かたち)” の例文
ここにつどえる将校百三十余人のうちにて、騎兵の服着たる老将官のかたちきわめて魁偉かいいなるは、国務大臣ファブリイス伯なりき。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
が、ここに不思議なことと云うのは、それに意志の力が高まり欲求がみなぎってくると、かえって、かたちのうえでは、変容が現われてゆくのである。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何でも才つたなく学浅くしてかたちさへ醜くき男が万づに勝れて賢き美はしき乙女にこがれてとても協はざる恋路にやつるゝ憐れさをかこつたものださうな。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
私はこの美麗で優雅でかつかたちの奇抜な本品に、この雅ならざるのみならず余りにも智慧の無さすぎる平凡至極なその名がついているのを惜しみ
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
是故に父よ汝に請ふ、われ大いなる恩惠めぐみを受けて汝のかたちあらはに見るをうべきやいなや、さだかに我に知らしめよ。 五八—六〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
庭に面した露台ろだいの上には、若い孔悝が母の伯姫と叔父おじの蒯聵とに抑えられ、一同に向って政変の宣言とその説明とをするよう、いられているかたちだ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この怖れと、怒りと、驚きとの中にあって、なお自分の姿とかたちの取乱したのを恥かしく思うの余地がありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は貴婦人のかたちふけりて、その欵待もてなしにとて携へ来つる双眼鏡を参らするをば気着かでゐたり。こは殿の仏蘭西フランスより持ち帰られし名器なるを、やうや取出とりいだしてすすめたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
少くとも、ベートーヴェンとフランス近代楽の人気は、カペエのために奪われてしまったかたちである。
予は父母を愛するあたはず。否、愛する能はざるにあらず。父母その人は愛すれども、父母の外見を愛する能はず。かたちもつて人を取るは君子の恥づる所也。いはんや父母の貌を云々うんぬんするをや。
しかし若返るといっても、ただそれだけでは徒言いたずらごとである。はかない夢に過ぎない。鶴見は更に省察を重ねねばならなかった。そしてこう思った。これもまたかたちを変えた執著であろうと。
上に言うた通りわが邦でタツというはもと竜巻を指した名らしく外国思想入りて後こそ『書紀』二十六、斉明さいめい天皇元年〈五月さつき庚午かのえうまついたちのひ空中おおぞらのなかにして竜に乗れる者あり、かたち唐人もろこしびとに似たり
私達はその後この宮村さんの「連中」の定連のやうなかたちになつた。漱石先生の晩年、私が先生を引張り出して、幾度も市村座を見物させた時にも、私達は多くこの宮村さんの厄介になつた。
吉右衛門の第一印象 (新字旧仮名) / 小宮豊隆(著)
頭のかたちが動いてる
ここにつどへる将校百三十余人の中にて、騎兵の服着たる老将官のかたちきはめて魁偉かいいなるは、国務大臣ファブリイス伯なりき。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この火花はかの變れるかたちにかゝはるわが凡ての記憶を燃やし、我はフォレーゼの顏をみとめぬ 四六—四八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
さはへ、こはなさけ掛※かけわなと知れば、又甘んじて受くべきにもあらず、しかのみならで、彼は素より満枝の為人ひととなりにくみて、そのかたちの美きを見ず、その思切おもひせつなるを汲まんともせざるに
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その上、かたちも変われば、心も変わった。始めて娘と今の夫との関係を知った時、自分は、泣いて騒いだ覚えがある。が、こうなって見れば、それも、当たりまえの事としか思われない。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
はりねずみの慎、狼の捷、犬のあきらめ、ナグイルのかたちと、野猪の奮迅を兼ね持たねばならぬといったごとく、断じて行えば鬼神もこれを避くで、突き到る野猪の面には矢も立たぬという意かと思うたが
否、我とてもそのすぐなる心を知り、かたちにくからぬを見る目なきにあらねど、年頃つきあひしすゑ、わが胸にうづみ火ほどのあたたまりも出来いでこず。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
されどかくそろひて好き容量きりよういまだ見ずと、静緒は心に驚きつつ、蹈外ふみはづせし麁忽そこつははや忘れて、見据うる流盻ながしめはその物を奪はんとねらふが如く、吾を失へる顔は間抜けて、常は顧らるるかたちありながら
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すがたかたちやさしき白髪のおきなにて、ダンテの神曲ヂウイナ・コメヂア訳したまいきというヨハン王のおんすえなればにや、応接いとたくみにて
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すがたかたちやさしき白髪のおきなにて、ダンテの『神曲』訳したまひきといふヨハン王のおんすえなればにや、応接いとたくみにて
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しといわば弁護もやしたまわん。否、われとてもそのすぐなる心を知り、かたちにくからぬを見る目なきにあらねど、年ごろつきあいしすえ、わが胸にうずみ火ほどのあたたまりもできず。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
路は痘瘡とうそうのためにかたちやぶられていたのを、多分この年の頃であっただろう、三百石の旗本で戸田某という老人が後妻に迎えた。戸田氏は旗本中にすこぶる多いので、今考えることが出来にくい。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)