軽捷けいしょう)” の例文
旧字:輕捷
腕も抜群ですが、何よりの特色はその軽捷けいしょうな身体で、もう一つの特色は、妨げる者は殺さずんばまない、鬼畜のごとき残虐性でした。
人ちがいなどするかといったていである。背にはおいを負い、軽捷けいしょうを欠いた扮装いでたちに見えるが、踏んまえている足は木が生えているようにたしかである。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事変の起りやすい狩場などでも、彼は軽捷けいしょうに立ち回って、怪我一つ負わなかった。その上に、忠利侯の覚えもよかった。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すなわち片手で自由自在に、大刀をふるうだけの膂力りょりょくあるもの、そうして軽捷けいしょう抜群の者とおのずかめられているのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
アラブ馬のもっともむべき特性は、その動作のしなやかな点で、他にこれよりも美麗駿速な馬種なきにあらざるも、かくまで優雅軽捷けいしょう画のごとく動く馬なし。
柔惰な享楽主義の生温なまぬるまくらをし、皮肉できわめて軽捷けいしょうでかなり好奇的で根本は驚くばかり冷淡な才知の生温い枕をして、暖かい木陰にうとうとと居眠るのはいかにも快いことである。
ことに身体動作の軽捷けいしょうさは神業のごとくで、慶安四年三月二十五日、将軍家光いえみつの上覧試合に阿部道世入道あべどうせいにゅうどうと立合った時などは、跳躍するたびにその衣服の裾が軒庇ひさしを払ったと伝えられている
松林蝙也 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大きな石が積み重ねられ、植木が片寄せられたままになっている庸三の狭い庭にも、えさりに来て、枝から枝をくぐっているうぐいす軽捷けいしょうな姿が見られ、肌にとげとげしい余寒の風が吹いていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小作りで、年の頃二十五六、少し三白眼しろめですが、色の浅黒い、なかなかの男前、なんとなく軽捷けいしょうで抜け目のなさそうな人間です。
「旺勢は避けて、弱体を衝く。——当然な兵法だな。——だがまた、装備を誇る驕慢な大軍は、軽捷けいしょう寡兵かへいをもって奇襲するに絶好な好餌こうじでもあるが?」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
学者これを鳥中の燕に比したほど軽捷けいしょうで、『呂覧』に養由基ようゆうき矢を放たざるに、猨、樹を擁してさけび、『呉越春秋』に越処女が杖を挙げて白猨に打ちてたなどあるは
殊に此の信澄は軽捷けいしょう無類の武術があまりうまくなり過ぎて、武術の師匠を冷遇したので、その連中が丹羽方へ内通したと云われるだけに、生きていたら山崎合戦に於ても
山崎合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何んたる軽捷けいしょう! 左門は、背後うしろざまに縁の上へ躍り上がった。構えは? 依然として逆ノ脇! そこへ柳が生えたかのように、しなやかに、少し傾き、縁先まで追って来た頼母を見下ろしている。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女ながら、稲妻小僧と言われた、恐ろしい軽捷けいしょうさ、しばらく平次も持て余しましたが、やがて匕首を叩き落すと、キリキリと縛り上げます。
安土あづちの城には、じぶんの主人福島市松ふくしまいちまつをはじめ、幼名ようめい虎之助とらのすけ加藤清正かとうきよまさ、そのほか豪勇ごうゆうな少年のあったことも聞いているが、まだこの竹童のごとく、軽捷けいしょう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういながら、再び猿臂えんぴを延して、瑠璃子の柔かな、やさ肩をつかもうとしたが、軽捷けいしょうな彼女に、ひらりと身体を避けられると、酒に酔った足元は、ふら/\と二三歩よろめいて
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
身体極めて軽捷けいしょうで、たちまち海上を歩んでかの島に到り、千万苦労してようやく私陀が樹蔭に身の成り行きを歎くを見、また、その貞操を変ぜず、夫を慕い鬼王をののしるを聴き、急ぎ返って羅摩に報じ
平次は何やら掴んでグイと引くと、一朶いちだの黒いものが手に残って、曲者はパッと飛びました。恐ろしい軽捷けいしょうな身のこなし。
子供のように軽捷けいしょうには降りられない。みどりの傾斜を下へ沈みかけてゆく彼の姿が、途中から答えていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつものしまあわせ、素足に草履、若さと軽捷けいしょうさは申分もありませんが、闇に匂うなまめかしさは、さすがに痛々しい姿でした。
軽捷けいしょうな戦闘隊をまず丘から降ろして、桂川の上下を見張らせ、荷駄、本隊、後軍とつづいた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう一つの特徴は覆面の下から見える左首筋に、小判形の真っ赤な痣のあることと、それから、恐ろしく手の利くことと、身体が人間離れがしているほど軽捷けいしょうなことです。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
軽捷けいしょうむひな伊賀者いがものばかりが、百人も小具足術こぐそくじゅつの十をとって、雨か、小石かのように、入れかわり立ちかわり、三人の手足にまといついてくるには、野武士のぶしの大刀などよりも
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父親蔵人は、老人らしくもない軽捷けいしょうさで、ヒラリと身体をかわすと、うるしのような街の闇に——。
張郃はよろこび勇んで、手兵五千騎、みな軽捷けいしょうを旨とし、飛ぶが如く、敵を追った。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
覚明の大きな体が、あんなにも軽捷けいしょうなるかと思われるほど、その行動ははやかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
麻裃あさがみしもを着た口上言いが一人、月代さかやきと鼻の下に青々と絵の具を塗って、尻下がりの丸い眉を描いておりますが、顔立は立派な方で、身のこなし、物言い、妙に職業的な軽捷けいしょうなところがあります。
富家ふうかいのこあぶらえ、見かけは強壮らしいが、山野の気性を失って、いつの間にか鈍重になっている。——我には、西境北辺に、連年戦うて、艱苦のきたえをうけた軽捷けいしょうの兵のみがある。何を
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山野を駈け馴れている野武士の軽捷けいしょうには、逃げきれるはずもなかった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
服装は雑多だが、足拵あしごしらえは、どれを見ても、軽捷けいしょうに馴れた装いである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後からそれをつけて行った者は軽捷けいしょうな旅いでたちで、まず服装なりのいい武芸者という風采、野袴のばかまを短くはき、熊谷笠くまがいがさをかぶり、腰には長めな大小をさし、それは朱色の自来也鞘じらいやざやであるように見られる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)