂遠うえんなるにあらずや、答えて曰く(略)画の俗を去るだにも筆を投じて書を読ましむ、いわんや詩と俳諧と何の遠しとすることあらんや(略)
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
なにも好んで俳句をそこまで引摺ひきずって行かねばならぬ理由はない。俳句は俳句として表現するに適当な思想内容があるはずである。其処そこに気がつかないというのは迂遠うえんなことである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かの女は、自分がすでに感じていることを今更云い出されるような迂遠うえんさを感じた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これはよほど迂遠うえんのようであるが、学校の教育よりほかにこれは望むところはない。
政治趣味の涵養 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
だが、うっかり手出しをしては、相手に要心させて、真の犯人を逃がして了うおそれがあるので、非常に迂遠うえんな方法だけれど、僕は自分の職業を利用して、子供だけを外へつれ出すことを考えた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と——いうも迂遠うえんな話で、すでに最前さいぜんから小屋の外には、おびただしい人の足音が、なにかヒソヒソささやきながらあらし先駆せんくのごとく、ひそかにめぐりめぐっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな迂遠うえんなことでは便たよりにならん、どうしても、木で彫るより仕方がないというので、東京中の仏師屋を歩き廻って木彫りの稽古をつけてくれる師匠を探して見たが
以前学校で大原の説を聞いた時分はナンダそんな迂遠うえんな事を言って何の役に立つものかと軽蔑したが社会へ出て今の世人の有様を見ると実に心の礼の欠乏しているのに驚くね。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この劇烈なる生活慾に襲われた不幸な国民から見れば、迂遠うえんの空談に過ぎない。この迂遠な教育を受けたものは、他日社会を眼前に見る時、昔の講釈を思い出して笑ってしまう。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私が卑近な平易な句作法をお話しいたしたことは、晦渋かいじゅう迂遠うえんな俳論をして諸君を一夜作りの大家にするよりも、諸君の良友をもって自らを任じておるゆえんだと考えるのであります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
迂遠うえんといえばいえるが、その道義に固められて来た頑固な一筋気は、物頭格より組頭、組頭よりは小頭、小頭よりは足軽草履取といったような末の者ほどそうであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大原「ウム、そんな迂遠うえんな方法を取らないでも近路ちかみちはいくらもある。小山の妻君が世話を ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
世間に通用しない仕事と見做みなされていることだから、そういう迂遠うえんな道へわざわざ師匠取りをして這入はいって来ようという人のないのは、その当時としてはまことに当然のことであったのでした。
同時にもっとも迂遠うえんな愛の実際家だったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが、争闘の意気ごみというものは、そんな迂遠うえんな進路に火を発するものではありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ふーム、では、万太郎の如き、迂遠うえんなまねをしていては駄目だの」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
常識はいつも探索に失敗と迂遠うえんな笑いを招く。道とばかり考えているから思いつかなかったが、そこは増上寺の寺領で、遠く麻布あざぶの台町まで林つづきである。人目にかからずに歩くには、屈竟くっきょうな道だ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの問題か。さりとは、貴公のほうが、よほど迂遠うえんだぞ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
迂遠うえんでござる、お考えがちがう」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)