誰彼だれかれ)” の例文
「ほんとに、どうしてああ誰彼だれかれなしに寄せつけながら、その癖、自分の振舞いにちゃんと節度を保つことが出来るのでしょうね。」
其頃そのころ宗助そうすけいまちがつておほくの友達ともだちつてゐた。じつふと、輕快けいくわいかれえいずるすべてのひとは、ほとんど誰彼だれかれ區別くべつなく友達ともだちであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
伊藤は三日にあげず店に来て、信仰友だちである店員の山本や家人の誰彼だれかれに、宗教上の話をして帰って行くのであった。
「なんや、あれが馬鹿野郎いうのかいな。」と一人が、ひひと笑うと、連れて誰彼だれかれがまたどっとはやし立てた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ある時は同宿の誰彼だれかれの可愛らしい子供達をのせては、彼の少年時代の「風と波と」の唱歌を、声高らかに歌いながら、鏡の様な水面に、サッサッとオールを入れた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
暮方より同じ漁師仲間の誰彼だれかれ寄り集いて、端午の祝酒に酔うて唄う者、踊る者、はねる者、根太も踏抜かんばかりなる騒ぎに紛れて、そつみぎわに抜出でたる若き男女あり。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
このおぢいさんは、大そうえらい人だつたと、私の子供のじぶん、誰彼だれかれにいひきかされました。
私の祖父 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
その頃私は肺尖はいせんを悪くしていていつも身体に熱が出た。事実友達の誰彼だれかれに私の熱を見せびらかすために手の握り合いなどをしてみるのだが、私の掌が誰のよりも熱かった。
檸檬 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
いつもは男子絶対禁制きんせいの婦人浴場だったけれど、誰彼だれかれの差別なく、入口から雪崩なだれこんだ。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
けれど納まらないのは、同じ年頃の生意気ざかりが同室している小姓部屋の誰彼だれかれである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長兄は秋田の第十七聯隊から出征し、黒溝台こくこうだいから奉天ほうてんの方に転戦してそこで負傷した。その頃は、あの村では誰彼だれかれが戦死した。この村では誰彼が負傷したといふうはさが毎日のやうにあつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
すると、松山さんが、「ほう、大坂ダイハンはそんなに、女子選手のつうなんか」といったので、皆、笑いだしたけれど、ぼくには、そのときの、誰彼だれかれの皮肉な目付が、ぞっとするほど、いやだった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それまで主人の知己の誰彼だれかれが外国から女を連れて帰られて、その扱いに難儀をしていられるのもあるし、残して来た先方への送金に、ひどくお困りなさる方のあることなども聞いていたものですから
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
佐助どんも可哀かわいそうだし第一こいさんのためにならぬと女中の誰彼だれかれが見るに見かねて稽古の現場へ割って這入はいりとうさんまあ何という事でんの姫御前ひめごぜのあられもない男のにえらいことしやはりまんねんなあと止めだてでもすると春琴はかえって粛然しゅくぜんえり
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
写真は奇体なもので、先づ人間を知つてゐて、その方から、写真の誰彼だれかれめるのは容易であるが、そのぎやくの、写真から人間にんげんを定める方は中々なか/\六づかしい。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
叔父と千代さんとの関係は、円光寺にも村の誰彼だれかれにも私の祖父母たちにも知られていた。だが円光寺の和尚さんも、私の祖父母たちも、別にそれをやかましくは言わなかった。
一瞬の後には消えてゆくと極まった身というものは、思いの他、心やすい気がするのであったが、ふと、思いを妻の上にせ、臣下の者の誰彼だれかれにめぐらすと、卒然と、五体が涙におぼれる気がした。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前の夜、あなたに言い足りなかった口惜くやしさで、めずらしく朝から晩まで飲んでいました。そのうちぱらってしまって、船の酒場に入ってくる誰彼だれかれなしを取っつかまえては、くだをまきさかずきいていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
道では、逢う誰彼だれかれが、挨拶をして行った。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
実際先生は時々昔の同級生で今著名になっている誰彼だれかれとらえて、ひどく無遠慮な批評を加える事があった。それで私は露骨にその矛盾を挙げて云々うんぬんしてみた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
翌日あくるひ宗助そうすけ役所やくしよて、同僚どうれう誰彼だれかれこのはなしをした。するとみなまをあはせたやうに、それぢやないとつた。けれどもだれ自分じぶん周旋しうせんして、相當さうたう賣拂うりはらつてやらうとふものはなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その郷里の誰彼だれかれから、大学を卒業すればいくらぐらい月給が取れるものだろうと聞かれたり、まあ百円ぐらいなものだろうかといわれたりした父は、こういう人々に対して、外聞の悪くないように
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)